アイスボックス内の地球
| 私は仕事着の白衣のまま、脱出用ハッチから一人乗りのカプセルに乗って今や 死の星となりつつある地球を後にした。座席の傍らには、私が機内へ持ち込ん だ肩下げ式のアイスボックスがある。小さな四角い窓には地球が斜めになって 映っていた。窓を塗りつぶしてしまいたかった。今やこの星の中で生き残って いる者は私のみである。他の人間や、生き物はすべてあの星の中で核の餌食と なってしまっている。 泣くまいと努力すると、さらに涙は大粒になってこぼれ 落ちた。私はただ一人生き残ってしまった。でも私が地球から脱出したのには 理由がある。死ぬのが恐くておめおめと逃げてきたわけではない。傍らのアイ スボックス、これが今の私にとって唯一の希望となってしまった。この中には 地球上に存在した生物のDNAが冷凍されて積み込まれてある。 研究所で働いていた私は、同僚たちからこんな重大な任務を託されてきたのだ。 彼らの顔が生々しく蘇ってくる。しかし彼らはもうこの世にはいない。 |
| 私は黙ってアイスボックスの紐を握りしめた。自分の不幸を恨んでやろうと思 った。でも誰に?核を降らせた奴にか?だとしたらこの結果を決定したお偉い 方にだろうか、それとも直接ボタンを押した奴か。わからない。それでもない としたら?恨む対象は神か?バカらしい。私は大声で泣きながら笑い飛ばした。 神なんて私は信じなかった。神を全く必要としていなかったのに、なんで今さ ら神とやらを恨まなければならないのだ。もうそんなくだらないことは考えた くない、そんな堂々めぐりはごめんだ。今の私にはひとつの使命しか存在しな い。私がしなければならないのは、地球上の生命が棲める土地を探し無事にた どり着くこと、この小さな船に積み込まれている機械を使ってDNAを生物と して蘇らせることだけだ。それ以外のことは考えているだけで息が詰まる。 震える手で冬眠用のボタンを押した。こうすれば無用なことに頭を悩まされな くて済む。後はすべて機械が自動でやってくれる。私が再び起きあがる日には、 二度とこんな涙は流さないだろう。両手のひらを組んで瞼を閉じた。あの美し かった星は見まい。 「おやすみ・・・」 それだけ言うと深い眠りに就いた。 |