2018・6



 3度目の正直?消費税引き上げ実施とその影響


  2度の延期に忘れかけた消費税増税?
   平成と歩んだ29年の歴史
    意外に知らない大改正点とは?

 天災と税務調査は忘れた頃にやってくる。後の世代を考えれば、「財政の健全化は待ったなし」で、わずか1年4カ月に迫った消費税の10%への増税~25%アップ~が実現に。

【消費増税ついに明記?】

 「骨太の方針」に明記!
 6月に閣議決定する「骨太の方針」には2019年10月の税率10%への消費税増税が明記され、増税対策も盛り込まれます。

<骨太の方針とは>
 正式名称は「経済財政運営と改革の基本方針」。予算編成や政策の方向性を示し、毎年6月に閣議決定。初めて打ち出したのは2001年の小泉純一郎政権で、郵政民営化などの看板政策を盛り込み、改革の原動力とした。民主党政権下は途絶えたが、12年末の第2次安倍政権が誕生してからは毎年策定している。


<過去の骨太の方針の課題>
2013年 脱デフレ・経済再生
2015年 経済再生なくして財政健全化なし
2017年 人材への投資を通じた生産性向上







消費増税、盛り込みは初めて!
 
19年10月の増税方針を骨太の方針に盛り込むのは今回が初めてで、安倍政権の財政健全化への取り組みの本気度を強調しています。一方で増税後の景気下振れを懸念し、景気対策についての方針も初めて示されています。

<骨太の方針~消費税増税関連の対策>
●2019年10月の増税実施
●自動車や住宅の購入支援を検討
●19~20年度の当初予算で機動的な対応
●増税後に事業者が自由に価格設定





苦い過去の教訓が・・・!
 政府が消費税増税対策を検討するのは、前回の2014年4月の増税時に経済を停滞させてしまった教訓があるからです。

<2度の延期の引き金に>
 前回の8%への増税時には、14年4~6月の実質個人消費が前期比4.6%も減少。翌7~9月期の実質成長率もほぼ横ばいにとどまり、その後の増税を2度延期する引き金となった。



2度あることは3度ある?
 相次ぐ不祥事が続き、9月の総裁選を控え、内閣支持率低下の中で、増税という不人気政策を実行できるのかという憶測もあります。

<今回は安倍首相が対策会議>
 安倍政権は過去3度、増税の可否を判断した。14年4月、8%に上げた時は財務省に経済対策を委ねた。15年10月、17年4月の増税判断は学者やエコノミストの有識者会議を開いて、延長の伏線に。今回初めて首相が対策会議を設置。





そもそも消費税とは?
 

<税収の22%を占める消費税>
 モノやサービスの消費に対して幅広く課される税金で、税金を納める者と実際の税負担者が一致しないものが「間接税」です。
   ◆直接税 : 法人税・所得税・相続税など
   ◆間接税 : 消費税・酒税・たばこ税など
欧米などでは「付加価値税」と呼ばれる。収入に課す所得税や法人税、財産に課す相続税と違い、世代や収入に関係なく幅広い課税が可能で、税収が景気動向に左右されにくいのが特徴。

 戦後日本の税制は「直接税」が中心だったが、経済の安定成長期に入り、社会保障などを賄うために幅広く課税する「間接税」が必要という認識は有権者には理解されず、何度も導入は断念された。





歴代政権の命運を左右!
 大平正芳首相は一般消費税導入を掲げて79年の衆院選で大敗し、80年の選挙中に他界。87年には中曾根康弘政権の売上税が公約違反で挫折。竹下登首相になり、89年(平成元年)4月に消費税(3%)が導入されたものの、リクルート事件もありわずか2ヵ月で政権崩壊へ。その後、橋本龍太郎首相が97年4月に5%への引上げ断行時には金融危機も重なり、増税後1年余りで退陣に追い込まれ、12年の与野党合意で10%への2段階税率引上げを決めた野田佳彦政権は半年後に政権交代へ。







