泌尿器科情報局 N Pro

症例019

解説

膝痛で動くことができず、3日間寝たきりとなっていた独居高齢女性です。この症例で考えるべきことは二つあります。一つ目はなぜ尿閉となったかということと、もう一つはこの患者さんの問題点は尿閉だけなのか、ということです。

尿閉となった原因は何でしょう。正確ところはわかりませんが、考えられる原因は2つあり、膝痛による痛みと、トイレに行けなかったということです。痛みは尿意を忘れさせますし、交感神経優位となることで排尿困難の原因となります。それ以上に影響が強いのは、トイレに行けなかったことです。高齢女性では、トイレに座らないと排尿できないことは珍しくありません。高齢女性の中には排尿筋収縮力が低下している患者がかなりの確率で含まれています。女性ですので尿道抵抗が低いために問題なく排尿できることがほとんどですが、そのような患者では、膀胱内圧のみでは排尿が開始できず腹圧の補助があって初めて排尿できます。排尿姿勢を確保することが排尿に必要な患者さんがいるということは、高齢者の尿排出障害を評価する際には非常に重要な視点です。

このような状況では、脱水、電解質異常、感染などに注意が必要ですが、入院後発熱をきたすこともなく、食事も問題なく摂取が可能で、利尿も問題なくありました。尿意は当初あいまいな状態で導尿で管理されていましたが、ある程度蓄尿のあるタイミングでトイレで排尿を試みてもらったところ、残尿なく自排尿を行うことができました。膝痛があるため、トイレ移乗は全介助が必要でしたが、尿意は徐々に回復して、自ら尿意を看護師に伝えることができるようになりました。

さて、この患者さんの問題点は、尿閉だけではありませんね。当然、寝たきりの原因となった変形性膝関節症はこの方のもう一つの問題ですが、それだけでしょうか。

もし民生委員の方が家を訪れなかったら、この者さんはどうなっていたでしょう。3日間飲まず食わず、排尿もせずの状態で寝ていたわけですから、孤独死をしていてもおかしくなかった状況です。どうして、はいずってでもトイレに行ったり、水分を取とったりしようとしなかったのでしょう。さらに言えば、電話をして助けを求めることもできたはずです。 脳MRI

老年科に依頼し認知症と診断され、独居継続は困難と判断されました。後に、アルツハイマー型認知症の診断となりました。