泌尿器科情報局 N

前立腺肥大症とは

膀胱(ぼうこう)とは下腹部にある尿をためておく臓器です。排尿(おしっこ)の時の通り道を尿道(にょうどう)と呼びますが、普段は尿道括約筋(にょうどうかつやくきん)が尿道を締め付けることで尿が漏れないようにしています。男性の場合には膀胱と尿道括約筋と膀胱の間に前立腺(ぜんりつせん)があり、尿は前立腺、括約筋、尿道を通って出て行きます。

患者さんごとに早い遅いはありますが、加齢とともに前立腺は大きくなってゆきます。個人差が大きく、同じ年齢でも非常に前立腺が大きい方もいますが、まったく大きくない方もいます。大きくなること自体は困った症状を来すことはありませんが、前立腺が大きくなることで尿の通り道が狭くなると症状が出てきます。この尿の通り道が狭くなることを、専門の泌尿器科医は下部尿路閉塞(BOO:Bladder Outlet Obstruction)と呼びます。本来の前立腺肥大症は、肥大した前立腺のために下部尿路閉塞が起こり、そのために様々な症状を来した状態を指します。

前立腺肥大症の症状

前立腺肥大症の症状は大きく2つに分類します。

1. 尿の出方が悪くなることに関連した症状
2. 排尿の我慢が弱くなることに関連した症状

尿の出方が悪くなるのは、尿の通り道が狭くなっているために起こります。排尿の我慢が弱くなるのは、尿の出方が悪いために膀胱に負担がかかるために起こる場合や、尿の通り道が狭くなることが直接刺激となって尿意を感じてしまう場合などが考えられていますが、詳しいメカニズムはよくわかっていません。この、前立腺が大きくなることで尿の通り道が狭くなり、尿の出方が悪くなったり我慢が弱くなったりすることを、前立腺肥大症と呼びます。

加齢による変化

前立腺肥大症からは話がそれますが、加齢とともに膀胱の能力は徐々に低下してゆきます。膀胱の能力の低下の程度も個人差が大きく、同じ年齢でもまったく問題の無い患者さんから、とても能力が低下してしまう患者さんまで様々です。膀胱の能力とは、尿を出すために膀胱が小さく縮む力(収縮力:しゅうしゅくりょく)と、膀胱に尿をためる能力です。

加齢によって膀胱の能力が低下すると、尿の出方は悪くなりますし、排尿の我慢も弱くなります。つまり、前立腺肥大症がなかったとしても、加齢によって尿の出方が悪くなったり、排尿の我慢が弱くなったりします。実際、女性でも尿の出方が弱くなったり、我慢が弱くなったりする方は大勢います。ここで強調したいのは、前立腺肥大症と加齢による膀胱の能力の低下は症状が同じだと言うことです。つまり症状だけからは、前立腺肥大症と加齢による変化を区別することはできないと言うことです。

前立腺肥大症と男性下部尿路症状(だんせいかぶにょうろしょうじょう:male LUTS)

男性では尿は必ず前立腺の中を通って出るため、多かれ少なかれ前立腺は尿の出方に影響しますので、男性であればすべての方に少なくともごく軽度の前立腺肥大があるといえます。前立腺肥大症は重度の肥大から非常に軽い肥大まで、程度の軽い重いで区別するものであり、あるかないかのどちらかにきれいに区別できるものではありません。以前は男性の排尿の症状はすべて前立腺肥大症と診断したうえで、重症から軽症にランク付けすることで区別をしている時代がありました。

しかし実際には加齢による膀胱の能力の低下や他の病気でも排尿の症状が起こります。当然、加齢による膀胱の能力の低下も程度が強いか弱いかの問題です。このような加齢によって症状が起こっていて前立腺肥大による影響がほとんどない患者さんでも、以前は前立腺肥大症の診断がついてしまう混乱がありましたが、現在では混乱を避けるため男性の排尿の症状はすべて男性下部尿路症状と呼ぶようになりました。そして男性下部尿路症状の一部は前立腺肥大症のために起こっていると表現するようになりました。しかしまだまだ区別がついていない場合もよくあります。つまり、前立腺は大して大きくないのに前立腺肥大症と診断されていることがよくあります。