自然誌

古典文庫

創始号 


はじめに

この酔狂な小冊子は、動物を所謂「博物学」的なとらえ方で、あくまでも実在を基礎に研

究、紹介した昔日の動物学者たちの忘れられた書物を探求し、かつ再評価するために、

こしらえたものである。したがって、現在ではまったく黙殺されている異例の動物学者と、

その作品の掘り起こしから、その作業は始まり、また、そこに帰着するのである。

1988(昭和63)年 10月20日

編輯並に發行 自然誌古典文庫(禁 轉 載)

代表者 近 藤  順

〒478-0017 愛知県知多市新知東屋敷22 木蓮堂古書店(愛知県公安委員会 第440号 書籍商)

List.html自然誌関連書目リスト

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自然誌古典文庫の集書についての基本的方針について 

1.大衆へのあゆみよりのある通俗書的なもの(学術専門書は第2義とする)。

2.教育臭の強いものは除外する。

3.博物学的な香り高き書とする。

4.著者については次に掲げるものが望ましい。

石川千代松、田中芳男、阿部余四男、高島春雄、古川晴夫、松村松年、岸田久吉

蜂須賀正氏、大島正滿、木村鬱麿、鹿野忠雄、内田清之助、田中茂穂、黒田長礼

ラマルク、ウォーレス、ベイツ、モリス、ネイピア、ライデッカー、など

5.動物園関連のものは全てにわたり望ましい。但し亀井一成、中川志郎、西山登志雄

、そして畑正憲、戸川幸夫のものは除外する。

6.なるべく、プレートの質が良く、なおかつ数が多いものとする。

7.年代としては昭和20年以前のものを中心とし、下っては、昭和35年あたりの動

物ブームのものにも注目する。

8.中国の動物に関する文献は通俗書、専門書をとわず集積する。

9.動物、とくに獣類を中心とする。

10.霊長類については特に東南アジア産のハクイザルについての文献収集を主とする。


動物園人にささげる100冊の自然誌古典    

 

NO   書    名       著 作 者 名   発行年  出 版 社  

 

1 動物と暮して四十年    黒川義太郎       昭 9 改造社     

2 動物談叢         黒川義太郎       昭 9 改造社     

3 通俗絵噺「動物の世界」  木村小舟        大 3 東亞堂     

4 動物たちと五十年     高橋峯吉        昭 32 実業之日本社  

5 動物の四季        北王英一        昭 31 文藝春秋新社  

6 動物物語         大島正満        昭 9 講談社     

7 動物奇談         大島正満        昭 11 講談社     

8 動物奇談         大島正満        昭 27 偕成社     

9 科学物語 南洋      大島正滿        昭 19 実業之日本社  

10 科學する動物園      吉田平七郎       昭 16 人文書院    

11 動物園日記        林 寿郎        昭 38 オリオン社   

12 犬と狼          平岩米吉        昭 17 日新書院    

13 二十世紀の新発見     現代の記録動物の世界1 昭 39 紀伊國屋書店  

14 変わりゆく動物界               2  〃  紀伊國屋書店  

15 野生動物の世界                3  〃  紀伊國屋書店  

16 動物を飼育する                5  〃  紀伊國屋書店  

17 動物たちの社会                6  〃  紀伊國屋書店  

18 動物園の歴史 日本篇   佐々木時雄       昭 50 西田書店    

19 続動物園の歴史 世界篇  佐々木時雄        〃  西田書店    

20 ゴリラを育てる      浅井力三        昭 42 毎日新聞社   

21 日本の動物 上巻     駒井 卓        昭 23 富書房     

22 動物学上著名な日本産動物 駒井 卓        昭 24 甲文社     

23 宮地伝三郎動物記     宮地伝三郎       昭 48 筑摩書房    

24 動物のこどもたち     八杉龍一        昭 26 光文社     

25 動物の心をさぐる     桑原万寿太郎      昭 31 慶応通信    

26 内外普通動物誌脊椎動物篇 秋山蓮三        大 2 興風社     

27 動物界の現象と人生    秋山蓮三        大 12 上野製作所出版 

28 動物への愛情       古賀忠道        昭 32 筑土書房    

29 世界の動物園めぐり    古賀忠道        昭 32 アルス     

30 私の見た動物の生活    古賀忠道        昭 15 三省堂     

31 動物と動物園       古賀忠道        昭 26 角川書店    

32 欧米動物園観察記     古賀忠道        昭 28 東京動物園協会 

33 動物園物語        福田三郎        昭 28 駿河台書房   

34 動物園物語        福田三郎        昭 32 東京ライフ社  

35 動物園日記        福田三郎        昭 16 中央公論社   

36 実録 上野動物園     福田三郎        昭 43 毎日新聞社   

37 動物園での研究      高島春雄        昭 16 研究社     

38 動物渡来物語       高島春雄        昭 30 学風書院    

39 季節の動物話題の動物   高島春雄        昭 31 内田老鶴圃   

40 動物の冬ごもり      高島春雄        昭 26 岩崎書店    

41 滅びゆく動物たち     高島春雄        昭 32 中央公論社   

42 珍しい動物たち      高島春雄        昭 36 教養文庫    

43 南の動物         古川晴男・高島春雄   昭 17 光風館     

44 動物物語         高島春雄        昭 62 八坂書房    

45 動物の生態        鈴木哲太郎       昭 18 高田書院    

46 動物を語る        鈴木哲太郎       昭 14 宮越太陽堂書房 

47 動物夜話         鈴木哲太郎       昭 16 高山書院    

48 動物界の不思議      谷田専治        昭 13 偕成社     

49 大東亞の動物 哺乳類   徳田御稔        昭 19 精華房     

50 支那哺乳動物誌      阿部余四男       昭 19 目黒書店    

51 動物閑談         阿部余四男       昭 17 三省堂     

52 動物学通論        阿部余四男       昭 10 三省堂     

53 動物界の観察と考察    阿部余四男       昭 23 日本出版社   

54 趣味の動物界       伊藤 隼        大 13 モナス     

55 趣味深い動物の生活振り  臼井勝三        大 15 慶文堂     

56 南洋の猛獣王国      和田民治        昭 17 田中宋栄堂   

57 家畜文化史        加茂儀一        昭 12 改造社     

58 動物園          小泉 丹        昭 5 岩波書店    

59 動物園          石川千代松       昭 3 アルス     

60 趣味の動物        谷津直秀        大 7 實業之日本社  

61 生きもの百態       大島 廣        昭 34 緒方書店    

62 動物談義 群盲探象の説  満尾君亮        昭 22 乾元社     

63 密林の神秘        蜂須賀正氏       昭 29 法政大学出版局 

64 南方動物の話       池田嘉平        昭 18 日本出版社   

65 南洋動物誌        三吉朋十        昭 17 モダン社    

66 動物奇觀         安東禾村        昭 16 磯部甲陽堂   

67 戦線の博物学者      常木勝次        昭 17 日本出版社   

68 代表的林棲哺乳動物ホンザ 岸田久吉        昭 28 農林省林野庁  

  ル調査報告                                

69 猿            澤 塵外        昭 16 自刊      

70 山と雲と蕃人と      鹿野忠雄        昭 16 中央公論社   

71 北満野生哺乳類誌     南満鉄編        昭 14 興亞書院    

72 鮮満動物通鑑       村田鬱麿        昭 11 目白書院    

73 東亞物産史別録東亞動物志 井坂錦江        昭 18 大東出版社   

74 動物觀察記        阿部 襄        昭 18 和光社     

75 動物と人生        宮島幹之助       大 2 南山堂書店   

76 萬葉動物考        東 光治        昭 18 人文書院    

77 きつつきの路       内田 亨        昭 27 東和社     

78 猿の愛情         間 直之助       昭 29 法政大学出版局 

79 松村松年自伝       松村松年        昭 35 造形美術協会  

80 恐 龍          ロイ・アンドリュース  昭 33 鳳映社     

81 動物園の博士       L.Nウッド      昭 25 創元社     

82 人間及び動物の表情    ダーウィン       昭 5 春秋社     

83 動物哲学         ラマルク        昭 63 朝日出版社   

84 アマゾンの博物学者    ベイツ         昭 17 改造文庫    

85 ラプラタの博物学者    ハドソン        昭 9 岩波文庫    

86 生物の世界        ウォレス        昭 17 赤木春之訳   

87 熱帯の景観        ウォレス        昭 17 創元社     

88 物語 世界動物史 上下  H・ヴェント      昭 49 平凡社     

89 動物たちは何処へ行く   ベルンハルトグルチメク 昭 32 講談社     

90 動物の子供時代      ミッチェル       昭 16 創元社     

91 動物群像         ブウレンジャー     昭 15 三笠書房    

92 野生動物の楽園      エス・スクレビッキー  昭 34 白揚社     

93 大陸の野生動物      シニトニコフ      昭 34 法政大学出版局 

94 猛獣使いの回想      ボリス・エーデル    昭 31 理論社     

95 密林から来た養女     キャシイ・ヘイズ    昭 28 法政大学出版局 

96 野生動物記        ヘスティングス     昭 14 三笠書房    

97 東印度諸島の生物保護と保 ダムメルマン      昭 19         

  存                                    

98 ギネスワールド動物    ジェラルド・ウッド   昭 57 講談社     

99 アリストテレス全集7810 アリストテレス     昭 44 岩波書店    

100 世界の動物地圖      ボンナー        昭 18 富士書店    


解題篇

1.2.『動物と暮して四十年』『動物談叢』

黒川義太郎年譜

慶応2年(1866)8.16江戸番町に生れる。

明治11年(1878)千葉県朝夷郡黒岩小学校卒業後上京。東京四谷私立農林学校予備科を経て

明治25年(1892)7月帝国大学農科大学獣医学科乙科(実科)卒業。

7.15帝室博物館傭を申付けられ天産部付属上野動物園に勤務

明治31年(1898)6.30帝室博物館技手に任ぜらる。

明治40年(1907)6.11動物園主任を命ぜらる。

大正12年(1923)12.28正七位に叙せらる。

大正13年(1924)1.26在職多年により御紋章付銀盃を下賜せらる。

2.1勲七等に叙せられ瑞宝章を授けらる。

*なお、同日、皇太子殿下御成婚記念として動物園は東京市に下賜され、東京市技師に任ぜらる。

昭和3年(1928)10.15天皇陛下が来園し巡覧の際、説明にあたる。

5年(1930)この頃からたびたび病床につく。

6年(1931)3.20動物園開園50周年記念にあたり東京市から表彰。

7年(1932)病気療養のため休職。

8年(1933)1.27退職。

9年(1934)「動物談叢」「動物と暮して四十年」刊行。

10年(1935)9.20没。70歳。

この二著は動物園人ならば必ずもっていなければならない本。

「動物談叢」は昭和49年に五月書房から複刻版が刊行されているので探求されたい。

また黒川嶺南名義で、「少年世界」等の雑誌に動物エッセイを書いている。

3.通俗絵噺『動物の世界』木村小舟

雑誌「少年世界」の編集者であり児童文学者である著者が当時の博物学的情報を

駆使して書いた動物通俗書である。序文を石川千代松、巌谷小波、そして前出の黒川嶺南が書いている。

プレートの質が良く、当時の児童向動物図鑑としては上出来。

同著者には、「少年文學史明治篇(上下別)」(昭18年童話春秋社刊)、「新昆虫記」(昭24年推古書院刊)などがあり、

「少年文學史明治篇」の別巻には前掲の黒川義太郎との思い出が描かれている。

4.『動物たちと五十年』高橋峯吉 

新潟県長岡の生れ、明治39年に上京し、同年12月5日から上野動物園の飼育係りと

して働く(正式な辞令は明治40年1月17日付「帝室博物館付属動物園畜養園丁」)

