症例006
解説
UDS
UDS

1. 記録状況
Pvesはうまく記録ができていますが、Pabdは時間とともに基線が低下してしまっています。細かい波形はうまく拾えているようです。これは、何が起こっているのでしょうか。施設によっても異なるのですが、当院では風船をネラトンカテーテルの先端に縛り付けた自作のカテーテルを使用して直腸圧を計測しています。この風船に小さな穴が開いていたり、もしくは縛り付けた部分からわずかずつ漏れがあったりすると、直腸圧は最初にゼロ点を合わせた後も、徐々に低下していきます。このUDSでは、カテの不具合があって、直腸圧が下がっています。
このような事を防ぐためには、どうしたらよいでしょう。ゼロ点を合わせる前に風船が膨らませ過ぎないようにすると、たとえ小さな穴があいていても抜け出ることがありません。抜けすぎてしまうと圧を拾いにくくなってしまうので、しわが残る程度にほんの少しだけ風船を膨らませます。ある施設では風船を使用せず、直接ネラトンカテーテルのみで圧測定をしているそうです。それでもちゃんと測定は可能だと聞きました。便塊でカテ先の穴がふさがってしまうことがなければそれでもよいのかもしれません。
こういうときは、Pdetをそのまま読んではいけません。PvesからPabdを頭の中でサブトラクションして読んでいきましょう。
2. 蓄尿期
Capacity 550mlほど。
Compliance 良好です。
DO 認めません。
尿意 NDがあったすぐ後にSDがあるので、尿意切迫感に近い尿意の感じ方をしているかもしれません。
3. 排尿期
Qmax 5ml/sぐらい
PVR Vmicが300mlぐらいですので200ml程度の残尿がありそうです。
Pdet Pvesは小刻みに上下していますが、これは腹圧による上下です。Pvesが一番下がった所をつないだ線が、おおむね本来のPdetになるはずです。となるとPdetQmaxは40cmH2Oぐらいです。
腹圧 腹圧をかけて排尿をしようとしています。
ノモグラムに当てはめると収縮力はW-、閉塞度はIIとなります。

UDSサマリー DO- DU+ BOO±
腹圧をかけて排尿しようとしていますが、スムーズな排尿が得られていません。前立腺は小さいのですが多少閉塞があるようです。
経過
残尿の増加と、尿路感染があることから、効果は確実とはいえないものの前立腺肥大症手術をおすすめしました。患者さんは症状があまり無いことから経過観察を希望。
2年後には残尿380mlと悪化傾向となり、再度手術を勧めましたが、手術を拒否されました。アボルブが発売となっており、アボルブを開始しました。
その後、脳梗塞を発症。脳梗塞で入院中に残尿がさらに増加。自己導尿が開始となりました。脳梗塞直後の手術を避け、安定時期に手術をおすすめしていましたが、再度脳梗塞を発症してしまいました。
2回目の脳梗塞から半年後にTURPを行いました。
術前膀胱エコー

術前前立腺エコー

切除重量11g
術後排尿障害、尿路感染症発症のリスクが高いため、カテーテル留置期間は5日間と長めに設定しました。順調に退院しましたが、後にenterococcusによる術後尿路感染からの敗血症を来しました。その後さらに術後出血も来たし尿道カテーテル再留置を必要としました。幸いその後の経過は順調で、脳梗塞の再発などは起こさず、残尿は消失、自己導尿から離脱しました。
術後前立腺エコー
