泌尿器科情報局 N Pro

排尿サークル

高齢者の下部尿路機能障害を理解するために、もう少し細かく見てみましょう。正常な排尿は、下部尿路機能だけでは維持できません。尿が膀胱内に蓄尿された状態を尿意と感じ、尿意を我慢し、排尿しようとして行動を起こし、準備ができた時点で排尿をします。後始末をし、その後また蓄尿の状態へと戻ります。この一連の流れを、われわれは排尿サークルと呼んでいます。高齢者の下部尿路機能障害を理解する上でこの排尿サークルの考え方はたいへん有用です。

蓄尿症状のために十分に蓄尿できなかったり、尿意を我慢できなかったりすると、頻尿や尿失禁の状態となります。それだけではなく、十分な蓄尿ができなかったり、トイレまでたどり着けなかったりするために、しっかりと排尿出来ないという、排尿困難の症状、つまり尿排出症状も出現します。

一方、尿排出障害のためにしっかり排尿ができないために排尿困難を感じる事になりますが、十分な排尿ができず残尿が発生すると、膀胱はすぐまたいっぱいになるために十分に蓄尿ができなくなります。そのために頻尿を来しますし、あまりに残尿が多ければ溢流性尿失禁となります。

このように、下部尿路症状は排尿サークルの一連の流れがスムーズに運ばないときに発生します。この排尿サークルがスムーズに運ばない原因は、かならずしも下部尿路機能だけの問題ではありません。意識障害のために尿意を感じなければ尿意を我慢することもなければ排尿をしようとすることもありません。認知症の場合でも同様です。尿意を感じて排尿をしようと考えても、ADL障害のためにトイレに行けなければ尿失禁となるか、排尿できず尿閉となってしまいます。このように、高齢者では下部尿路機能以外の問題によっても、排尿状態の異常を来たします。逆にいえば、このような問題を持った高齢者では下部尿路機能障害に注意しないといけないと言うことです。

さらに言えば、このような下部尿路機能以外の問題は、かなりの部分を介護によって補うことができます。トイレに行くことができない患者さんは、できる限りトイレに連れて行ってあげるべきですし、尿意を理解できない認知症患者さんでは、尿意のサインに合わせるか、ある程度の時間間隔でトイレに誘導を行うことで、トイレでの排尿ができるようになります。