以後、昭和32年3月末まで50年にわたり飼育係として動物園の第一線で働いた人の

記録である。日本に最初に来たキリンについての担当者レベルの話など興味深い話

がこの小著に満載されている。

5.『動物の四季』北王英一

名古屋の動物園についての文献は意外と少ない。それはおそらく「東山は職人、上

野は技術者」ということが言われたように、データに基づく「研究による飼育」で

はなく、経験に基づく「カンによる飼育」が伝統的に行われていたことによるもの

と思われる。北王英一は明治33年に京都で生れ、牧場主になる予定で大阪府立農学

校獣醫畜産科を卒業するも牧場はすでに失敗しており、大阪市動物園に就職し、そ

の後、名古屋鶴舞公園にあった名古屋動物園に大正12年に入園、昭和12年の東山動

物園建設事業の中心となった初代園長である。

6.7『動物物語』『動物奇談』大島正満

大島正満は『大東亞共栄圏毒蛇解説』(昭19年北隆館刊)『魚(脊椎動物大系)』

『人類の進化』(昭16年河出書房刊)など多数の著作があるが、最も有名なものと

してこの書がある。特に戦前、戦中派(少年倶楽部世代)にとって、この本は山中

峯太郎、佐藤紅緑、南洋一郎、そしてのらくろ上等兵とともに愛読されたものだか

らである。こうした児童向けの動物通俗書を読むにつけ、著者大島正満の博物学者

としての面目躍如たるものがあり、当時の大東亞共栄圏幻想がいかに、動物学では

なく博物学を復活させたかがありありとわかる。

8.『動物奇談』大島正満

これは、戦後判の児童向けの動物通俗書である。ハーバード大学付属比較動物学博

物館のサムエル・ガーマン博士(鮫、ガラパゴス象亀の研究の世界的権威)を訪ね

、著者の先生であったジョルダン博士、ルイ・アガシー教授のことなどを述懐する

くだりからはじまる。そして、「『人にたよるな、書物にたよるな、ただ深く自然

をまなべ』このとうとい精神を、このささやかな書を手にする若い少年少女の心に

うえつけたいとおもう。」と結んでおり。博物学的動物学の啓蒙書である。

9.『科学物語 南洋』大島正満

この本は前記6.7以上に大東亞共栄圏幻想が究極にまでいたっており著者のこと

ばから察しても、「太平洋の要である我が大日本帝國は、今やその存亡をかけて、

聖き水域を掠めた者供の撃攘に邁進しつつあるとともに、多年白人共に虐げられた

東洋民族の開放を志し、撃ちてし止まん決意を以てこの聖戰に從っているのです。

我々はこの聖戰を勝抜くために、苛烈な戰が戰はれてゐる水域の認識を新たにし、

盟主として我等が導いて行かねばならぬ民族達の有様やその國土に就いても、十分

な知識を具えて置かなければなりません。南十字星を仰いだ私は、特に青少年達に

要望します。好奇心をかなぐり棄て、科学する心をもって南の風物に接し、その認

識を深めて將来に資せんことを!(以下略)」と、かなりボルテージが高い。

10.『科學する動物園』吉田平七郎

箱入の瀟酒な単行本で昭和16年に京都の人文書院から刊行されたもの。

この本の内容は表題のとおり動物園を動物学的に解説する啓蒙書で、この時代に書かれた

ものとしてはデキ過ぎの感じがする。

序文には

<動物の好きな子供達が、毎日全國の動物園で、又学校の先生や家庭の皆様に色々面白

い質問を發します。其こそ貴重な科學する心の芽生へでありながら、其を導いてやらない

で、摘みとってしまふやうな非科學的な解釋や、低級な讀物を與へて、彼等が決して滿足

するものではありません。何か適當な動物の見方、見せ方と云った、何時どんな質問を受

けても、正しく答へてやれるだけの、又自ら進んで彼等が研究、觀察の出來る良き指導書

が欲しいと豫て思ってゐました。幸ひ世界的の權威者ジュリアン・ハックスレーの「動物

園にて」と云ふ大變手頃な小冊子が見附かり、我國でも、私は其に負けない心算で、動物

學上の重要な原則を出來るだけ簡単に説明して、良く解るやうに、うんと寫眞や圖解を入

れて、やっと「科學する動物園」を御目にかける事になりました。>とあり、動物園が子

供や大衆相手の娯楽機関に終わらせたくないという著者の思想が一貫して流れている。

第1章 動物と食物

1.象の食糧 2.ライオンの食物 3.肉食動物とは 4.草食動物とは 

5.舌の長い動物 6.嘴のいろいろ 7.蛇の敵 8.食ふか食はれるか

9.動物の護身術 10. 常時と非常時   

第2章 動物の色彩 (内容省略)

第3章 動物の蕃殖 (内容省略)

第4章 動物の原産地(内容省略)

第5章 動物の進化 (内容省略)

第6章 動物園問答 (内容省略)

第7章 十二支の動物(内容省略)

第8章 むすび

同著者により『動物園から』(昭16年人文書院刊)という先見的な名著も出ている

。著者は『萬葉動物考』の東光治の実弟で、教育者。当時としては画期的な、動物

園論。また児童向けに『動物の生活』(昭22年文祥堂刊)という著作もある。  

11. 『動物園日記』林 寿郎

明治45年1月神奈川県横須賀に生れる。私立聖学院高校から東京大学理学部に

昭和12年卒業と同時に上野動物園調査課に勤務

昭和23年同園企画係長、昭和26年からアフリカのケニヤへ動物捕獲購入に出掛ける

昭和27年飼育課長に就任

昭和33年多摩動物公園園長となる。

昭和35年11月東大の小川鼎三、札幌医大の山崎英雄らと「雪男探検隊」としてヒマ

ラヤを踏査。

昭和37年古賀忠道園長の後を受継いで上野動物園園長に就任

昭和41年3月自動車事故を起こし、任期半ばにして上野動物園を退職。その後、富

士山麓に自然動物園をつくるため山梨県須走に山小屋を建て、孤軍奮闘するも、

カモシカなど野生動物に対する餌付けが自然破壊とみなされ、夢はついえた。

昭和61年11月没。74歳

同著者により、『アフリカの猛獣狩』(朝日新聞社刊)、『動物と人間』(昭32、

読売新聞社)、『動物園夜話』(昭33、法政大学出版局)、『雪男ーヒマラヤ動物

記』などの著作がある。

12. 『犬と狼』平岩米吉 

動物文學會の季刊「動物文學」主筆であり、日本狼のほぼ完璧な研究史を完成させ

た。昭和5年から犬科動物の飼育と研究に専念し、「平岩犬科生態研究所」を設立

した。飼い犬についての著作も多数ある。

13.14.15.16.17. 『現代の記録 動物の世界』

動物に関する啓蒙通俗書の中でも出色の叢書である。第1.2巻を浦本昌紀、小森

厚、小原秀雄、第3巻を小原秀雄、第5巻を小森厚、第6巻を小原秀雄が執筆して

いる。それに加えて、動物園関係者の協力のもとかなり実在的な内容に富んでいる

。なお、第4巻は「鳥類の生活」で、何故か流通数が少なく全集のキキメである。

18.19 『動物園の歴史日本篇』『続動物園の歴史世界篇』佐々木時雄  

動物園屋のバイブルである。事務畑の人間が突然、京都市立動物園の園長になり、

一念発起して動物園学をおさめた報告書のごときものである。これを読めば、動物

園とは何か、動物園のあるべき姿についてほぼ理解でき理論武装できる。これを読

んでいない動物園関係者は単純肉体労働者もしくは特異なアルチザンとしてしか意

味がない。    

20. 『ゴリラを育てる』浅井力三

名古屋近郊で成長した、昭和35年生れ以前の世代にとって、東山動物園のゴンタ、

オキ、プッピーの3頭のゴリラショーは実に思い出深いものがある。昭和43年6月

に中止されるまで、東山動物園の名物として、このゴリラショーは君臨した。私の

父が名古屋市役所の土木局に勤務していた関係から(東山動植物園は当時土木局の

所管であった)毎年、春・秋には必ず、互助会の優待で東山へ行ったものである。

当時の東山での私の興味はこのゴリラショーとコンクリの恐龍と、爬虫類、そして

植物園内にあった昆虫館であった。特にゴリラショーの浅井さんの拍子木の音が聞

こえると一目散にピット式的(視線からかなり低い位置での展示)なゴリラ舎にか

けつけたものだ。この記録写真集はゴリラショー(飼育)の集大成とも言えるもの

で、神経質な類人猿の飼育記録としても第1級のものである。

なお、ここで東山動物園関連の書籍を2.3揚げておく。『東山動物園日記』 

朝日新聞社社会部編、ペップ出版、昭52年刊)『カバ家の庭には人間が見える』(

鬼頭忠、PHP研究所、昭56年刊)『素顔の動物』(大石孝、黎明書房昭32年刊)

21.22 『日本の動物 上巻』『動物学上著名な日本産動物』駒井 卓

京都大学理学部動物学科の古くて偉い先生の書いた日本産の動物通俗書である。通

俗書とはいっても日本の動物について非常にコンパクトにまとめられた好著である

。21は上巻しか出ておらず、下巻にあたるのが22である。版元も発行年も異なって

おり、探求書としてはややこしい本である。同著者により、「ダーウィン伝」(昭

7年改造社刊)「人間の遺伝」(昭17年創元社刊)「生物進化学」(昭23年培風館

刊)などがある。

23. 『宮地伝三郎動物記』宮地伝三郎

財団法人 日本モンキーセンターの初代所長で、その設立に深く関与した。

息子さんも名古屋鉄道の開発系の重鎮として、長く君臨しておられた。

京都今西動物学派の流れにあり、フィールドワークを中心とした動物学(霊長類学)である

24. 『動物のこどもたち』八杉龍一

児童向けの動物書であるが、A.Portmannの理論を基礎に就巣性と離巣性と動物の体

制の分化との関連をわかりやすく解説してある。プレートの数も多い。

25. 『動物の心をさぐる』桑原万寿太郎

明治42年  東京に生れる。

昭和8年  北海道帝国大学理学部動物学科卒

昭和19年  同助教授

昭和24年  理学博士の学位取得

九州大学理学部生物学科開設とともに同学教授

<専攻>動物感覚生理学

<主著>「ミツバチの帰巣」「昆虫の感覚」「ミツバチの世界」

*本書は「教育と医学」に連載されたものに加筆したもの。

26.27 『内外普通動物誌脊椎動物篇』『動物界の現象と人生』秋山蓮三

両書とも博物図鑑の動物編といった趣の本で、当時の内外の博物図鑑からプレート

を転載、模写し、記事については「動物學雑誌」ほか当時の動物学界の重鎮の著作

から引用、構成したもので、特に26については1279頁という大部の本で編著者

の驚くべき苦労のあとがにじみでている。26は昭和になってから改訂版が出ている

が、プレートのバラエティさが無くなっている。 

27は教育用の標本や模型、顕微鏡などを製造販売する会社から出版されたもので、

26に比べ解説記事が詳細になっており、プレートの質も良くなっている。

同著者により、「哺乳動物」という本も出ているが未見である。雑誌「科學世界」

にも執筆している。

28. 『動物への愛情』古賀忠道

動物園屋の神髄として、あまりにも有名である。経歴、詳細については東京動物園

協会発行の「どうぶつと動物園」の古賀忠道追悼号を参照されたい。ところで、戦

中の古賀忠道の動向であるが、『思い出の昭南博物館』(コーナー著中公文庫)等

によれば、昭和17年、シンガポールが陥落し、南洋の生物学資料完璧にが保存され

ていたラッフルズ博物館(当時は昭南博物館)に徳川義親館長のもと羽根田弥太、

本田正次、江崎梯三、郡場寛などの学者とともに派遣され、日本軍政監部獣医事業

部司政官として熱帯・亜熱帯地方の剥製動物のコレクション視察ならびに生物学者

天皇陛下に献上するためのマラヤの鳥、軟体動物、海生動物の標本収集を目的とし

ていた。その他、ビルマのラングーン動物園から放たれた動物(キリンなど)を捕

獲して東京に送る作業をしていたという。南方共栄圏幻想の博物学時代の真直中に

古賀忠道も居たのである。

本書は戦後の上野動物園での記事を中心にまとめられた好著で「動物とともに30

年」など自伝的なエッセイも含まれている。表紙はデトロイト動物園の北極熊の放

養施設の写真である。

29. 『世界の動物園めぐり』古賀忠道

「どうぶつと動物園」紙上に連載されたものを児童向けに加筆、再構成したもので

本書のほかにも32「欧米動物園視察記」(東京動物園協会・昭28年刊)、「世界の

動物園」(偕成社・昭31年刊)がある。

30. 『私の見た動物の生活』古賀忠道

戦前に刊行された著作で、飼育に関する専門書的な内容である。『私は何時も考へ

て居る。凡百の事柄に對する吾々の對策は、常に其對象を充分に研究、研討するこ

とにより、即ち其本質の充分なる理解、把握によってのみ初めて建て得られるもの

であると。私は此處にその様な考の下に私達が觀察したものの一部を集めてみた。

(後略)』とあるように学術的な野生動物学書といえる。

31.『動物と動物園』古賀忠道

「古賀動物園長の動物愛の白書」と帯にうたわれているように、様々な雑誌に発表された

動物エッセイを纏めたものである。「お猿電車」のチーちゃんが園長の黒々とした髪の毛を

クシャクシャにしている表紙写真がすこぶる可愛い。この写真が貴重(笑)

