泌尿器科情報局 N Pro

排尿自立指導料クイズ(医師向け)2

答え

1.2.3.4. すべて誤り。

正しいことをするのは非常に難しいことで、間違いをダメだしする方が簡単なので、こんな問題になりました。手抜きですね。

解説

1. 統合失調症で入院中。下腹部膨満ありエコーで尿量600ml貯留しているが尿意が無いため尿道カテーテルを留置した。

膀胱内に尿が600ml貯留していますが尿意が無いようです。この状態は尿閉なのでしょうか。膀胱容量には個人差があり600mlは必ずしも尿閉とは言えません。しかし、尿閉となっている可能性も否定はできません。そのため、膀胱に十分な尿量が貯留していることが判明した時点でまずは排尿誘導を行います。尿意が無い状態で排尿ができない患者さんも時々いますが、多くの場合尿が十分にたまっていれば自排尿が可能です。もしそれでも排尿できない場合、もっと尿がたまるまで待てば尿意が出現して自排尿が可能になるかもしれません。どの程度の尿量までなら、対処をせずに様子を見てもよいのでしょうか。まったく情報の無い状態であれば、一般的には400ml程度が一つの目安と考えてください。 一方、統合失調症の患者さんに多飲、多尿となっている患者さんが多いことが知られています。また多くの場合多量の向精神薬を内服しており、尿意が減弱していることもよくあります。そのため統合失調症の患者さんでは膀胱容量が大きくなっていることがまれではありません。600ml貯留していたとしても、尿閉ではなく普段通りの状態である可能性もあります。 かといって、病状によっては入院を契機に尿閉となってしまっている可能性もあるかもしれません。このような場合には安全を優先し、ある程度尿が貯留した時点で対処を行わなければなりません。ですが、尿閉と診断できない状況ですので、とるべき対応としては導尿で対処するべきです。導尿を継続しつつ、徐々に膀胱に貯留する尿量を増やしていき、尿意や自排尿の出現を待つのが、安全な管理方法であろうと思います。カテーテルを留置してしまうと、尿閉となる危険性はなくなりますが、必要のない留置を行ってしまう可能性があります。自排尿できる可能性を隠してしまう尿道カテーテル留置は、極力避けるべきでしょう。

2. 1,000mlの尿閉で尿道カテーテルを留置した。3日後にカテーテル抜去し7日間間欠導尿を行ったが自排尿、尿失禁のいずれもなく、自排尿への回復は困難であると判断した。

自排尿への回復の可能性はどのように判断したらよいのでしょうか。尿閉に至った病態を解明せずに、回復の可能性は判断できません。よって、単に7日間様子を見ただけで自排尿への回復を困難と判断するのは、あまりに早計です。さらに言えば、尿閉に至った病態が完全に解明される症例はごくわずかです。たとえば脳梗塞で尿閉となったとして、どの程度下部尿路機能が変化するのかは、ある程度の傾向はあったとしても患者さんごとに違いますし、その変化も時期によって変化してゆきます。また回復するとしても尿閉を来す以前の状態以上に回復することはまれであるため、尿閉を来した患者さんのもともとの下部尿路機能がどうであったかは重要ですが、もともとの下部尿路機能は尿閉を来したことによる影響で変化しています。以前に泌尿器科受診歴があり判断がされている場合を除き、正しく判断することは困難です。よって、多くの場合、自排尿の回復の予測は非常に困難です。なお例外として脊椎損傷などによる明らかな神経因性膀胱などがあり、安全にカテーテル管理を離脱するためには泌尿器科医の詳しい判断が必須です。何事も将来のことを完全に予測することはとても難しいことであり、安易に排尿が回復しないと判断するのは慎む必要があります。

3. 尿閉でカテーテル留置を行った前立腺肥大症患者では、前立腺肥大症の治療を行わない限り自排尿に回復することはない。

前立腺肥大症で尿閉となった場合、前立腺肥大症の治療を行わなければ、尿閉の原因が残っているため再度尿閉となります。では、前立腺肥大症の患者さんは、前立腺肥大症以外の原因で尿閉となることはないでしょうか。そんなことはありません。当然、尿閉の原因が改善すれば排尿は回復するかもしれません。ただし、前立腺肥大症の患者さんでは治療が行わない場合、回復が遅くなりやすい、もしくは回復しない可能性がやや高くなります。

4. 尿道カテーテル抜去した翌日に38.5℃の発熱があったため、尿道カテーテルを再留置した。

CAUTI(カテーテル関連尿路感染症)に関係した設問です。尿道カテーテルを留置した状態では、尿路感染が起きやすくなるため、尿道カテーテルを留置する期間は極力短くするべきです。一方、尿路感染が起きやすいのは、カテーテル操作を行う場面、つまり膀胱洗浄であったり、カテーテル抜去を行ったりするときです。このケースではカテーテル抜去翌日に発熱を来しており、CAUTIと判断されます。さて、CAUTIがあったら必ずカテーテルは再留置が必要なのでしょうか。再留置を行うことで、再度CAUTIのリスクを作ってしまいます。カテーテルの挿入、抜去を繰り返すのはそのたびに尿路感染のリスクをつくることになります。危険な橋を何度も渡るのはできれば避けたいところです。尿道カテーテルが不要と判断して抜去を決めたわけですから、どうしてもカテーテルが必要と判断される状況にならない限り、できるだけ再留置は避けたいと思います。

カテーテル抜去後に発熱があった場合に、再留置が必要な状況としては2通りのケースが想定されます。ひとつは敗血症となり全身状態の管理のために尿道留置カテーテルが必要なほどの重症となってしまった場合です。もう一つはカテーテル留置以外の状態では尿路感染のコントロールができない場合です。尿路感染をコントロールするためにカテーテル留置が必須な状態というのは、尿閉が放置されている場合や一部の神経因性膀胱を除くと非常にまれな状態です。尿閉のチェックを行ったうえで、適切に尿路感染の治療を行うことで通常の症例では感染のコントロールが可能です。