泌尿器科情報局 N Pro

排尿自立指導料クイズ(医師、看護師向け)2

答え

1.2.3. すべて誤り。

解説

1. 尿道カテーテルを抜去して6時間たつが自排尿なかったので、エコーで膀胱内に1,000mlの尿が貯留していたことを確認し、尿道カテーテルを再留置した。

この文章は二つの意味で誤りがあります。一つは、尿閉つまり膀胱内に1,000mlもの尿が貯留してしまった状況です。膀胱容量は個人差がありますので、患者さんによっては1,000mlの尿量は問題が無いかもしれませんが、多くの場合この量は膀胱に過度の負担がかかった状態と思われます。膀胱機能が低下してしまうかもしれませんので、もう少し早めに気付く必要があったと思われます。

もう一つの誤りは尿閉と判断しカテーテルを再留置した点です。尿閉と判断した場合の対応をどうするべきか、専門医の中でのコンセンサスは出来上がっていません。論文の中でもカテーテル抜去不成功に対する対処として、カテーテル再留置を行っている論文は珍しくありません。ですから教科書的には、カテーテル再留置は完全な誤りとは言えません。ですが教科書や論文ではあまり取り上げられていない知見をもとに、あえてこの選択肢は誤りとしました。

排尿障害の原因は多岐にわたりいまだ完全に解明されていません。なかでも手術後尿閉などは非常によくある術後合併症なのですが、その病態生理はほぼ解明されていません。手術後だけとは限らず単に尿道カテーテル留置を行っただけでも、カテーテル抜去後に尿閉となる症例があります。頻度はそれほど高くはありませんが、多くの場合高齢者に発生します。カテーテル留置後の尿閉の原因は不明で、神経障害や前立腺肥大症が無くても発生します。多くの場合1-2日で回復をしますが、1回排尿ができなかったのみでカテーテルを再留置してしまうと、回復すべき症例を見逃してしまうことになります。遅い症例でも1週間程度で回復をするため可能であれば1週間ぐらいは間欠導尿で様子を見るべきと思います。ただし、尿閉を放置しないという条件が必要です。数日で回復するはずの尿閉ですが、尿閉を放置することで膀胱が過拡張してしまい、膀胱機能が低下してしまいます。すると尿閉の回復が遠のいてしまいます。よって尿閉を回避できるだけのマンパワーの無い状況においては、カテーテル再留置も次善の策としては許容されるのかもしれません。排尿自立指導料を算定する状況で、マンパワーの不足を言い訳にするわけにはいかないように思いますがいかがでしょうか。

2. 尿道カテーテルをクランプしたが尿意が無いため尿道カテーテル抜去は行わないこととした。

尿道カテーテル抜去にそなえ膀胱訓練と称し尿道カテーテルをクランプする行為を行っていた時代がありました。現在では膀胱訓練は無意味とする意見が大多数を占めます。よってこの選択肢は誤りです。

尿閉から回復する過程で、尿意の回復が先行する例は多数見受けられますので、カテーテルを抜去する前に尿意が回復したことを確認したい気持ちは分からなくもありません。しかし、尿意があるからと言って排尿できるとは限りません。尿意が無いもしくは尿意があって訴えられない状態であったとしても、尿失禁は起こりえます。尿意と自排尿が可能なこととの関連は多少ありますが、それはカテーテルを抜去するかどうかの判断を左右するほどの関連ではありません。また、もし排尿筋収縮が出現した際に尿道カテーテルがクランプされていると膀胱内圧は過度に上昇し、有熱性尿路感染症のリスクを増やしてしまうかもしれません。よって膀胱訓練は行わないことが推奨されます。

3. 尿閉のために尿道カテーテル留置を行った場合、尿道カテーテル抜去は試みず定期的に交換を行うべきである。

一度尿閉になった患者さんは、もう二度と自排尿はできないのでしょうか。確かに、もし尿閉になった原因が改善していなければ、尿道カテーテル抜去後も再度尿閉なります。では、尿閉となった原因は、どのように突き止めるのでしょう。自排尿が可能であった状況から、どのようなイベントが発生したのかは、尿閉の原因を推定するうえで非常に重要な情報になります。理想的には尿閉の原因を判断し、それが回復していると判断した時点でカテーテルを抜去するという予定を立てるとよいでしょう。しかし肺炎や骨折といった、本来であれば排尿機能とは関係のないはずのイベントが尿閉のきっかけになることも珍しくなく、尿閉となった原因が不明の場合もよくあります。また回復がゆっくりで、いつになれば回復したと決められない病態の場合もあります。よって、尿閉となった原因が現在も残っていると断言できないのであれば、尿道カテーテルは抜去を試みるべきであると思います。