32.『欧米動物園視察記』古賀忠道

1951年6月にアムステルダムで開催された国際動物園長連盟年次総会への出席にあわせて

55日間かけてオランダ、ドイツ、スイス、フランス、イギリス、アメリカの動物園、水族館を

視察した記録である。東京都公園緑地協会の機関紙「公園緑地」に掲載されたものを纏めたもので

東京動物園協会が頒布したもの。内容的には、動物園学といった領域の業務用の研究論文で

彼の基本コンセプトである「動物園は文明のバロメーターである」「動物園の目的は教育、慰安、

研究の三つ」の立証という文脈である

古賀忠道刊本リスト(抄)

書   名         刊行年  出版社など        

1 動物園1(科學寫眞叢書)    昭 8 アルス           

2 上野動物園と黒川翁       昭 12 東京動物園協会       

3 動物飼育法(生物学実験法講座) 昭 14 建文館(古川晴男らと共著) 

4 私の見た動物の生活       昭 15 三省堂           

5 動物園             昭 18 毎日新聞社         

6 動物と動物園          昭 25 角川書店          

7 どうぶつのはなし        昭 26 評論社           

8 動物園             昭 27 筑摩書房          

9 欧米動物園視察記        昭 28 東京動物園協会       

10 栽培・飼育法 生物学実験法講座 昭 30 中山書店(共著)      

11 世界の動物園          昭 31 偕成社           

12 むかしといま上野動物園     昭 32 三省堂(高橋峯吉との対談) 

13 世界の動物園めぐり       昭 32 アルス           

14 動物への愛情          昭 32 筑土書房          

15 動物は見ている         昭 32 利根文庫          

16 動物の図鑑  学習図鑑シリーズ 昭 33 小学館           

17 人間と動物           昭 34 銀行文庫(講演速記)    

18 動物の愛情           昭 34 商工財務研究会       

19 動物園夜話           昭 41 雪華社           

20 自然と野生動物         昭 44 (財)社会教育協会     

21 動物園での観察         昭 45 岩崎書店          

22 古賀忠道写真集         昭 45 インパルス         

23 私の動物誌           昭 53 東京書籍          

24 動物教室            不明  日本書房

 

33.34.『動物園物語』福田三郎

明治27年 東京に生まれる

大正10年 東京農業大学高等科選科卒業

大正11年 帝室博物館付属上野動物園に動物園掛として勤務

その後飼育課長を経て

昭和16年8月から昭和20年10月まで園長代理を務める

昭和27年 退職と同時に東京動物園協会嘱託となり「どうぶつと動物園」の編集を手がける

本書は戦前から戦中にかけての、筆者が飼育にあたった動物たちについての記録で、古くは

明治30年代の記録から、戦中の動物殺処分についても書かれている。

33は改訂新版であるが、挿入プレートがすべてカットされている。

35.『動物園日記』福田三郎

戦前に刊行された児童向けの動物園啓蒙書である。内容は飼育日誌を児童対象に

平易にしたものでかなり詳細にわたり解説されている。

『在来の科學讀物は、その多くが無味乾燥な概論風なもので

児童に知識の強要をなしているに過ぎない。本当の科學精神の涵養は、もっと児童の生活に

根を下ろしたもの、児童の日常生活の中に知識の眼を開かせて行くものでなくてはならぬ。

(中略)この本を讀んだ児童が、この次動物園に行った場合、やはり動物を觀る眼がちがって

来ると思ふ。そこに正しく深い科學精神への發芽があるのではないだろうか』とはしがきに

あるように、動物園現場からの野生動物学書である。

挿絵と装丁は「フクちゃん」でおなじみの漫画家、横山隆一である。

36.『実録 上野動物園』福田三郎

戦中の動物殺処分についての克明な記録をはじめ、著者の31年間にわたる

飼育担当者としての動物に関する逸話、事件記録が綴られている。

なお、著者が退職して後のことを古賀忠道が15頁にわたり書いている

福田三郎の他の刊本としては、「動物園(児童百科)」「動物園のはなし」がある

37.『動物園での研究』高島春雄

明治40年 3月20日 東京に生れる

昭和11年 東京文理科大学理学部生物学科卒

同大学講師を経て山階鳥類研究所所員、早稲田大学講師となる

昭和26年 国立自然教育園評議員、日本学術会議動物学研究連絡委員会委員、文部省

学術用語分科審議会専門委員、文部省学術資料分科審議会専門委員、

教科用図書検定調査会調査員、日本鳥学会幹事、日本哺乳動物学会幹事、

日本生物地理学会幹事、日本鳥類保護連盟幹事、東亜蜘蛛学会幹事、日本

昆虫研究会幹事、日本動物学会関東支部委員などを務める

昭和37年 5月31日 没

「あらゆる動物に興味をもち、見たり、調べたりすることが好き」な人が行くのは、

「動物園」「水族館」であり「博物館」である。そして、著者の専攻は「動物分類学」という

クラシカルだとされる動物学であった。しかし、それは動物学の基礎工事であるばかりでなく

動物の一員である「ヒト」が成長する過程で必ず学習しなければならない、「ヒト」以外の動物

の認識である。動物園の役割はまず、そこで充分完結している。

高島春雄の著書は、そうした意味で、すべて「誌上動物園」であり、「動物の百科事典」である。

この本は、少國民理科の研究叢書の第4巻として出されたもので、かなり版を重ねたもの。

著者によれば、「動物の解説を羅列するのでは動物園で売っている案内書と同じになって退屈

するでせうから園内で特に興味や注意をひく動物をえらび、それらについて詳しくお話する

という方法をとりました。そして、動物を愛する心を培うことを目的とした」ということで

ある。著者独自の語り口で、動物についての「蘊蓄」がこの小著に込められているのは言うまでもない。

なお、この叢書には、当時、小石川植物園の園長であった佐々木尚友の「植物園での研究」というラインナップもある。

38.『動物渡来物語』高島春雄

著者の生涯のテーマは「日本における動物の変遷」である。したがって本書はそうしたテーマ

の中核をなすものであり、高島動物学の集大成である。

この本を読んで気づくことは彼の病的なまでの動物文献の収集ぶりであり、ともすれば「動物文献学」という分野に

入り込んでいることである。ちなみに、この著作の中に言及される書籍を列挙してみよう。

書名 著者 書名 著者

甲子夜話

尾張名所図会

日本博物学史年表

上野動物園案内

動物園から

動物生態寫眞集

集容動物目録及解説

本草綱目訳義

蒹葮堂雑録

見世物研究

武江年表

桃源遺事

続修台湾府誌

馬来諸島

扶桑略記

古事類苑 動物部

動物二千六百年史

松浦静山

白井光太郎

石川千代松

吉田平七郎

山田學・致知

織田信徳

木村孔恭

朝倉無声

齋藤月岑

安積 覚

ウォーレス

光治

鳥と暮して

南方動物の話

動物園物語

象の話

鳥獣百態

動物と暮して四十年

私の見た動物の生活

南の探検

内外脊椎動物誌

脊椎動物図譜

アムルランド学術紀行

世界の涯

本草綱目啓蒙

本朝食鑑

ニューギニア探検

南洋動物誌

和漢三才図絵

鷹司信輔

池田嘉平

福田三郎

須川邦彦

岡本東洋

黒川義太郎

古賀忠道

蜂須賀正氏

秋山蓮三

石川千代松

シュレンク

蜂須賀正氏

小野蘭山

平野必大

金平亮三

三吉朋十

寺島良安

当時の知見で、動物本の名著とされるものが引用されており(中には首をかしげざるを得ない

ものも含まれてはいるが)、以上の本と新聞・雑誌などに掲載された記事、そして、動物園関係

者ならびに、動物輸入業者の談話をもとに組み立てられている。

単一種の(例えば象とかカバとか)についてのマニアックな研究は好事家が結構居るのだが、

これだけ多種の動物についての研究はなかなかできるものではない。

そのバイタリティに圧倒されるのが、本書の特徴である。

39.『季節の動物話題の動物』高島春雄

内田老鶴圃の「理科教養文庫」の8巻として出たものである。

「季節の動物」はラジオ東京で昭和29-30年に毎週1篇づつ朗読放送されたものを纏めたもので、

「話題の動物」は雑誌に発表したもの6篇である。

この本の序文でも「いろいろな動物に関する正しい知識をやさしく面白くお伝えするのは、私の一つの義務であると常々考えています」

と発言しており、彼の姿勢をうかがわせる。

40.『動物の冬ごもり』高島春雄

岩崎書店の「こどもの観察と実験文庫」の1冊である。この本は昭和26年刊の上製本(圧表紙

に冬眠中のヤマネの写真)と昭和27年刊の軽装普及本(くるみ表紙にタイトルのみ)の2種がある。

また、この叢書のラインアップには『動物園と博物館での研究』が含まれている。

なお、小学館の「少国民シリーズ」という叢書が昭和21年から発行されており、高島の

『よい虫わるい虫』が含まれており、岩崎書店の叢書でも同タイトルのものがあるが、福井玉夫が書いている。

41.『滅びゆく動物たち』高島春雄

中央公論社の『自然』に掲載された「滅びゆく日本の動物(1)(2)」(昭和31年3月号P66-72、

4月号P76-82)、「滅びゆく世界の動物」(昭和32年3月号P32-41)を中心に構成された動物物語

である。

ところで、この『自然』という雑誌であるが昭和30年代に関していえば、日本の霊長類学の

嚆矢ともいえる論文の掲載と、それに対する論争。進化論100年に際しての論争、そして、

動物学界を大いに揺さぶった「柴谷篤弘論文」の掲載と動物学が熱く議論される重要な

誌面構成であり、そうした大きな流れの中で、高島動物学が泰然自若と掲載されているのは、

ユニークなちぐはぐさであった。

次に、高島動物学の『自然』掲載リストを掲げるが、『変則動物こよみ』は絶筆となった最後の

作品である。

タイトル 掲載年月号

滅びゆく日本の動物(1)

滅びゆく日本の動物(2)

滅びゆく世界の動物

滅びゆく生物学者

国際コウノトリ調査年にあたって

長編記録映画 白い荒野

記録映画 オランウータンの知恵

一般教養映画 新昆虫記 蜂の生活

一般教養映画 水鳥の生活

変則動物こよみ(連載)