消費税は悲願の税金?
 安倍首相は14年4月の8%への引上げは予定通り実行。その後の10%への増税は2度にわたって延期しましたが、その間、安倍政権は国政選挙では勝ち続けている状況に。

<平成とともに歩んだ消費税の歴史>
竹下内閣 1998年4月 消費税率3%で導入
細川内閣 1994年2月 7%の「国民福祉税」導入を表明、連立与党内反対で撤回 
村山内閣 1994年9月 5%への引上げを決定 
橋本内閣 1997年4月 消費税率5%に 
野田内閣 2012年6月 民主・自民・公明3党が増税(14年4月8%、15年
安倍内閣 2014年4月 消費税率8%に
2014年11月 10%へ増税を15年10月から17年4月に延期と表明
2016年6月 10%への増税を19年10月に延期と表明
2019年10月 消費税率10%に増税する予定









【10%への増税の影響は】 


 日銀の試算では22兆円!
 
日銀は5月に公表した展望リポートで2019年10月の消費税率の引き上げ後に増える実質的な家計負担の試算を明らかにしました。食料品への軽減税率導入などにより、1997年・2014年の過去2回と比べると4分の1程度の規模にとどまると言います。

<日銀が試算するのは初めて>
 引き上げられる消費税率2%分の家計負担は単純計算で5.6兆円。食料品への軽減税率で1兆円抑制され、教育無償化で1兆4,000億円負担が軽くなる。他の給付金などの影響も含めると負担増は2兆2,000億円に。






節約志向で消費は落ち込んだ!
 過去の例では、消費税が5%になった1997年度の負担増は8兆5,000億円、8%に上がった2014年度は8兆円に。いずれも増税後、家計は節約志向を強め、消費の落ち込みが顕著に。経済専門家は「購買力が落ち込み、日銀が目指す物価上昇にはマイナス」と指摘。社会保険料の負担増などが考慮されておらず、悪影響が試算より大きくなるとの見方も。






二兎を央ためには?
 住宅や自動車の購入者には減税を実施することで、買い控えを防ぎ、消費価格が急に上がらないようにする対策も打ち出すなど、増税ショックの軽減策が検討されています。首相は経済成長と財政再建の「二兎を追う」姿勢で、増税後の経済低迷を極力避けたい考えのようです。







あの手この手の増税対策?
 増税対策は消費者だけでなく、事業者向けにも。増税後に企業が一斉に商品価格を引き上げるのではなく、増税前からなだらかに反映できるように、まずは増税後の「消費税還元セール」を禁じた転嫁対策特別措置法が改正されます。小売業者には税込みの総額表示を推奨しており、消費税の存在を消費者が意識しにくい上、増税前から値上げしやすいとか。







増税時の海外事情は?
 

<海外では増税ショックは小さい>
 英国は11年1月に日本の消費税にあたる「付加価値税」の標準税率が17.5%から20%に上昇。増税前後は騒ぎがほとんどなく、国民の関心はキャメロン政権の財政緊縮策への不満だった。






消費税還元セール解禁の意味?
 14年の前回の増税時は「消費税還元セール」が禁止されたため、企業が4月に一斉に価格転嫁し、商品価格が大きく跳ね上がりました。

<消費税と還元セールの関係>
 97年の3%から5%の引上げ時、小売業者の一部は仕入業者に納入金額を値引きさせて還元セールを行った。増税で仕入業者がしわ寄せを受けたため、政府は14年の増税時には還元セールを禁止し、監視のため「転嫁Gメン」を設置。そのため、増税前の買いだめが行われ、1~3月の個人消費は8%伸びたが、4~6月は▲17%。

           










【改正点を再確認】 


 税率アップだけじゃない!
 2度の延期があったものの、改正内容は既に決定済みで、税率アップとともに新制度のスタートは待ったなしです。

<主な改正内容>  適用時期は段階的!
●標準税率10%        ●軽減税率8%
●インボイス制度の導入   ●簡易課税の見直し







 消費税導入以来の大改正?
 経過措置は認められていますが、23年からは本格的にインボイス方式(適格請求書等保存方式)変更されます。この改正は導入から30有余年で最も大きな改正になるかもしれません。

