泌尿器科情報局 N Pro

症例020

解説

尿意があっても排尿が無いとのことで、前医で尿道カテーテルを留置された患者さんが来院しました。何を考えるべきでしょう。

尿閉の原因はどのようなものが考えられるでしょうか。尿閉となるには何らかのきっかけとなるイベントがあることが普通ですが、この方にはそのようなきっかけはありませんでした。

そもそも、他院でならいざ知らず、当院で6年前にTURPをしています。膀胱頚部狭窄、尿道狭窄、膀胱機能低下など、6年前の手術前後の評価をもとに、当面治療は必要ないと判断して、治療を終了していますので、その後尿閉となるとはあまり考えたくありません。

実際、エコーでも再肥大はないようですし、尿道カテーテルも問題なく留置されており尿道狭窄も考えにくいと思われます。

では、何があったのでしょう。

尿閉ではなかったのではないでしょうか。高齢者では、尿意を感じてトイレにいくがトイレについた頃には尿意が収まってしまい結局排尿せずにトイレを出る、といういわゆる「空振り」症状を呈することがあります。これは、過活動膀胱の症状と排尿開始機能の低下が合わさって出現するのもで、DHICの状態の一症状として考えるとわかりやすいかもしれません。

この患者さんと、その家族に話を詳しく聞いてみました。すると、もともと尿意があってトイレに行っても排尿できないという症状は、以前より時々あったそうです。尿道カテーテルを入れた際に、どの程度尿が流出したかは、紹介状には記載がなく、本人も家族も正確な量は把握していませんでしたが、少なくとも留置直後に大量に尿が出たということはなかったようです。

以上から、尿閉ではなく、空振り症状を尿閉と間違えただけだったのではないかと疑い、尿道カテーテルを抜去しました。念のため入院をおすすめしましたが、同意されませんでしたので、タムスロシンを処方して帰宅となりました。その後、自排尿があり、尿閉となることはありませんでした。