昭和31年3月

昭和31年4月

昭和32年3月

昭和33年3月

昭和33年7月

昭和35年4月

昭和35年6月

昭和36年5月

昭和37年3月

昭和35年5月

〜昭和37年7月

42.『珍しい動物たち わたしの空想動物園』高島春雄

当時の定価100円の絶版文庫であり、探求が困難なものである。

序文に「私は珍しい動物、珍しくない動物、どちらでもいいが一種類でも多く、この眼で見て

記録しておきたいと心がけている。(中略)生きたのが駄目なら映画、動かない写真でもいいと

思うのである。日本に標本もないような動物は、その写真を時々取り出して眺め、渇をいやす

より方法がない。そういう珍しい動物の写真を何十枚と集めて解説をつけた一冊の本にして、

多くの方々と楽しみを共にしてはと、かねて願っていたのだが、思いがけず「写真で見る世界

の珍しい動物」を編集してはどうかと、お勧めを受けた。(後略)」とあるように

「高島判珍獣図鑑」の体をなす写真文庫である。

掲載写真は『動物生態寫眞集 1.2輯』(昭和15年刊)の著者、山田致知や新間善之助、そして

海外の記録写真、海外の雑誌、動物園のパンフレットなどからと多岐にわたっている。

また、この本は出版される直前に他界した「江崎悌三」に捧げられている。

カバー表紙の写真は山田致知撮影による大坂天王寺動物園のマカロニペンギンである。

「山田致知」なる人物は何者かと、疑問を持ちつづけていたところ、最近になって判明したので、

経歴等を記載する。

『動物生態寫眞集』第1輯・第2輯(昭和15年刊)は高島春雄が絶賛したように、当時

としては不思議な本である。山田学(私設?山田博物学研究所)の発刊の辞によれば、

当時、日本人による権威ある動物生態写真集が1冊も出版されていないことを遺憾に思

い、かつ子息の山田致知の博物学への第1歩として刊行した由である。山田致知の編集

雑感によれば写真のすべてをライカにより動物園で撮影しているが、ジラフやダチョウ

はタンガニイカにてとされているので、アフリカで撮影したものも含まれているらしい。

限定版で、当時の価格で拾弐円であるから、現在の1万2千円といったところである。

第1輯に所収のサルの写真はマンドリル(カラー1点、モノクロ2点)、パタスモンキー、

シロテテナガザル(白色型)、ブラッザグエノン、ファイアーズルトン、ゴールデン

ライオンタマリン、ブタオザル、ボンネットモンキー、オランウータン、

チンパンジー、スローロリスの11種で第2輯の18種とあわせると29種である。

山田致知 やまだ・むねさと 金沢大学名誉教授

1922年3月21日 香川県で出生

1942年 旧制第一高等學校卒業

1946年 東京帝國大學醫學部卒業

南氷洋捕鯨船団に同行(1947-48, 48-49)

1950年 岡山醫科大學講師

1951年 岡山大学医学部助教授

英国留学(1954〜55年:ブリティッシュ・カウンシル奨学生)

1960年 金沢大学医学部教授

献体の「しらゆり会」結成・篤志解剖全国連合会々長・「献体法」制定推進

北國文化賞(1980年)受賞

1987年 定年退官 名誉教授

日本海セトロジー研究グループ結成

1994年12月15日 死去

著書

南氷洋の捕鯨(岩波写真文庫)

人体局所解剖図譜(金原出版)

ランツ下肢臨床解剖学(医学書院)

レオナルド・ダ・ヴィンチ解剖手稿(岩波書店)

実習解剖学(南江堂)など  

なお、この著作に関連して、動物関係の写真集の古書について、探索可能な範囲で

リストを作成した。 

動物寫眞叢書リスト(抄)

<叢 書 名>及 び タ イ ト ル 刊行年 出 版 社    

<活物寫眞『自然』>

丹頂鶴、虎、鷺雁、鹿、鷹、鷲、眞鶴、獅子

鷄、鵞鳥おし鴦、猿(壱)、猿(弐)

明 40

 

石敢堂書房     

 

<科學畫報叢書>

昆蟲の驚異、動物の驚異、續動物の驚異

昭 6 新光社       

<アルス科學寫眞叢書>

動物園、鳥の巣と卵、北千島の動植物、樺

太の動植物、小笠原の動植物、本州に蕃殖す

る鳥、渡り鳥、蜘蛛の生活、昆蟲の生活、熱

帯魚と淡水魚、野生の花、植物の形態

羊歯、きのこ、蝶の生活、渡り鳥の生活

昭 8

 

アルス       

 

<岩波写真文庫>

2.昆虫、11.蝶の一生、14.動物園のけも

の、22.動物園の鳥、31.山の鳥、37.蚊の

観察、48.馬、54.水辺の鳥、80.季節の魚

92.動物の表情、99.日本の貝殻、126.貝の

生態、203.渡り鳥、235.ねずみの生活

昭26

 

岩波書店      

 

<河出新書写真篇>

15.虫の四季、18.動物園

昭 30

河出書房

      

<朝日写真文庫>

動物園への招待

昭 30

朝日新聞社

     

<科学大観> 全24巻 昭 32 世界文化社     
<現代日本写真全集> 動物作品集 昭 33 創元社      
世界生物寫眞集     岡田彌一郎本田正次 昭 11 三省堂      
動物生態寫眞集1・2輯 山田學・山田致知 昭 15 柳原書店     
素顔の動物       中野祐久、大石孝 昭 32 黎明書房      

*なお、これ以外に、平凡社からペリカン寫眞文庫があり、そのラインナップの中

にも『動物園』というのがある。

 

43. 『南の動物』高島春雄・古川晴男

ミルウォーキー動物園の飼育課長川田健の最近のエッセイ集に、この本を子供の頃

、何度もくりかえし読んで、著者にファンレターを出すくだりが出てきた。昭和17

年頃に少年期を過ごした、「動物少年」にとって、この黒い本は啓蒙の書であった

という。南方共栄圏幻想の最中、南洋の動物解説書が出るのは、大島正滿の著作の

解題で述べたので、ここでは省略するが、年来の同級生の共著として出た本書は内

容的にも興味深く、当時、正確な情報としてはウォーレスの「馬来諸島」、ラッフ

ルズ博物館の報告書などしか無い中で、丹念に文献をあたり、上梓されたことが跋

文の「父兄及び教師の方々へ」でよくわかる。初版は昭和17年に6000部、改訂版が

昭和18年に4000部発行されている。改訂版といっても紙質を落としただけで内容的

には変わらない。なお、時を同じくして、これも共著であるが一般向けに『資源と

鑑賞 南方の生態』(昭17、龍吟社刊)が出ており、「陸の動物」を担当執筆して

いる。

44. 『動物物語』高島春雄

現在でも手に入る、唯一の高島本で「動物渡来物語」「帰化動物」「滅びゆく動物

たち」「季節の動物・話題の動物」「明治前日本生物学史」からの再録である。動

物に対する知見を増したい者にとっては必読の書であろう。

高島春雄刊本リスト(抄) 

  書   名 刊行年 出版社など 頁数  
動物二・脊椎動物 昭 15 研究社(学生文庫)  
動物園での研究 昭 16 研究社 224
資源と鑑賞 南方の生態 昭 17 龍吟社(高橋敬三らと共著) 333
南の動物 昭 17 光風館(古川晴男と共著) 346
よい虫わるい虫 昭 21 小学館 54
鶏と兎 昭 22 研究社  
動物渡来物語 昭 22 日本出版社  
歸化動物 附 巨獸渡来考 昭 22 北方出版社(丘英通と共著) 84
動物園での研究 戦後版 昭 23 研究社 227
10 動物図絵 昭 23 国民図書刊行会  
11 昆虫の世界 昭 24 雁書房  
12 ぼくらの動物學ノート 昭 25 縄書房 235
13 動物と私たち 昭 25 中央公論社  
14 動物の冬ごもり 昭 26 岩崎書店 54
15 動物園や博物館での研究 昭 26 岩崎書店  
16 動物渡来物語(増訂版) 昭 30 学風書院 218
17 鳥とこどもの物語 昭 31 実業之日本社  
18 季節の動物・話題の動物 昭 31 内田老鶴圃 173
19 滅びゆく動物たち 昭 32 中央公論社 249
20 動物の世界 昭 33 あかね書房 251
21 珍しい動物たち 昭 36 社会思想社(教養文庫) 125
22 こども動物記 不 明 実業之日本社  
23 動物物語 昭 61 八坂書房 6.14.15.16 の抄録  

45.46.47『動物の生態』『動物を語る』『動物夜話』鈴木哲太郎

あまり聞き慣れない著者であろうかと思うが、動物の通俗古書をあたっていると必

ず、おめにかかるものである。警官という職業を25年も続けながら、上野動物園に

通いつめ(前述の黒川園長当時)動物を観察したり、初渡来したハーゲンベック動

物曲馬団を見たり、ときどき封切られる動物映画を見たりと動物に対するマニアッ

クなまでの情念を書き綴った本である。昭和初期の動物映画の記録をはじめ、当時

の上野動物園の状況、黒川園長との交流など、貴重な記録がこれらの本には満載さ

れている。黒川園長の2つの著作の編簒にもかなりの程度協力していることが、黒

川園長の序文に記載されている。とにかく、良き時代の動物マニアの姿を表現して

いると言えよう。この3冊の著作のほか、もう1冊出ている。

 

48. 『動物界の不思議』谷田専治

もう、この題名を見ただけで、動物通俗古書屋は、手が伸びる。加えて、谷田専治

といえば、ウォーレスの『熱帯の景觀』の訳者として、つとに有名であり、読んで

みたくもなろうというもの。ところが、偕成社という、現在もある児童書専門の出

版社のものであり、当然といえば当然であるが、大の大人が読んでおもしろかろう

はずはない。高島春雄氏の著作であれば、たとえ児童向けのものであろうとも、読

ませるものがあるのだがどうやら、この著者は、内容を面白くさせようと努力して

いるにもかかわらず、下手であるのが難点。巻末の他出版物の宣伝の「軍國日本の

少年諸君、即刻讀んで祖國永遠の護りを固うせられよ」などという煽り文句ととも

に、山中峯太郎大先生の『空襲機密島』『絶島の日章旗』などのラインアップが愛

國武侠の熱血たぎる様相を示すなか、場違いに存在したこの本を、古書価とは裏腹

に評価したい。

49. 『大東亞の動物 哺乳類・南方篇』徳田御稔

アジアに分布する哺乳類の概括的な書物を集書することで、探検博物学の時代のか

すかな息吹を感じるのは、私だけであろうか。未踏の大自然、南方、熱帯、そうし

た言葉に代表される良き時代の動物学。西欧の植民地政策に裏打ちされ、ほぼ網羅

された枚挙動物学を大東亞共榮圏幻想のもとに、初めて追認識する作業がおこなわ

れたことは、日本の動物学史に載せなければならないであろう。侵略という背景は

あったにせよである。現在そうした帝国主義的な発展を遂げた時代の書籍はほとん

ど図書館からも廃棄され、読むことすらできない。ただ、揃い物の「動物学雑誌」

などに掲載された諸論文から類推するしかないのではないかと思われる。熱帯パラ

オ生物学研究所研究報告、第1次滿蒙學術調査研究團報告、などの報告書はもちろ

んのこと、表題の著作のごとき刊本も滅多に読むことのできないものになってしま

ったのは残念なことである。

50. 『支那哺乳動物誌』阿部余四男

前掲の著作と双璧をなすアジアの動物誌である。著者の阿部余四男は作家「阿部次

郎」の実弟。また、パラオ熱帯生物研究所にいた阿部襄は甥に当たる。戦前の動物

学の大家であり、岩波書店、三省堂などから数多くの著作を刊行しているにもかか

わらず、この人も忘れられた博物学者の一人である。おそらく広島文理科大学理学

部動物学科教授という地方の動物学者であったことと、日本狼現存説が命とりとな

って忘れさられていったのであろう。昭和49年9月刊のアニマに掲載された略歴で

は「日本及び日本周辺のオオカミの研究に専念した」などと軽くあしらわれている

が、凡百の動物学者がたちうちできぬ程の博学と考察力で独自の動物哲学をものし

たりしている。

本書は目黒書店の大陸叢書の1冊として出たもので中国の哺乳動物の総合的な解

説書である。巻末のプレートの出典リストから参考文献がわかるが、Allen.Brehm.

