2017・5



 意外と知られていない?「信託」の活用と留意点!


  信託もいろいろ!そもそも信託って?
   高齢社会と信託の活用!
    気になる!信託で税金はどうなる

 

 投資信託、家族信託など信託にまつわる情報が溢れています。信託銀行で信託商品を勧められた方も多いでしょう。最近注目される信託を活用した財産管理や遺産承継とは?



【今なぜ「信託」なのか?】 


 2006年、信託法改正で!
 
もともと信託とは「商事信託」と呼ばれる営利目的の信託が一般的で、信託業法のもと、信託会社や信託銀行が行っていましたが、2006年に改正(翌年施行)され、営利を目的としない信託の仕組み(民事信託)が容易になりました。

<小泉内閣の規制緩和の一環>
 信託法は1922年に成立し、84年間改正されていなかった。小泉内閣のもと、規制緩和策の一環として構造改革を断行した結果、実現した。






「家族信託」が注目をあびる?
 商事信託に対し、民事信託は信託報酬を目的にしないため、信託業法の制限を受けずに信託行為が行えます。改正を機に民事信託が注目されて、その中でも家族間で行われる「家族信託」の活用が財産管理等に期待されています。
           








知っておきたい信託のしくみ
 
「信託は分かりにくい」という声が多いのですが、まずは基礎を押さえましょう。

<信託の登場人物は3人> 
【委託者】
預ける人
財産
【受託者】
管理運用する人
利益
【受益者】
運用利益をもらう人


   <信託するとどうなる>  信託の3つの機能
●財産管理 : 受託者は信託目的の範囲内で自由に財産を運用できる
●転   換 : 財産が信託受益権という権利になり、
          信託の目的の範囲内での転換・運用・処分が可能に。
●倒産隔離 : 委託者、受託者の倒産の影響を受けない







信託の起源は十字軍?
 信託の考え方は紀元前1805年にエジプトで書かれた書物に見られるほど昔から存在。

<起源は財産承継>
 中世ヨーロッパで十字軍の遠征に参加する兵士が信頼のおける友人を受託者として土地を信託し、帰還するまで、もしくは万一の戦死に備えて家族のために管理運用させて、その収益を兵士の家族に給付させ、所有地が没収されずに継承されるようにしたことが起源の一つとか。








信託の方法は3つある!
 「〇〇信託」という名称の氾濫で分かりにくくなっていますが、以下は信託方法の呼び名です。

契約信託  委託者と受託者で信託契約を結ぶことで信託がスタート。必ずしも公正証書にする必要はありませんが、税務調査等に備え、確定日付けの公正証書を作成する方がいい。
遺言信託  委託者は信託契約でなく、遺言書に「委託者が亡くなったら、信託を発生させたい」旨を記載。亡くなった時に信託効力が発生。
自己信託  委託者自らが受託者になるもの。信託設定後も本人が財産の決定権・裁量権を持つ。受益者も自分にすると1年で信託終了するので、受益者を複数にするか受益者の変更が必要。







遺言信託とは名ばかりの?
 相続税の増税もあり、将来の相続対策を考えた財産管理や分割への関心が高まっています。そこで契約件数が増加しているのが、信託銀行が請け負う「遺言信託」です。これは「信託」という名前こそ付いていますが、厳密には信託法上の「信託」ではなく、遺言の「文案・保管・執行」のサービスに過ぎませんが、信託銀行に任せるので安心だと誤解している方が多いようです。








【信託銀行の信託商品】 


 そもそも信託銀行とは?
 遺言信託以外にも、信託銀行には信託商品が満載です。信託銀行は信託業務を主に営む銀行ですが、近年、個人投資家や富裕層をターゲットにした営業攻勢が各社で過熱しています。

<我が国の信託銀行の歴史>
 明治以前にも、荘園で徴収した年貢米の管理や換金を商人に委託する行為はあったが、明治以降、従来の商習慣とは別に欧米の信託制度を導入。1922年旧信託業法が成立し信託会社は免許制に。43年兼営法で合併が進み、終戦時には7社に。93年金融制度改革で証券会社、普通銀行で信託銀行子会社の設立が解禁に。








 信託銀行の様々な信託業務
 信託銀行の信託業務は、他人財産を自己の名義で預かり、自己の財産と分別管理する機能を持っており、様々な業務で活用され、金融インフラとして欠かせないものとなっています。

<金銭から不動産まで>
金銭信託
商品名「ヒット」
 顧客(委託者)から預かった資金を手形割引、株、債券で運用して収益配当。
貸付信託
商品名「ビッグ」
 委託者から集めた資金を主な産業に長期的に貸付け、運用益を配当。
年金信託  企業や個人からの年金基金の運用。
マスタートラストもこの一種。
土地信託  地主の依頼で業務を代行し、ビルや住宅の建設・管理・運用をして、家賃収入から諸経費を差し引いて配当。
証券投資信託  一般に「投資信託」(ファンド)と呼ばれるもの。投信委託会社からの指示で証券投資の運用を代行する。