<インボイスは軽減税率導入の前提>
 現在は請求書等に適用税率・税額の記載は義務付けられていない。単一税率であれば、割戻し計算で税額が計算できるが、複数税率では無理なため、インボイス方式が軽減税率導入






 免税事業者はどうなる?
 インボイス制度が導入後、免税事業者からの仕入れは仕入税額控除ができなくなります。仕入れが同額なら、課税事業者は取引から排除される懸念があり、下請けなど企業相手が中心の免税事業者は、課税事業者の選択を迫られそうです。

<免税事業者の益税はなくなる>
 免税事業者からの仕入れ税額控除は段階的に縮小され、2029年10月からは不可に。全事業者の4割が免税事業者といわれており、その影響額は8,000億円に達するとか。



 国税の狙いは事業者「登録番号」!
 事業者は申請して診査を受け登録番号を確保しなければインボイスを発行できません。国税は「登録番号」導入で事業者や経済取引への管理強化を実現できるわけで、今回の改正はこうした隠された意図もあるようです。個人の財産や所得の把握はマイナンバーで、事業者向けには「登録番号」が有効ということに。

<適格請求書発行事業者登録制度>
 仕入税額が可能な「適格請求書(インボイス)を発行できるのは、適格請求書発行事業者に限られ、同事業者になるには税務署に申請して登録が必要。導入時から適用を受けるには23年3月末が申請期限。













         

 今年はどうする?生前贈与の活用あれこれ
暦年贈与の利用者が減少へ
 2016年中に暦年贈与で贈与を受け、税務署へ申告したのは388人と前年より1万6千人減少しました。相続時精算課税制度の利用者も前年より減少しましたが、贈与額自体は6,090億円と前年より増加しています。


教育資金贈与はお早めに!
 教育資金贈与の特例は、4年間で累計28万人が利用しました。一方で結婚子育て資金贈与の利用者数は6,000人弱と伸び悩んでいます。いずれの制度も使えるのは来年3月まで、利用するならお早めに!

<教育資金の一括贈与>
 30歳未満の子・孫への教育資金1,500万円までの贈与が非課税。資金を信託銀行口座に預け入れると同時に贈与が完了。教育費以外での使用、使い切れなかった部分は課税対象に。

<結婚・子育て資金の一括贈与>
 成人で50歳未満の子や孫への贈与1,000万円(結婚費用は300万円上限)まで非課税。贈与者の相続発生時の残高は相続税の対象。



どんな財産が贈与されている?
 贈与されている財産の種類を見てみましょう。年間110万円以下が非課税となる暦年贈与では、現預金が4割強を占めます。一方で、相続時精算課税制度は60歳以上の祖父母や親から成人の子や孫へ、最大2,500万円まで無税で贈与できるかわりに、将来その財産には相続税がかかる仕組み。
 贈与時の評価で将来相続税が課税されるため、値上がりの可能性のある土地や自社株などを次世代へ移転しておくのによく使われます。実際、全体の4割弱が土地の贈与、ついで有価証券(28%)、現預金(27%)となっています。



新事業承継税制の使い勝手は?
 10年限定の新しい事業承継税制特例がスタートしました。贈与された(相続した)自社株の贈与税(相続税)が、全額免除できる画期的な制度で、後継者が元代表者以外の家族から株を贈与してもらうのにも利用できるなど、使い勝手はよさそうです。ポイントは、“5年以内に都道府県に特例承継計画を提出”しておくこと。計画書には認定支援機関の所見も必要です。
 2027年までの贈与(相続)で制度が利用できます。社長の引退⇒後継者の社長就任⇒自社株贈与と計画的に実施すれば、スムーズな事業承継に活用する余地もありそうです。