Macewen.Lydekker.De winton.Blanford.森為三、徳田御稔などから当時の知見を集

積構成してある。私とこの本の出会いは、昭和60年の初春、日本モンキーセンター

に金絲猴(R.roxellanae)という伝説的なサルを招聘するための資料づくりの時で

あった。中国書籍の専門店を渉猟して見つけた『四川資源動物志』を抄訳しながら

読み進むうち参考文献の項に登場していたのが、この書名である。以来、ことある

ごとに古書店の店頭、目録などを注意して見ていたのであるが、発見できずにいた

ところ、灯台もと暮らし、出入り頻繁にしていたモンキーセンターの小寺動物園長

の書棚にボロボロの姿をして並んでいたのである。園長に伺うと「これはたいへん

な本である」とのことで、半ばこわれそうな戦中刊行の紙の事情の悪いこの本を初

めて手にとったわけである。中を見てはじめて、これはたいへんな本であることが

了解できた。最初から最後まで中国の哺乳動物のことが満載され巻末には和名と学

名によるリストまで載っている。参考までに、言っておくと、現在、中国の動物に

ついて書かれた本を読もうとすれば、日中出版刊の『中国の動物地理』しかないの

である。それとても、中国科學院『中国自然地理(動物地理)』という総論的な叢

書の訳本でしかなく、プレートも限られており、動物誌的な具体性に欠けていた。

逆に、阿部氏の本はプレートも多く、侵略戦争、大東亞共榮圏思想の真只中の出版

であるだけに具体性がつよく、中国の動物たちが当時の知見で枚挙にいとまがない

程、紹介されている。園長に頼み込んで、借用しコピーをとらせていただいたが、

やはり原本を入手したかった。おもいもかけず、京都の古書店の目録から入手でき

、さらに名古屋の展覧会(古書籍展示即売会)でも入手できるという、巡りあわせ

。この本こそ、私を自然誌古典の世界に導いてくれた重要な1冊なのである。

51. 『動物閑談』阿部余四男

戦中の生物随筆集である本書は、「動物談」「生物学と人生」「旅の思い出」の三

部構成で、第一部においてはマレイ群島の珍獸や動物の角の話、そしてヤマイヌ 

日本狼)の話、支那大陸の動物の話が語られている。第二部においては戦争と生物

学、生物学から觀た民族の發展、日本民族の成立ちなどが議論され、第三部におい

てはドイツ、ロンドンそして日本国内の滞在記が語られている。この本の提出する

問題は第二部で、いままでこの解題では「大東亞共榮圏幻想」という認識のしかた

でとりあげてきた戦争の問題を深刻に考えざるを得ないほどストレートに肯定して

いることである。そして、その肯定の仕方が当時の知見による生物学的なセオリー

を縦横に駆使している点に大きな問題がある。例えば「民族浄化」「天孫降臨」 

国家全体主義」などが軽はずみに生物学をもって啓蒙されているのである。おそら

く阿部余四男のこうした面が、忘れさられた博物学者たる大きな所以であるといわ

ねばならない。

52.53.『動物学通論』『動物界の觀察と考察』阿部余四男

両書とも動物学の教科書ともいうべき、総合的な著作である。前者は細胞学、生理

学、遺伝学、行動学を中心に専門的に叙述してあり、後者は啓蒙普及的に叙述して

ある。戦前、日本学術振興会研究員として南洋パラオ熱帯生物研究所に派遣され

ていた「阿部 襄」は実弟で、『動物觀察記』(昭18年 和光社刊)が南方共栄圏ならびに

中国の動物について書かれており興味深いものがある。

阿部余四男刊本リスト(抄)

書   名     刊行年   出版社      備    考    

 

現代の遺傳進化學     大 4                      

實驗 生命論       大 6 岩波書店     377 ページ       

兩性論          大 13 岩波書店     308 ページ神田正悌共著 

動物學講義        大 14 岩波書店     615 ページ       

毛の生物学        昭 7 岩波書店      54 ページ       

動物學通論        昭 10 三省堂      271 ページ       

動物閑談         昭 17 三省堂      263 ページ       

支那哺乳動物誌      昭 19 目黒書店     312 ページ       

生命の科學的概念     昭 22 白揚社      211 ページ       

動物界の觀察と考察    昭 23 日本出版社     94 ページ       

 その他、ダーウィン『育成動植物の趨異』(岩波文庫)などの訳書がある。

(以下次号)


『石川千代松全集(全10巻)』(昭10年刊)について

当時における海外の動物園の視察記や所謂古典的動物学の啓蒙普及(通俗化)を果たした

一連の著作、ウォーレスやワイズマン、モールス、ヘッケル、アガシー、ジョルダン

そしてベルリン動物園のヘック、ハーゲンベック動物園のカールらとの交渉を綴った

外遊日記など戦前の動物界を集大成したようなものでした。

あまりに華麗な装丁で少し驚きましたが動物学者の全集としては最初のもので、

当時ジャーナリズムにも頻繁に顔を出していた彼ならではの破格の取扱いだと

思われます。生物学者の全集(著作集)は案外少なく、私見によれば、

*『石川千代松全集』全10巻(昭10年興文社刊)

*『丘浅次郎著作集』全6巻(昭43年有精堂刊)

*『生物学閑話(郡場 寛)』全4巻(昭45年廣川書店刊)

*『宮地伝三郎動物記』全5巻(昭47年筑摩書房刊)

*『今西錦司全集』全10巻(昭49年講談社刊)

*『江崎悌三著作集』全3巻(昭59年思索社刊)

といったところだと思います。

所謂、自然科学の著作はいずれ風化し陳腐化せざるを得ないもので、古き良き時代の遺物を

教養として処理されるものなのかもしれません。

柴谷動物学で分類されるところの「枚挙動物学」は全集として残すと、データブック、

時代の記録として結構興味深いものがあります。そうした点で先年物故した上野動物園の

元園長、「古賀忠道」の著作はかなりのレベルまで達していると思われます。

古賀氏の書かれたもので、やはり、他の追従を許さない遺産は海外動物園の探訪記並び

に会誌『どうぶつと動物園』ではないかと思います。その中には古賀氏の動物園に対する

考え方が見事に書かれており、動物園のあるべき姿が主張されているからです。

たとえば、戦前の『私の見た動物の生活』などの飼育論文は福田三郎でも黒川嶺南でも

石川千代松でも書けるものですし、戦後の『動物と動物園』や『動物への愛情』などは、

文才豊かな人を多く背出させた上野動物園の歴代の園長なら書けるものです。

したがって、今後著作集が刊行されるとしたら、下記のような分類が可能だと考えております。

1.飼育論(例えば前掲の「私の見た動物の生活」や動物心理学会の「動物心理」 

に掲載された小論など)

2.動物園論(前掲の「世界動物園めぐり」「世界の動物園」や「博物館研究」に掲

載された小論など)

3.随筆・対談(数多くの動物随筆と高橋峯吉や高島春雄との対談など)

また、今後、動物園関係書の叢書が編まれると仮定すると、動物園=通俗動物学といった

とらえかたで、書かれてきた歴史的な背景を抜きにしては語れない部分があるようです。

したがって、動物古典の世界では、その殆どが、

1.世界の珍しい動物の紹介(誌上動物園)…………分類

2.動物園関係者の随筆(動物飼育体験談)…………飼育、生態

3.動物愛好者の動物園観察記…………………………動物園風俗記録

4.動物学者による動物うんちく話……………………博物誌

5.動物学者による海外動物園の紹介…………………外遊紀行

といった内容で、筒井嘉隆、吉田平七郎など関西系の人が提唱した教育普及事業的なとら

えかたは、むしろ例外として存在していたようです。(高島春雄のとらえかたは、ちょう

ど、その中間を占めるもので、どちらか言うと、動物うんちく話の方だと思います。) 

小泉 丹の岩波生物学講座『動物園』はその叢書の性格上、ああした内容にならざるを

えなかったものですし、あの論議は石川千代松の「人間不滅」に所載された『世界動物園

巡遊記』と一脈通じるものです。

先に揚げた筒井嘉隆の「ネイチュアスタディ」は当時の日本の動物学界におおいなる影

響をあたえたアメリカの自然科学者ルイ・アガシーの“Study Nature,not Books!"が、そ

の由来とされ、吉田平七郎(萬葉動物の研究者※「東光治」の実弟)の動物園観はハクス

レーの小著「動物園から」に由来しており、日本独自の動物園の体質は所詮、1〜5、と

くに1のレベルで大衆の興味を本意としたかたちで存在してきたようです。

筒井嘉隆(つついよしたか)

SF作家筒井康隆の実父で大阪天王寺動物園の園長、大阪市自然史博物館の設立などにたずさわる。

京都大学動物学教室出身で川村多美二に師事する。

<主要著作>

「植物及動物」所収分

*VOL3. 9号(昭10.9)吾國動物園の改善

*VOL4. 1号(昭11.1) 日本に来たチンパンジー

4号(昭11.4) 飼育下に於けるチンパンジーの食物

5号(昭11.5) 日本に来たチンパンジー補正、其他

6号(昭11.6) 大風・地震と動物園の動物

*VOL7. 6号(昭14.6) 動物園からー1 事変下の動物園

7号(昭14.7) 動物園からー2 全國動物園長會議

「動物學雑誌」所収分

*VOL46 545 号(昭9)象の脾脱疽病と動物園に於ける動物飼育

*VOL47 557 号(昭10) 動物飼育と生態學

東光治(ひがしみつはる)

大正9年 東京帝国大学理学部動物学科卒。京都帝国大学講師、京都府立医大講師を歴任。

著書としては「萬葉動物考」(昭12年)「萬葉動植物分類表」「續萬葉動物考」

「動物二千六百年史」「昆蟲二千六百年史」「生物暦」「萬葉動物寫眞と解説」がある。

 

現在の動物園の直面する問題として、公共性を主体とした場合において、一般大衆が魅

力を感じるような園はといえば、佐々木時雄氏の不本意なる結論である「資金」でしょう

ね。やはりここに行き当たる。                          

1.動物を育成する環境としての施設面                    

2.そこに入場する人の環境としての施設面                  

3.その環境を維持するための人的サービス面                 

4.その環境に更に付加価値をつけるための施設及び人的サービス        

これらのうち一点でも欠けていれば、一般大衆は戦前のイメージのまま動物園を享受せざ

るを得ないと思われます。 

例えば、1から4までが欠けているにもかかわらず、そうした園に限って、4の方向性

を持ちたがり、企画だおれの羊頭狗肉をおこない、憤飯物をでっちあげるケースが良くあ

るのは困ったことだと思います。

ちなみに、そうした企画の殆どが、

入場料………特別割引(無料)

会費…………1000円以内(500円程度)

