●睡魔が潜む車両

 列車に乗ると、「居眠りしている人」が必ず居る。通勤ラッシュの車内、座っている人の半数以上は居眠りしている。満員の車内で立っている私達はそれを恨めしくも思う。
 朝や夕方、夜の車内で眠るのは心理的・物理的にも理解出来るが、昼間でも居眠りしている人も少なくない。列車の揺れ具合い、走行音は絶好の「揺りかご」になるらしい。
 列車に乗ることが好きな私は、疲れている時など、余程眠い時以外はまず居眠りしない。流れる景色やすれ違う列車など眺めて楽しんでいる。パノラマカーの展望車先頭で居眠りしている人を見ると、「居眠りしているくらいなら場所を変わってくれ!」と思わず叫びたくなる。

 そんな私でも、特に寒い日に乗車すると、必ず居眠りしてしまう車両があった。それは、今は亡き、3700系列HL車のクロスシート車両だ。高校・大学時代の通学時に特にお世話になった車両である。
 冬に、この車両のクロスシート車に乗ると必ず「睡魔」に襲われた。その車両はもちろん、非冷房車。寒い車内の中、シートが半ば“へたばった”重心の低いシートに座ると、足元からお尻にかけて心地良い「温もり」が伝わってくる。冷え切った体にはたまらない心地よさだ。窓枠や肘掛に頬杖をつきながら、コタツに入ったような「安堵感」と心地よい「揺れ」をしばし味わっているといつのまにかウトウトしている。
 現在、名鉄車両はごく僅かを除いて全て冷房車。その頃と比べ、車両も良くなり、乗り心地、冷暖房も格段に良くなった。冷え切った体を、「空調」の効いた暖かい車両のクロスシートに預けながら、窓枠に頬杖をつくと、ふと「心地よい温もり」を懐かしく思い出した、寒い真冬のある日のことである。

(写真:ND502氏)

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