 非課税贈与制度が次々登場で!
 2013年、2015年の税制改正で子や孫への贈与税の非課税制度が創設されました。これらの制度は信託銀行との管理契約が前提となっていることから、改正に合わせて各種商品が誕生。高齢化社会の相続ビジネスに参入を目論み、遺言や生前贈与までもが商品化されて、今やドル箱商品に成長しています。




 ポイントは手数料無料!
 管理手数料が無料なのは、この信託商品で顧客の資産を囲い込むことが目的なようです。ちなみに「遺言代用信託とは、亡くなってから信託が開始する遺言信託と違い、契約時に預金等が信託財産になるため、遺産分割前に葬儀費用等が引き出せるのがメリットとか。

<贈与関連の信託商品>  三菱UFJ信託銀行
  発売日 備  考  最低額
遺言代用信託
「ずっと安心信託」
2012年
3月10日
葬儀費用が引き出せる 管理手数料無料  200万円
教育資金贈与信託
「まごよろこぶ」
2013年
4月1日
1,500万円まで非課税 10万円
暦年贈与信託
「おくるしあわせ」
2014年
6月1日
毎年の生前贈与 500万円
結婚・子育て
支援信託
2015年
4月1日
1,000万円まで非課税 300万円






 遺言信託のメリットに疑問の声!
 「高額な報酬だけ払って、相続トラブルにも対応してくれず、分割のアドバイスもなく、業務内容も相続人が自分でできることばかり」という声も。「初めから弁護士や税理士などの専門家に頼んだ方が良かった」と言う人も。なお、いくら遺言信託の費用が高額でも、相続税の控除対象にもなりません。






 遺産整理業務が一番儲かる?
 相続発生後に、被相続人が取引をしていた信託銀行から相続人が「遺産整理業務」を提案されたというケースが増えています。

<最低報酬100万円で加算方式>
 「銀行が相続手続きの一切をしてくれる」との触れ込みですが、報酬はかなり高額の設定。銀行はあくまでコーディネーターであり、分割協議書作成、名義変更、相続税申告は司法書士、税理士などの専門家が行い、専門家への費用は別途実費で発生します。



 後見制度支援信託で預金流出?
 相続関連ビジネスに注目しているのは、信託銀行だけではありません。高齢者の15%に認知症の症状があり、認知症患者の保有財産は100兆円を超えるといわれ、今や認知症の高齢者向けの信託商品も登場しています。

<億単位の預金が信託銀行に>
 成年後見人制度を利用する際に使うのが「後見制度支援信託」。後見人は弁護士が多く、預かった資産を信託銀行に移すケースが多いため、地銀から億単位の預金が都心の信託銀行へ流出する事態も発生。後見制度支援信託は2016年9月末時点で約4,727億円で、直近半年で26%増加。地銀は預金流出を警戒している。










【民事信託の活用と税金】


 遺言や後見制度の限界が!
 
超高齢社会の進展で高齢者は人口の4分の1を超え、認知症患者数は460万人とも言われ、その財産管理が問題に。従来の遺言や成年後見制度が行き詰まる中、家族に合った財産管理の形が作れ、オーダーメイドで柔軟な資産承継が可能になるとされるのが「民事信託」です。

<遺言書・成年後見・民事信託を比較>
財産活用 遺言書 成年後見  民事信託 
生前 守る
本人の為に活用
家族の為に活用  ×
相続後 遺す
先々に遺す   
●遺言の場合、1つ先の代しか決められない。
●成年後見を利用すると財産はすべて家庭裁判所の監視下、後見人が管理し(家族が後見人になれるとは限らない)有効な相続対策はできない。







 民事信託の活用例を考える!
 

<事例1> 将来、長男にアパートを継がせたい
 賃貸アパートを所有している。将来は妻、長男の順に相続させたいが、肝心の息子はアパート経営は素人。現在は年金とアパート収入で生計を立てているが、最近物忘れも多くなり、元気なうちに息子に管理ノウハウを学ばせたい。

 生前贈与なら確実に財産を渡せますが、家賃収入が無くなり生活資金枯渇の心配も。遺言の場合、自身の収入は確保できますが、老化で判断能力が無くなった場合の対応ができません。


<事例2> 中小企業オーナーにありがちな葛藤
 自身は元気なので、今、息子に株を譲ると息子に議決権と経営権が移ってしまうので心配。拒否権付株式(黄金株)を発行してもいいが、登記簿にも反映されて、いろいろと不都合。

 生前贈与で議決権や経営権が移るのも心配ですが、遺言で特定の子に引き継がせる場合、相続時に株価がどうなっているかも心配です。








税務の視点が欠けている?
 個人の財産承継以外に、法人での有効活用も注目されていますが、心配なのは信託の課税問題です。信託契約は節税対策ではありません。


<信託は受益者課税が大原則!>
 信託財産は受託者名義になりますが、実際に利益をもらうのは「受益者」なので、受益者に課税されます。
●受託者=受託者 : 財産移転の課税なし
●委託者≠受託者 : 委託者から受益者への贈与
                (相続による移転は相続税)