募集…………150名

食事…………各自でおとりください

といった内容で、その設定が、あたかも、公共性だといわんばかりに喧伝していますが、

おのずから、その無内容を、世間に公開しているようなものです。

まず、会費ですが、いまどき1000円で、何ができるのだろうか?そして、その募集

人員の少なさは何を考えているのだろうか。例えば、1000円×150 =150,000 円で何がで

きるというのだろうか。2CのB3のポスターがせいぜいできる程度。ただし掲載料は捻

出できないので、園内に掲出するしか無い。告知能力が元より欠如しているイベントはイ

ベントといえない。食事についても、いまどき、食事並びに茶菓の用意もされていないセ

ミナーはセミナーとはいえないし、ただでさえ、まずい園内食堂を利用させようってのは

イメージダウン以外の何ものでもない。(殆どの園に言えることだが、入園者数とは裏腹

にテナントに対する委託料率が高すぎるので、料理内容の質的ダウンでそれをカバーする

しかないのと、釣った魚にうまい餌はいらないという劣悪なポリシーが、閉鎖的なマーケ

ットの特徴である)。そして、これが、最大の問題点であると思われるが、募集人員であ

る。最近、アニマのインフォメーションコーナーに紹介されていた『第1回動物園ゼミナ

ール』(主催東京動物園協会)は資料代1講座300円、募集人員たったの50名という

驚異的な同好会的なマイナーぶり、無能力ぶりを平気で露呈している。主催者側の意図す

るものは、はたして何なのか?この閉鎖的な世界は、いったいいつになったら大きな世界

に拡張できるのか?こうした行為をお茶濁しと言わずして何と言うのか。これに比べれば、

TV媒体の動物番組の方が雲泥の差をもって意義があると思う。マス媒体により、妙な

誤解をされる云々などというのは、動物関係者の小理屈、つねに単独でもぞもぞ愚痴をこ

ぼしては、何等、それを拡張せしめる手段すらもたない、持とうとしない手合の独言に過

ぎない。動物番組がもてはやされるのを、動物園は恥とすべきだと思う。とりもなおさず

それは動物園自体の魅力の無さ、無力さを象徴しているからである。

先ごろ、『自然科學』創刊号(大正15年1月 改造社刊)を入手して、川村多實二の

『動物園と水族館』という42頁にわたる論文を読んだが、この当時、動物園がかかえていた

問題と現在の動物園がかかえている問題がさほど異なっていないのは、侘びしい限りである


自然誌古典人名録

人   名 時 代   専 門 分 野 著作など         
伊藤圭介 1803-1901 植物学(本草学)              
田中芳男 1838-1916 動物学、水産、動物園            
松原新之助 1853-1916 水産学                   
佐々木忠次郎 1857-1938 昆虫学                   
松浦佐用彦
    • モースのアシスタント 夭折
飯島 魁(いさお) 1861-1921 鳥類、淡水魚の地方的変異 動物実験初歩
岩川友太郎 1854-1933                       
高橋 堅
    • ハトの遺伝と性
坪井正五郎 1863-1913 人類学の祖                 
鳥居龍蔵 1870-1953 蒙古の踏破 人類学 
松村瞭(あきら) 1880-1936 人類学 植物学の松村任三の息子
小金井良精 1859-1944 解剖学 人類学 星新一の祖父
長谷部言人 1882-   日本先住民族、アイヌ等骨格研究 人類学
岡田信利 1857-1932 日本産脊椎動物の初の総目録編纂
青木文一郎 1883-1954 哺乳類の研究 日本産の鼠 
岸田久吉 哺乳類の総説
波江元吉(もとよし) 1854-1918 哺乳類・爬虫類・両棲類・鳥類の分類
鳥類の研究者

内田清之助、川村多実二、黒田長礼、鷹司信輔、山階芳麿、 

蜂須賀正氏、小川三紀(みのり)               

池田作次郎 1860-1938 カエルの発生 
大沢岳太郎 1863-1920 ハンザキの解剖               
岡田弥一郎
    • 両棲類の研究
佐藤井岐雄
    • 両棲類の研究
松原新之助
    • 魚類学の創始者
岸上鎌吉
    • 水産学中国の水産物の研究 四川省成都で客死 
田中茂穂
    • 日本産魚類の研究を大成
魚類の研究者 大島正満、脇谷洋次郎、内田恵太郎、蒲原稔治、松原喜代松 青柳兵司、八田三郎、                  

昆虫学(駒場系)

東大農学部

佐々木忠次郎、桑名伊之吉、町田次郎、大町文衛、石井悌  

 

昆虫学(札幌系)

北大農学部

松村松年、素木得一、小熊桿、岡本半次郎、一色周知 

 

昆虫学

東大理学部動物学

三宅恒方、矢野宗幹、木下周太、鏑木外岐雄、江崎悌三   

 

昆虫学

在野派

名和靖、高千穂宣麿、中川久知              

 

甲殻類の研究

寺崎留吉、松浦歓一郎、中沢毅一、福田(駒井)卓、

寺尾新(石川千代松の娘婿)


冒頭のコンセプトのもと、集書活動を行ない、所期の目的をほぼ達成してきており、なかんずく、

最近格安で入手した『石川千代松全集(全10巻)』は年来の探求書であり、情熱を冷やさしめるのには充分のものであった。

もちろん、この世界はまだまだ奥深く、未見の名著が大正から昭和40年までの55年間には数多く出現していると思われるので、

そうした名著を求めて地味な集書活動を継続したいと思う。しかし、これだけ出版物が氾濫しているにもかかわらず、

現在は原典の読めない時代である。例えば、ダーウィンの著作で現時点で読めるのは『種の起源』と

『ビーグル号航海記』ぐらいのもの。他の著作は古書にたよらざるを得ない訳で、中央公論社の「世界の名著」の

『人類の起源』、岩波文庫の人及び動物の表情について』『育成動植物の趨異』、冨山房百科全書の『みみずと土』、

といった風に探求していくか、白揚社の『ダーウィン全集』を探求するかしない限り読めないのだ。

ウォーレスの著作を読もうとすれば、つい最近までは、たったの1冊、『熱帯の景観』だけで、

南洋協会の『馬来諸島』(やたらと古書価が高い)、大日本出版の『ダーウィニズム』(抄訳)、

大日本文明協會の『生物の世界』、河出書房の『極楽鳥の島々』といった具合に気の遠くなるような探求をしなければならない。

ラマルクにいたっては現時点では読めない状態で、岩波文庫の『動物哲学』、同じく岩波の大思想文庫の抄訳を探求することになる。

こうした動物学の書籍がなんと多いことか。こんな状況が私の集書のきっかけであったのは言うまでもない。

上記のうちで、探求できたのは数少なく、いまだに読めないという不満感がある。

加えて、いつ、どのような形でどんな内容のものが刊行されたかについては、集書をすすめていくうえでの発見でしかないのは、

愉しみではあるが、すこぶる、シンドイ状態と言わねばならない。今日、一時にくらべ、「動物ブーム」も収束して、

ホッと胸をなでおろしている動物園関係者も多いと思うが、それとは裏腹に、動物を観覧させてメシを食っている人々にとっては、

昔の夢よもう一度てな具合に、あいもかわらず、見栄えのする珍獸はいないかと、共産圏や、

諸低開発国に情報網を拡大する向きもあろうかと思う。CITESの国内法の整備がようやくされるなか、

動物を持込むのがいよいよもって困難になり、かつ「展示」も商行為とみなされた現状においては、

研究施設をもたない動物園や国外の動物園とコネの無い動物園にとっては現在飼育中の動物を現状維持するに止まり、

それとても寿命や突発的な原因不明の病死など回避できない問題をかかえて暗澹たる状況といわねばなるまい。

などと、動物園にたいして、悪口をたたいたが、今更、動物園でもあるまい、といった状況の中、

これくらい問題意識を持っていること自体、極めて、希なのだ。かなり大物の動物関係者があいついで物故しているが、

自然誌古典文庫の主人として気になるのはその蔵書の行方である。「蔵書一代」とはこの業界の鉄則なので

、当然のことながら何かいわくでもないかぎり、蔵書は外部に流出する。最近の例だが、戦前の某動物園の園長を務めた人が亡くなった。

彼の息子が文筆家でもあり、まさか、外部には出ないであろうと思っていたら、あにはからんや、大阪の古書市場に出てきた。店主に聞くと、

どうもはっきりとしたことは言わない(出所を明確にしないのが、この業界の鉄則)。更に追及すると、蔵書の大部分が公共団体に寄贈されたが

、一部、状態の悪いものが(おそらくチリ交のタテ場を経由して)古書市場にながれたとのこと、それを名古屋の古書店が買って、

私の自然誌古典文庫に収まったという具合である。しかし、「状態の悪いもの」だけが流れたはずなのに、当方に収まったものは状態が悪くない

。戦前の海外の動物園関係の文献で、洋書として、極めて入手困難なしろものである。

 

『WILD LIFE OF THE WORLD』VOL.13 R.LYDEKKER  1916   460P ×3

『REPTILES of the WORLD 』     R.L.DITMARS   1936   411P

『WILD ANIMAL WORLD BEHIND THE SCENES AT ZOO』   1937   302P

R.I.DITMARS & WILLIAM BRIDGES

『ANIMALS FOR SHOW AND PLEASURE IN ANCIENT ROME 』

G.JENNISON   1937   209P

(マンチェスター動物園園長)

『INTERVIEWING ANIMALS』    BASTIAN SCHMID   1935   223P

*ドイツ原本からの英訳

『MY ANIMAL FRIENDS 』     EMERSON BROWN    1932   262P

(フィラデルフィア動物園園長)

『HEITER-ERNSTE LEBENSBEICHTE 』 L.HECK      1938   379P

『FREUND aller TIERE』     PAUL EIPPER     1937   220P

『THE PLATYPUS』        HARRY BURREL    1927   227P

『ALL ABOUT REPTILES AND BATRACHIANS』

W.S.BERRIDGE    1935   260P

『APES and MONKEYS』      E.G.BOULENGER    1936   236P

『INFANTS OF THE ZOO』     E.G.BOULENGER    1934   145P

『ANIMAL IN THE WILD AND IN CAPTIVITY 』

野生及び飼育下における動物

E.G.BOULENGER    1930   224P

『FUNCTIONAL AFFINITIES OF MAN ,MONKEY,AND,APES 』

サルと類人猿とヒトの機能的類似について

S.ZUCKERMAN     1933   203P

『THE BOOK OF ANIMAL LIFE 』 THORA STOWELL     1935   192P

『LONDON ZOO』        GERTRUDE GLEESON    1935   323P

おそらく、公共団体の独断と偏見により分類された廃棄行為によって、外部に流出したのだと思うが、

書物の宿命とは常にこうしたものである。同様の経路で私の自然誌古典文庫に収まったものも多々あり、

そうした本の由来を探索するだけでも結構興味深いものがあると思う。自然誌の古典を渉猟していて納得のいく書との出会い。

その書のレベルポイントとは何かといえば、動物のエンサイクロペディアとして成立しているかどうかという点である。

もちろん、全体をフォローしていれば文句はないが途方もない大著になると考えられるのでなるべくコンパクトに纏まっていなければならない。

そして、それがなおかつ国内外を問わず数多くの文献にあたり、当然、引用もされ、実在の生態にあたり、実験、観察がなされていなければならない。

こうした条件を完璧に備えた本(以下「動物本」という)は極めて少ない。


集書の記録・書簡集

拝 啓 時下ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。

ご覧のとおり、ホテル屋をやらされており、夢も希望も無い毎日を送っております。唯一

のエスケープアイテムは動物関係の古書の収集とその読書です。すでに2000冊を越え

なんとしている状況で例の「四不象」の複刻判を出版した人とも交渉しています。しかし

まだまだこの世界は奥が深く、先日も思いがけない本を発見しました。徳田御稔の『大東

亜の動物(哺乳類・南方篇)』(昭19.精華房)がそれで、当時のいわゆる大東亜共栄

圏の獣類の図鑑的なものでプレートも牧野四子吉が描いており文献目録も詳細にわたり、

阿部余四男の『支那哺乳動物誌』と双璧をなすものでした。この当時のものとしては、子

供向けではありますが、高島春雄・古川晴男の『南の動物』(昭17.光風館)、そして

ウォーレスの『熱帯の景観』(昭17.創元社)『馬来諸島』(昭17.南洋協会)、鹿

野忠雄の『支那の動物』などがありますが、いずれも探検博物学的な書籍で私の興味深々

たるものがあります。

いずれは、ロラン・バルトの『恋愛のディスクール』の方法論を用いて、『サルのディ

スクール』を作成し、日本人にサル類がどのように紹介されてきたか文献学的にまとめて

みたいですね。澤京治郎(塵外)の『猿』が猿を好きだった息子の死をいたむために執筆、

自費出版されたのだから、私の場合は今回のような不遇の身を癒すためのものだったり

して………。

ところで、園長の『世界の動物 分類と飼育(霊長類篇)』はいつ出るのですか?首を

ながくして待ち続けているのは私だけじゃないと思います。おそらくサル類のコンプリー

トブックになるものと期待しております。                 敬 具

 

