泌尿器科情報局 N Pro

Watt Factorとは

WF(Watt Factor)とは

WFとは、膀胱の尿排出時に増加する消費熱量を単位面積あたり単位時間あたりにして、膀胱容量V、尿流量Q、排尿筋圧Pdet で表したものです。

Hillの式

筋肉は、生きているだけでエネルギーを消費します。収縮のために神経刺激があると、筋肉は収縮をしようとしてエネルギー消費が増加します。筋肉の発揮する力の強さをP、筋肉の収縮する速度をν(ニュー)で表します。ものを動かさず筋肉の長さが変わらなくても(ν=0)、収縮力でものを支えているだけでもエネルギーを消費します。これを等尺性収縮と言います。このときの力が筋肉が出せる最大の力((P0))です。逆に負荷がなく力がかかっていなくても(P=0)、収縮して長さを短くするだけでもエネルギーが必要です。当然負荷がないので筋肉が自律的に短縮するスピードはその筋肉の最大値になり、その速度を最大短縮速度(νmax)と言います。最大限努力したときに筋肉が消費するエネルギー(Emax)は一定であり、収縮速度と負荷の間に一定の関係式があることが分かりました。この筋肉の発揮する力と収縮速度の関係式をHillの式といいます。

a , b は筋肉ごとの定数です。この関係は筋肉が力を発揮しやすい至適な長さの際に、最大の刺激を与えて得られる式です。実際に筋肉が外界に与えたエネルギーはPνで表されますので、Pbやaνは筋肉が力を発揮したり長さを変えたりするために余分に消費するエネルギーです。外に及ぼす仕事量(Pν)が最大になるのは等尺性収縮の時でも最大短縮速度のときでもなく、その途中のほどよい負荷がかかっている時になります。

消費できるエネルギーは一定なので、速い速度で筋肉を動かすと弱い力しか出せませんし、強い力は遅くしか出せないと言うことです。手を抜かない限りは、筋肉はその限界の働きをします。

このHillの式を膀胱に当てはめて考えたものが、WFとなります。

WFの計算

膀胱を球体と仮定し、体積をV、表面積をS、最大周囲長をl、半径をr、縦横を球の中心からの角度θで区切られる膀胱表面Sθに存在する平滑筋にかかっている縦方向の張力をPとします。

膀胱内の圧力が膀胱表面Sθにあたえる力はPdet 2となります。一方張力Pで上下左右の4つの隣接する膀胱表面に角度θ/2で引っ張られて釣り合っているので、

θが十分に小さければsinθはθと同じ値になるので


単位面積あたりの消費エネルギーがWFなので、表面積Sθの消費エネルギーはWFr2θ2で表せます。

最大周囲長(l=2πr)の収縮速度をνdetとすると、Sθの縦方向の収縮速度はνdetθ/2πであらわされます。これをHillの式に代入します。定数αとβを用いて、筋肉は縦横2方向に収縮するので、




, とすると

νdetはQとVであらわすことができます。

Qは尿流量なので体積の減少速度と同じとなり、 から、

なので

ということで、できあがった式は


尿道の閉塞の程度を実験的な操作で変えてみて、それぞれでWFを計算してもいつもだいたい同じ数字が出ることが分かり、WFが尿道の影響を受けない膀胱の収縮力を表す値として使えることが分かりました。途中の計算は分からなくても、膀胱の性能を力と速度という二つの評価項目であらわしていたところを、WFというエネルギーに着目することで、膀胱の性能を一つの数字だけで表せるようになったのだと理解してください。