泌尿器科情報局 N

前立腺肥大症の診断

前立腺の大きさはエコー検査(超音波画像診断)を行って測定します。しかし、前立腺肥大症を本当の意味で診断するためには、前立腺がどの程度尿の通り道を狭くして、どのぐらい尿の出方の邪魔になっているのかを判断しなくてはなりません。どの程度尿の通り道が狭くなっているのか、つまり下部尿路閉塞がどの程度あるのかということは、前立腺の大きさだけではある程度までしか判断できません。すごく前立腺が大きければ、通り道は狭くなり、排尿の邪魔になる可能性はとても高いと言えます。しかし中ぐらいの大きさの前立腺では、邪魔をしているかもしれませんし、全然邪魔をしていないかもしれません。前立腺が小さい場合は通り道の邪魔になる可能性はやや低くなります。でも尿の通り道の形が曲がっていたりすると、たとえ前立腺が小さくても、かなり排尿の邪魔になってしまうことがあります。

尿の通り道の狭くなり方を正確に測定するためにはUDS(尿流動態検査)という、専門装置を用いた検査を行う必要があります。しかしUDSを行っている病院は全国でもごくわずかです。数多くの経験を積めば、エコー検査(超音波画像装置)や、尿流量測定(専用のトイレでの排尿の記録)をもとに、ある程度UDSの結果を予測できるようになります。たとえば、エコー検査で前立腺がどの程度膀胱側にはみ出してしまっているか(IPPもしくは中葉肥大などと呼びます)や、前立腺の形の丸さ(PCAR)、前立腺の中心部分の比率や、前立腺の左右の大きさのバランス、膀胱の形(壁の分厚さや変形の程度など)などを総合的に判断します。カメラ(膀胱鏡)を用いて直接通り道を観察するのも非常に参考になりますが、検査に多少の痛みを伴います。ただしカメラで通り道をみたとしてもそれを正しく判断できるかどうかは医師の判断力次第です。

これらのように、前立腺の大きさだけでは無く、前立腺の形や膀胱の形、実際の尿の出方などから、前立腺による尿の通り道の狭くなり方を判断して、前立腺肥大症という診断をつけてもらえるとよいと思います。しかし、残念ながら泌尿器科の専門医であっても、前立腺の大きさ以外のことまで考えて、前立腺による尿の通り道の狭くなり方を推定できている医師は多くありません。

もし可能であれば、膀胱の能力、つまり収縮力や排尿を我慢する能力なども判断をして治療を選択できることが望ましいところです。実際、患者さんは前立腺肥大症を治すために病院にきているというよりは、症状をよくしたいから病院に受診しています。病院を受診する理由の症状の半分以上はこの排尿を我慢する能力に関連した症状です。しかし、この排尿を我慢する能力の異常は、前立腺肥大症だけではなく、加齢や脳神経などの病気などでも起こるため、前立腺肥大症だけしか診断できないようでは思ったような治療効果が得られません。

膀胱の収縮力はUDSで判断が可能ですし、ある程度はエコー検査や尿流量測定でも判断が可能です。しかしこの排尿を我慢する能力を正確に測定する方法は、今のところ確立されていません。多くの場合、質問用紙の回答を点数化して排尿を我慢する能力の問題があるかどうかを判断しますが、かなりおおざっぱな判断しかできません。我慢という、ある瞬間だけではなく常に持続して発揮しなければならない能力を調べるためには、患者さんの日常をしる必要があります。排尿記録という、排尿をした時間や排尿の量、そのときの尿意の程度などを記録すると、日常の状態がある程度判断できます。