P.S

定期購読している中国の雑誌から情報を2つ程。

*1986年3月?6月にかけて雲南省の文山にある動物園で飼育されていたスロー

ロリスのうち2頭が北京動物園に展出された。それが、Nycticerbus pygmaeusであ

ることが判明し、中国で初めての記載となった。(獣類学報 第7巻 2期)

*明確な写真が発表されていなかった雲南省産の黒金絲猴(R.bieti )の成獣のメス

と生後15日の幼獣の写真が発表された。(野生動物 1987.第5期)

 

拝 啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

先頃お電話にて照会させていただきました名鉄の者です。郵便振替にて送金いたしました

ので、上記バックナンバー(合本)のご送付をお願いいたします。

私自身の業務資料ではありますが私の子供にも読ませたく思い私費での購入にいたしま

した。石川千代松の著作や黒川義太郎の「動物と暮して四十年」「動物談叢」、高橋峯吉

の「動物たちと五十年」、福田三郎の「動物園物語」「動物園日記」そして古賀忠道の私

の見た動物の生活」「動物への愛情」「世界の動物園巡り」などは私の座右の書であり

ます。しかし最近、こうした動物の通俗書の名作がなかなか書かれなくなっており、ある

にしてもやたら教育臭の強いものだったり、いきなり自然保護論を展開するようなものだ

ったりでバラエティにとんだ動物の世界の楽しさをまず知らせてくれる『どうぶつと動物

園』のような読物は貴重だと考えます。  

貴会のますますのご発展をお祈りいたします。              敬 具

 

追 伸

『上野動物園100年史』をなんとか頒けていただきたいのですがご手配願えませ

んでしょうか(できましたら頒価、送料などお知らせいただければ幸甚です)

また、貴会発行の動物園関連の書の御紹介もお願い申し上げます。

 

『上野動物園100年史』入手方法

〒100-81 千代田区丸ノ内3の5の1 情報連絡室 都民情報センター

TEL 03-212-5111(内線667.668)

 

拝 啓 寒威骨を刺すの候、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

先般は年末のお忙しいなか、ご配慮いただきありがとうございました。早速、別便にて不

足分ならびに、バックナンバー合本再注文分(1982. 特集号.1983+送料 10000YEN)を

郵便振替にて送金いたしましたので宜しくおねがいいたします。

先日も、腐れ縁とも言うべきJMCの小寺重孝氏と戦前のベルリン動物園のこととか中

国のリーフイーターのこととかを話していたおり筒井嘉隆が戦前『植物及び動物』に書い

ていた「吾國動物園の改善」などのエッセイに話が及び、結局、日本の動物園は官立、私

立を問わず、入場収入並びに付帯事業収入獲得のために様々な努力をはらう、そしてそう

することで限り無く「動物学園」という理念型から離れていくものなのだということが、

辛い宿命のような気がします。

学芸部のMさんも動物園ボランティアーズの構築に苦慮していますが、いわゆる

友の会組織の世代交替と移り気な会員という名の「お客さん」に果たしてそこまで望むべ

くものなのか、とくに犬山という地方であり、マニアックな単科動物園であるというペナ

ルティを背負っている現状で………。

よしなしごとをかきつらねました。動物園ファンの繰言として苦笑してください。

敬 具

 

拝 啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

先頃、電話並びに郵便にて「日本動物園水族館年報」(昭30.3)と「どうぶつと動物園」

(合本第17-20集)を注文した、名古屋鉄道に勤務している者ですが、不幸なことに

前者は1月27日現在、未着の状態で動物園水族館の管理運営にあたっている関係での調

査にやや支障をきたしております。つきましては、後者(どうぶつと動物園)からでも結

構ですのでご送付いただきたくお願いいたします。なお下記に改めて再注文いたしますの

で宜しくご配慮願います。                        敬 具

 

拝 啓 寒威骨を刺すの候、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

年末のお忙しきなか「熱烈動物園迷」のためにお時間をさいていただき、さらに「分類と

飼育」までいただきありがとうございました。

早速、おなじみの動物古本噺に移らせていただきます。最近、自宅が近い関係上、園長の

弟子のひとりMさんからJMCの近況など若干聞いておりますが、私にとってはそ

うした営為は過去のことですので動物園人として彼女が上達?するように動物古書の読書

を奨励しています。

雑誌掲載の動物園関係の出色の文献としては  

*「採集と飼育」(昭22.9) 関西動物園めぐり………福田信正

*「採集と飼育」(昭37.5) 上野動物園80周年記念特集号

といったところが最近の私見です。また、件の水野女史が「動物と動物園」の創刊号あた

りの合本並びに「動物園新聞」を所蔵しており、古賀忠道さんの連載ものなどかなり興味

深いものがありました。おそらく園長は所蔵しておられると思いますが、私もなんとかし

て探求してみたいと考えております。

また、バイコフの「滿州の密林」の抄訳である『北滿の樹海と生物』(昭17年 大阪屋號書店刊)、

象の博物誌ともいうべき須川邦彦の『象の話』(昭17年 桑文社刊)などが最近の収穫です。

しかし、この世界は実に奥が深く、次々と未知の(無知にもよりますが)名著が出てく

るので困惑しています。特に、通俗書は玉石入り混じっているので著者名から判断するの

が先決であろうかと考えます。この5月に『近代日本生物学者小伝』なる本が平河出版社

から上梓されるので、ある程度参考になりそうですが80名に限定されているそうなので

いわゆる、在野の動物狂などについては知る由もなさそうです。昔、園長室にお邪魔した

おり、書棚の本を取出しながら「これ、どういう人か知ってるか?」とよく言われました

が、結局、自分で調べるほかなさそうなので、「100冊の動物古本」と題して、リスト

と解題を制作しつつあります。様々な資料をひっくりかえす繁雑な作業ですが、いま、い

ちばん気が紛れることでもあり、また、ご教示願いたく思っております。(完成したら、

「モンキー」に載っけてくださいネ)。

近況ですが、肉体労働アルバイトの連続で、いささかまいっております。JMCで仕事

したいです。4年間JMCを至近距離で観察して、いいところ、わるいところの認識はあ

る程度ついていますが、動物園としてのJMCの活性化は必ずしもハード面だけじゃない

とおもいます。先日、ベルリン動物園のヘック氏のことをおっしゃられていましたが、J

MCの初代園長も長くおやりだと思いますよ。初代園長のパワー(ソフト、ハード両面)

を受け継げる人材を捜すのはたいへんなことだと思います。それだけに、初代園長は1代

限りでJMCの動物園部門を終結させてしまうのではないかという気がするのは私だけで

はないと思います。

JMCの疾風怒濤の時代が、あと7年間のあいだに確実にやってきます。世の趨勢は自

然科学へと向かうなか世界サル類動物園はもっともっと貪欲な施設として認識されてくる

と考えます。そうした仕事に、なんとか混ぜてもらいたいと考えています。どうか、お力

添えをお願い申し上げます。                        敬 具

 

PS 『世界の動物園めぐり』(全3巻)が3月から刊行されるそうですね。1.ヨ

ーロッパ編、2.アジア・オセアニア・日本編、3.アメリカ編、でA4判。

版元は文一総合出版、写真と文は大高成元、価格は2500円だとのこと。

 

拝 啓 大型の寒気団がまたぞろ東海地方に……。ますますこ清栄のこととお慶び申し上

げます。「金絲猴(R.roxellanae)はソンゴクウか?」東京まで足を運びたかったです。

やはり、もうほとぼりがさめたと思われますので金絲猴(R.roxellanae)日本初公開秘話

を執筆されたらいかがでしょう。*黒金絲猴(R.bieti )のPHOTO も公開されたことです

しもう、周辺の研究成果も明確になりつつある現状において、地域的には(岡山)イベン

トもやることですし、今がチャンスではないでしょうか。

*先達て、お話したように、『野生動物』5月号に掲載された個体と同じものが、なんと

日本国内に発行されている『中国画報』(1987 7月号)及び『人民中国』(1987 8月

号)にグラビアで紹介されていたのです。最近とんと中国書店に足を運んでいなかったの

で完全に見落としていました。そして、ちょうどこの捕獲の時期が私が昆明に行っていた

頃で、その時会った云南科技出版社の編集長の言葉どおり昆明動物研究所に収容されてい

たらしいのです。今となっては悔やまれますが………。     

ところで、高島春雄の『動物園での研究』(昭16年研究社刊)やっと入手できました。

これで、この頃の「動物園」をテーマとした著作が充実してきました。やはり、高島さん

のものだけあって動物の解説などに深いものがあり、当時、相当評価された著作である理

由もうなづけました。御存知とは思いますが、高島春雄の著作リスト(抄)を掲げておき

ます。また、遊びに行きます。(てみやげは、何にしよーかな)        敬 具

拝 啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

到着した書籍の荷ほどきをするトキメキの時間は何ものにもかえがたいと、いつも感じま

す。早速、振込みにて決済させていただきます。

当方、仕事柄、動物関係の通俗書(いわゆる専門書ではなく、現在の学問的水準には数

段遅れている昭和20年代までの類書)ならびに動物園関係の文献を収集しております。

地方におりますと、当然のごとく、出現する古書も限られており、名古屋の懇意にして

いる古書店に集書をお願いしてはおりますが、ご存じのように名古屋は動物学系の大学生

が京都に比較して少ないところでしたので、市場にもなかなか出てこないようです。今回

の石川千代松全集はとくに年来の探求書でしたので、感動に近い喜びがあります。なにか

と通販はごめんどうかと思いますが、これからも、向きの本が出た際には宜しくご配慮の

ほどお願いいたします。

まずは本の到着確認と送金のお知らせまで                敬 具

 

拝 啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

平素は集書活動にご協力をたまわり誠にありがとうございます。          

たまには、書簡でもと考えキーを叩いています。「古書目録」云々の話題が頭の片隅でう

ごめいているので以下、そのあたりについて感じたこと、考えたことを申し述べてみたい

と思います。言文一致の不躾な文体になりますが、その点、ご容赦願います。     

自然林さんとおつきあいをはじめてから、書庫の棚が、それこそ自然の林の様になって

しまい、現在の探求書といえば、いつ出るともしれない少数の本と、未見の通俗書といっ

たところで、やや、この方面での収集活動に疲労感も漂っている昨今です。特に、私が探

求している動物関係の昭和30年代以前の通俗書は無限の広がりをもってせまっており、特

定の著者に絞り込んではいるのですが、なかなか、そうした著者のものは出てこないよう

です。自然林さんの目録はそうしたなかで、「こんなものも出てますよ」といった知識の

園的な重要な役割をもつもので、かつ、自然誌古書価のだいたいの目安となるものでした。

かつて、井上書店、金子書店ともおつきあいをしましたが、販路の狭い古書店のいやな

性格が、その価格に滲出ており、公共図書館や研究所の書庫あたりの冗慢予算相手に商い

するのみの書店ですから、動物園という大衆相手の私どもとは一線を画するものがありま

した。

名古屋の古書価はご存じのように、大いなる田舎ですから、自然誌関係はたいへん安価

で山星書店、三進堂書店がワンコーナーで扱っているほか、その他の店でもその系統の本

を若干は扱っております。名古屋は当然のことながら書籍の量が少なく、東京で30分で捜

せる本を数カ月、あるいは数年かけて見付けることになりますが、それもまた楽しみのひ

とつといえないこともありません。

しかし、まだまだ未知の本がたくさんあり、隠れた名著が埋もれていると思いますので

それをご教示いただくためにも、自然林目録は1年に1冊でもいいですから存続させてい

ただきたいと考えます。また、集書のガイドブックとして、日本の自然誌古書リストを作

成し、実費で頒布していただきたいと思います。それができるのは浅尾さんはじめ自然林

のスタッフでしかないと思います。

ところで、数少ない蔵書および探求書をもとに、ちょっとしたリストを作成しましたの

で(まだ中途までてすが)ご笑覧ください。また、不明の点については、ご教示いただき

たく思います。                            敬 具

追 伸

注文書を同封します。特に『自然』のBNは高島春雄の「変則動物暦」が連載されて

いる昭35-37が気になります。宜しくご配慮のほど、お願いいたします。

 