 事例1の場合、信託時点では受託者の長男は課税がなく、相続で受益者が妻、長男になるとその都度相続税の課税。
 事例2では信託時点で後継者に贈与課税となりますが、自社株対策等で評価を下げてからの実行が可能です。


<信託活用の相続対策の流行と衰退>
 以前の信託法では信託の相続課税対象が受益者のみのため、相続税回避が可能だった。信託財産を収益受益権と元本受益権に分け、相続税課税対象になる元本受益権の評価を下げて課税財産を圧縮する方法が流行。2007年改正信託法で委託者と受益者に法人課税や贈与課税、譲渡益課税が課されるようになり、実質的に信託活用の相続対策は封じられた。






登録免許税や不動産取得税は?
 民事信託は節税にならないと言われますが、財産移転時のいわゆる「流通税」は大幅な節税に。たとえば相続対策等でオーナー所有の不動産を法人に移転すると、個人は譲渡所得税、法人は不動産取得税がかかり、高額な税負担に。法人を受託者とした信託では信託時に不動産取得税はかからず登録免許税も5分の1で済みます。



<信託中の流通税は節税可>
 信託は所有権移転ではなく、信託終了時に最終的な受益者が「物権」に戻して取得し、その時に流通税を払うことに。





まだ本当の専門家がいない?
 信託を使った財産承継では遺留分にも留意する必要があります。信託契約書の作成や手続き、その他税務上の問題を含めて最終的な出口戦略まで関われる専門家がまだ少ないのが実情ですが、今後の普及を期待したいものです。








         

 中小企業の事業承継の実態は?―中小企業白書(2017年版)より
社長交代の実態
毎年3万5,000人が社長交代
 社長交代件数は2007年以降毎年3万5,000人前後で、社長の高齢化にも関わらず増えていないのが実態です。
親族外承継が5割を超えた!
 2015年の社長交代は3万5,235件で、うち46%が“同じ名字で生年月日が異なる相手”つまり子や親戚などへの交代です。中小企業でも、親族外承継は一般的になっています。
若返りが進みにくい親族外承継
 親族内承継した前社長の平均年齢は69.3歳と高めですが、子世代へ引き継ぐことで社長の年齢はいっきに20歳以上引き下げられます。
 一方、親族外承継時の前社長の平均年齢は63.7歳で若干若いものの、新社長の平均年齢が55.6歳と8歳しか若くなりません。せっかく事業承継しても、すぐに交代時期が到来することに・・・。



事業承継には準備期間が必要!
 事業承継とは、「経営資源や強みといった経営そのもの」と「株や財産といった資産」の大きく2つを引き継ぐことを意味します。
 中小企業庁の事業承継ガイドラインでは、事業承継のためには経営状況や課題を見える化した上で、経営改善など磨き上げのステップを必要としています。ちなみに親族内承継でなくM&A等社外へ引き継ぐ場合であっても、この作業は必要となります。

<親族内(従業員)承継に向けたステップ>
(事業承継ガイドラインより)
ステップ1 事業承継に向けた準備の必要性の認識
ステップ2 経営状況、経営課題等の把握(見える化)
ステップ3 事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)
ステップ4 事業承継計画策定
ステップ5 事業承継実行
ステップ6 ポスト事業承継(成長・発展)



事業承継を勧められたことは?
“誰にも勧められたことがない!”3人に1人
 事業承継に準備が必要なことを経営者自身が認識しないと、スムーズな承継は難しいですが、実態はまだまだのようです。経営や資産の引き継ぎについて、勧められたことがあるのは70代以上経営者では63%!3人に1人は勧められたことがないというのが実態です。
顧問税理士からのアドバイスが1位!
 中小企業経営者が事業承継を勧められた相手として最も多いのは、「顧問の税理士や公認会計士」。70歳以上の経営者の4割、50代、60代でも3割前後を占めています。

<経営や資産の引き継ぎを勧められた相手>
項   目 50代 60代 70代以上
1 位 顧問税理士等 27.3% 33.0% 39.8%
2 位 取引金融機関 18.5% 22.2% 25.4%
3 位 親族・友人・知人 8.8% 7.9% 12.1%
4 位 経営コンサルタント 7.8% 7.8% 8.8%
その他 他社経営者 4.8% 5.2% 4.4%
取引先経営者 4.3% 4.9% 4.9%
役員や従業員 4.7% 4.9% 4.1%



事業承継時に問題となっていることは?
8割は先代の生存中に事業承継
 事業承継(中規模法人)のきっかけは、①先代経営者の引退76.9%(先代が会長等として社内に残った(60%)、先代が社業から完全引退(16.9%)の合計)が最も多く、②先代の死去(17.0%)、③先代の体調悪化(6.1%)がこれに続きます。
他社での問題を参考に承継準備を!
 引き継ぎ時の問題として、「社内の人材不足」、「事業承継の準備期間不足」をあげる企業が目立ちます。また親族内承継では社長交代はしても、自社株引き継ぎが終わっていないケースも多く、相続税や分散した株式集約などが問題にあがっています。