泌尿器科情報局 N Pro

CMG(CO2 cystometry)について

CMG(cystometrography)とは、古くはよく行われた検査で、現在でもUDSとしてCMGを行っている施設も残っています。二酸化炭素(CO2)を注入して膀胱内圧を測定しますので、CO2 cystometryとも呼びます。測定ラインが1本で済むため比較的簡便です。

残念ながら、現在ではCMGは有用性が乏しいと考えられています。論文の世界では信頼性が低いとしてCMGの結果は信用されません。いろいろな理由がありますが、

1. 測定ラインが1本のため腹圧の影響を除外できず、真の膀胱内圧ではない可能性がある。
2. CO2を使用することで膀胱への刺激が起こる可能性がある。
3. 排尿圧が測定できない。

などがあげられます。

つまり、検査のやり方や解釈に特別な注意が必要で、そのうえ検査結果によってはほとんど意味のない所見しか得られない場合もあるということです。

管理人もCMGを行った経験はそれほど多くありませんが、PFS(pressure flow study)のない施設で多少でも情報を得たい場合のための注意点を記そうと思います。

CO2を媒体として用います。当然ですがCO2のカートリッジが空にならないように注意します。CO2は気体ですので質量が軽く、測定ルート内で媒体に多少の流れがあってもルートの前後での圧力差はほとんどありません。そのため注入ラインと測定ラインが同一でも問題ありません。一方液体を媒体とした場合には、質量のある媒体が移動するために圧力差を必要とします。よって注入ラインの上流と下流で圧力が異なってしまうため、PFS(pressure flow study)では、注入ラインとは別に圧測定ラインが必要になります。

CMG開始前に測定ルートを膀胱内に入れた際に膀胱内の尿を空にしますが、それでも利尿がつくため膀胱内には多少の尿がたまります。CO2を注入している際には問題ありませんが、CO2の注入をやめてしまうとルートの中に尿が入ってしまいます。ルート内に尿が入ると液体と気体が混じりルート内が均一でなくなるため圧力が伝わらなくなります。そのためCO2 cystometryでは検査中は常にCO2を注入し続けた方が良いことになります。すぐに排尿が開始できない患者さんでは、膀胱がどんどん大きくなってしまい、排尿の開始を待つことができません。

CMGでは膀胱内圧のみを測定し、腹圧を測定しないことが多く、得られた膀胱内圧には腹圧の影響があります。なるべく検査中に腹圧をかけないように患者さんに注意してもらわないといけません。いくら注意をしてもつい腹圧がかかってしまう患者さんは珍しくありません。結果を解釈する際には、その点を疑いながら結果を見る必要があります。

蓄尿時にCO2の刺激によって排尿筋過活動が起きやすくなっている可能性があります。とはいえ、そもそもカテーテルが入っていたり、注入速度が生理的な蓄尿スピードと比べて異常に早かったりするため、もともとPFSでも排尿筋過活動は起きやすくなっていると言えます。また、たった1回の蓄尿を調べただけで、その患者さんの日常をすべて表していると考えてよいのでしょうか。明らかに排尿筋過活動がある患者さんでも、非日常的な検査中には排尿筋過活動が起こらないことがあってもおかしくありません。また携帯型のUDSを使った研究で、ほとんど過活動膀胱症状のない患者さんでも排尿筋過活動がおこっていることが明らかになりました。とはいえ、ある程度の傾向は表れると考えてよいので、解釈の際に注意すれば、排尿筋過活動の有無は多少は意味のある所見と言えます。

CO2は水に溶けやすい気体ですので、注入量と膀胱容量は多少ずれます。よって膀胱コンプライアンスは多少高めに測定されます。しかしCO2の刺激はコンプライアンスを下げる向きに働きます。また、尿意も多少CO2の刺激で変化があるかもしれません。

排出期は蓄尿期以上に解釈が難しくなります。患者さんが排尿を開始しようとして腹圧をかけてしまう癖がある患者さんだと、膀胱内圧は腹圧の影響をうけて排尿筋圧とは違った値となってしまいます。

排尿の開始時点での膀胱内圧、つまり排尿開始圧(Opening Pressure)は多少あてにしてもよいのですが、排尿開始圧の高低が治療方針を変えることはあまりありません。排尿が始まってしまうとCO2は軽いため一気に排出されてしまい、膀胱内圧は一気に下がります。よって排尿筋圧は実際の排尿筋圧よりも低い値となってしまいます。軽い気体は狭い隙間でもすぐに排出されるため、下部尿路閉塞の判定はできません。

排出期の所見で意味があるのは、排尿筋収縮の有無および測定された圧以上の排尿筋圧が出せるということが分かることになります。排尿筋収縮がある場合は意味がありますが、排尿筋収縮が無かったとしても、たまたま排尿できなかっただけの場合もあります。もっと時間をかければ排尿できたかもしれません。

と、ここまで書いておいて今更ですが、あえてCMGを行う状況はそれほど多くありません。PFSを持っている施設でCMGを行う理由はありません。もしPFSを持たない施設でCMGを行うメリットがありそうな状況を考えるのであれば、以下のケースなどでしょうか。

1. 蓄尿期の排尿筋過活動の有無、低コンプライアンスの有無によって、導尿管理の導入や抗コリン剤の調節を行う場合
2. 尿閉で自排尿が全くない男性患者で、排尿筋収縮が確認できたらTURPをすすめようと考えている場合。(ただし排尿筋収縮が無くてもTURPが無効とは限りません。)

病歴や既往歴、これまでの症状や経過、エコー所見などを踏まえると、多くの症例でCMGの結果はある程度予測できます。それでもあえてCMGを行うのであれば、いっそPFSを持つ施設に相談してしまってもよいのかもしれません。