拝 啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。             

石垣島の旅いかがでしたか?園長がいないとJMCでは、いと面妖な事件が発生するよう

ですね。さぞ驚かれたことと推察いたします。それはさておき、最近、わが自然誌古典文

庫も、とみに充実してきまして、特にここ一週間は捜していた本が、本の方から呼ぶよう

に入手できました。とりわけ、殆どあきらめていたものが手にとり読むことができるのは

最高のよろこびで、苦痛に裏打ちされた日常を忘れさせてくれるものです。ページを繰る

と感慨の深いものがあります。                          

*『珍らしい動物たち - わたしの空想動物園』(昭33年、社会思想社、現代教養文庫)

は、ものが100円の文庫本だけに古書としては、探求しにくいものでしたが、例によ

って、業界に指名手配をかけていたら、兵庫県尼崎の古本屋から出てきました。

序文の「私は珍らしい動物、珍らしくない動物、どちらでもいいが一種類でも多くこの

眼で見て記録して置きたいと心がけている。(中略)生きたのが駄目なら標本でもいい

、それが駄目なら映画、動かない写真でもいいと思うのである。日本に標本もないよう

な動物はその写真を時々取出して眺め、渇をいやすより方法がない。そういう珍らしい

動物の写真を何十枚と集めて解説をつけた一冊の本にして、多くの方々と楽しみを共に

してはとかねて願っていたのだが、思いがけず「写真で見る世界の珍らしい動物」を編

集してはどうかとお勧めを受けた。(後略)」とあるように、内容は前掲の寫眞集的な

ものに高島春雄の面白い解説がついた本で、掲載写真も前掲の山田致知、そして新間善

之助、海外の記録写真、海外の動物園のパンフレットからと多岐にわたっています。表

紙は山田致知撮影による大阪天王寺動物園のマカロニペンギンです。

その他、諸々の本が集まって来ておりますが、手紙が終わりそうもないので、このへんで

中断したいと思います。なお、今度、お邪魔した際には、ぜひ、名古屋タイムスの連載の

コピーを頂戴したいと思います。本社と違って、ここでは、回覧されないのです。

敬具

追伸

所蔵リストの一部(登録済みのもの)を送付します。書誌チェックリストには程遠い

ですが、集書しはじめて2年間の成果?です。 

 

拝 啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

先日は突然お邪魔したうえ、チビ助におみやげまでいただいて本当にありがとうございま

した。私の遊園業最後の職場、南知多ビーチランドは本当言って、実になごりおしかった

仕事で、最後の仕事が例の「博物館相当施設許認可」の立案であったことが私の南知多ビ

ーチランドに対する考え方の方向性でした。知多で生れて、知多で少年期を過ごした人間

にとって水族館は新舞子の東大水産学部のもので、あの、暗く神秘的な館内こそ、アカデ

ミックアミューズメントの世界でした。現在、知多半島唯一の水族館としてBLが機能し

ていること自体、新舞子の水族館が移転したことと矛盾していますが、とにかく、内容的

にもBLは健闘しすぎていると思います。最近、杉浦宏の『水族館こんにちわ』(昭47年

文化出版局刊)という本を古書店で見付けて、読みましたが、水族に関する興味深い話

や水族館での苦労話やこぼれ話が子供から大人まで楽しめる内容で書かれており、アカデ

ミックアミューズメントの世界だなあ、と考えました。動物園に関する文献は沢山あるの

に水族館に関するものは希にしか無く、古いところでは岩波講座生物学の『世界の臨海臨

湖研究所』(雨宮育作、昭5年刊)あたりぐらいで、これは学術的な研究所についての解

説書であり水族館とは、ちょっと違ったものですが。その他は末広氏の随筆集や田中茂穂

の随筆集あたりに散見されるぐらいですが、いずれの文献もアンチ中小水槽で巨大水槽指

向の見せ方に興味を覚えているのはおもしろいことです。

また、追々、暇をみつけては、水族館関係の文献の検索をして閲覧に供したいと考えて

いますので、ご期待ください。加えて、水族に関する学術書などの探求はおまかせくださ

い。その方面の古書業界と密接なラインを結んでいます。           敬 具


自然誌古書研究会

自然誌古書研究會々則           

第一條 名   稱            第九條 顧問及ビ相談役

本會ハ自然誌古書研究會ト稱ス       本會ニ顧問及ビ相談役ヲ置ク

第二條 事 務 所            第十條 職員及ビ職務

事務所ハ愛知県ニ置ク           本會ハ次ノ職員ヲ置キ會務ニ従事セシメル

第三條 目   的            

本會ハ自然誌古書ノ発掘ト再評価ヲ圖ルヲ   1.書 記 若干名

目的トス                  2.嘱 託 若干名

第四條 事   業            第十一條 會   議

本會ハ目的ヲ達スル爲、次ノ事業ヲ爲ス   會議ヲ分チテ次ノ三種トス

1.印刷物の發行               總  會

2.研究會合、會食、講演會、視察等   1.總會ハ會員ヲ以テ組織シ毎年一囘會長

3.其他必要ナル諸般ノ事項         之ヲ召集シ其決議事項次ノ如シ

第五條 會   員            

本會會員ハ次ノ五種トス          イ.役員選擧 ロ.會計 ハ.會則ノ変更

1.名譽會員              ニ.其他必要ナル事項

本會推薦ニ依ル           2.總會ハ全會員三分ノ一以上ノ出席アル

2.賛助會員                ニ非ザレバ議決スル事ヲ得ズ

本會ノ主旨ニ賛シ弐萬圓以上ヲ寄附    但シ出席シ得ザルモノハ他ノ會員ニ權

シタルモノ及ビ功勞者          利執行ノ委任ヲ爲ス事ヲ得 

3.特別會員                 役員會

年額壱萬圓以上ヲ納付スル者     3.役員會ハ常任理事ノ請求ニ依リ會長臨

4.正會員                 時召集シ事業會務遂行ニ關スル審議ヲ

年額四仟圓ヲ納付スル者(入會金ハ    爲ス 

壱仟圓也)                予算會議

5.普通會員              4.予算會議ハ常任理事ノ請求ニ依リ會長

年額弐仟圓ヲ納付スル者(入會金ハ    臨時召集シ予算執行ニ關スル審議ヲ爲

壱仟圓也)               ス   

第六條 入會及ビ脱退           第十二條 會   計

1.入會セントスル者ハ會員弐名ノ紹介ヲ  1.本會ノ會計年度ハ暦年度ニ依リ常任理

以テ申込ミ役員會ノ承認ヲ得ルヲ要ス    事ノ内一名之ヲ鞅掌ス

但シ入會ト同時ニ入會金及ビ會費ヲ前  2.本會會計報告ハ年一囘總會ニ於テ之ヲ

納スルモノトス              行フ

2.除名及ビ脱退ハ役員會ノ決議ニ依ル   

3.會費滯納者ハ脱退ト認ム        

第七條 會   費                

毎年一月末日迄ニ納付スルモノトス                        

第八條 役   員            附  則               

1.本會ハ次ノ役員ヲ置ク         特別會員ハ本會主催各事業ニ際シ特權ヲ有

會  長 壱名 總會ニ於テ推薦ス   ス                  

副會長  弐名 總會ニ於テ推薦ス   普通會員ハ本會發行定期刊行物ノミノ配布

常任理事 五名 理事ノ互選ニ依ル   ヲ受クルモノトス           

理  事 若干名 特別會員正會員ノ   

互選ニ依ル            自然誌古書研究會

2.會長ハ會ヲ代表シ一切ノ會務ヲ統理ス      代表 近藤 順

3.副會長ハ會長ヲ補佐シ會長事故アル時     愛知縣知多市新知字東屋敷22

ハ代行ス               

4.理事ハ役員會ノ審議權ヲ有ス     

5.常任理事ハ會計竝ニ會務ヲ處理ス   

6.役員任期ハ一ケ年トス但シ重任ヲ妨ゲズ                 

あとがき

今日、一時にくらべ、「動物ブーム」も収束して、ホッと胸をなでおろしている。動物園関係者も多いと思うが、

それとは裏腹に、動物を観覧させてメシを食っている人々にとっては、昔の夢よもう一度てな具合に、

あいもかわらず、見栄えのする珍獸はいないかと、共産圏や諸低開発国に情報網を拡大する向きもあろうかと思う。

CITESの国内法の整備がようやくされるなか、動物を持込むのがいよいよもって困難になり、

かつ「展示」も商行為とみなされた現状においては、研究施設をもたない動物園や国外の動物園とコネの無い動物園にとっては

現在飼育中の動物を現状維持するに止まり、それとても寿命や突発的な原因不明の病死など回避できない問題をかかえて

暗澹たる状況といわねばなるまい。などと、動物園にたいして、悪口をたたいたが、今更、動物園でもあるまい、といった状況の中、

これくらい問題意識を持っていること自体、極めて、希なのだ。かなり大物の動物関係者があいついで物故しているが、

自然誌古典文庫の主人として気になるのはその蔵書の行方である。「蔵書一代」とはこの業界の鉄則なので、

当然のことながら何かいわくでもないかぎり、蔵書は外部に流出する。最近の例だが、戦前の某動物園の園長を務めた人が亡くなった。

彼の息子が文筆家でもあり、まさか、外部には出ないであろうと思っていたら、あにはからんや、大阪の古書市場に出てきた。

店主に聞くと、どうもはっきりとしたことは言わない(出所を明確にしないのが、この業界の鉄則)。更に追及すると、

蔵書の大部分が公共団体に寄贈されたが、一部、状態の悪いものが(おそらくチリ交のタテ場を経由して)古書市場にながれたとのこと、

それを名古屋の古書店が買って、私の自然誌古典文庫に収まったという具合である。

しかし、「状態の悪いもの」だけが流れたはずなのに、当方に収まったものは状態が悪くない。戦前の海外動物園関係の文献で、

洋書として、極めて入手困難なしろものである。おそらく、公共団体の独断と偏見により分類された取捨行為によって、外部に流出したのだと思うが、

書物の宿命とは常にこうしたものである。同様の経路で私の自然誌古典文庫に収まったものも多々あり、

そうした本の由来を探索するだけでも結構興味深いものがあると思う。自然誌の古典を渉猟していて納得のいく書との出会い。

その書のレベルポイントとは何かといえば、動物のエンサイクロペディアとして成立しているかどうかという点である。

もちろん、全体をフォローしていれば文句はないが途方もない大著になると考えられるのでなるべくコンパクトに纏まっていなければならない。

そして、それがなおかつ国内外を問わず数多くの文献にあたり、当然、引用もされ、実在の生態にあたり、実験、観察がなされていなければならない。

こうした条件を完璧に備えた本(以下「動物本」という)は極めて少ない。