泌尿器科情報局 N Pro

排尿自立指導料クイズ(泌尿器科医向け)1-2

解説

正しいことを行うのはとても難しいことです。クイズを作る上でも絶対に間違いではない選択枝を作ることができず、このような問題になりました。

1. 女性の尿閉では、膀胱出口部閉塞(膀胱頚部狭窄、尿道狭窄)が除外できた場合、神経因性膀胱と診断して良い。

尿閉の原因は、膀胱収縮力の低下もしくは下部尿路閉塞という、2つの原因に分けられると考えている泌尿器科医は多いかもしれません。しかし、これは尿流量率の低下の原因が膀胱収縮力の低下か下部尿路閉塞のどちらかもしくは両方に原因があるという理論を誤用してしまった結果です。尿流量率、つまり排尿の効率が良いか悪いかについては、ほとんどの場合で、シェーファーのノモグラムに示されるように、膀胱収縮力の低下か下部尿路閉塞に原因を分けられます。しかし、尿閉や残尿の増加については、必ずしも排尿効率の悪化のみで決まるものでは無く、他のいろいろな因子が関係して発生するものです。 さて、膀胱出口部閉塞が除外されたとしても、他の様々な因子の関与の可能性は否定できません。

・加齢による排尿収縮力低下
・薬剤性排尿障害
・意識障害
・便秘
・排尿姿勢をとれないことによる排尿障害

など、よく発生する状況をあげただけでもこれだけの鑑別が上がります。よって、下部尿路閉塞が無いと言うだけで神経因性膀胱の診断をつけてしまうのは誤りと言えます。当然のことですが、他に明らかな尿閉の原因となる状態が見つからなければ、神経因性膀胱の疑いとして診察、検査を追加することは間違いではありません。

2. 急性前立腺炎で尿閉となった患者さんの前立腺サイズが60mlであった場合、尿閉の改善には前立腺肥大症手術が必要となる可能性が高い。

急性前立腺炎の合併症として、敗血症と並んで注意が必要なものは、排尿障害です。前立腺の炎症によって前立腺が腫大し下部尿路閉塞が悪化することで、排尿障害が発生します。膀胱内圧が上昇し、感染の悪化や敗血症のリスクを上昇させます。

さて、急性前立腺炎では急性期の排尿管理をどのようにするべきでしょうか。下部尿路閉塞が軽度であればαブロッカーの内服を行い、重度であれば間欠導尿または尿道カテーテル留置を行います。間欠導尿と尿道カテーテル留置のいずれが良いのかは分かっていません。尿道カテーテル留置が急性前立腺炎のリスク因子となっていることを理由に、急性前立腺炎の治療では間欠導尿を選択するべきと言う意見もあるようですが、不適切な間欠導尿しかできない環境であれば、尿道カテーテル留置の方が安全な場合もあると思います。個人的な経験上でも、尿道カテーテル留置の方が感染のコントロールが良好となるように感じることもよくありました。前立腺の閉塞が強い場合、カテーテル留置によってカテーテルの脇に隙間ができることが有利に働くのかもしれません。他にも、毎回の間欠導尿による痛みが耐えられない患者さんもいますし、尿道カテーテル留置中の違和感が耐えられない患者さんもいますので、ケースバイケースの側面もあります。敗血症で全身状態が極度に悪化すれば尿道カテーテル留置を選択するしかないかもしれません。

話がそれましたが、感染のコントロールがついた後に排尿状態はどのようになるのでしょう。前立腺は60mlとなっていますが、これは前立腺炎によって腫大した結果であり、感染がおさまると前立腺は縮小します。急性前立腺炎を発症する以前から排尿障害が重度であったケースを除けば、多くの場合急性前立腺炎が軽快すると排尿障害も改善します。よって、尿閉の改善のために前立腺肥大症手術が必要となる可能性はそれほど高くありません。ただし、感染がおちついた後にも排尿障害が残る場合や、感染を繰り返す場合などでは、十分な術前感染対策を行った上で前立腺肥大症手術を行う場合があります。

3. 脳梗塞で尿閉となった場合、神経因性膀胱が尿閉の原因であるため、自排尿が回復する見込みは低い。

脳梗塞による尿閉の一般的な経過は、発症直後は尿意、排尿筋収縮が消失し、その後1ヶ月ほどかけて尿意、排尿筋収縮が回復してきます。同時期には排尿筋過活動が高い頻度で出現します。排尿筋収縮力の回復にはさらに時間を要することもありますので、カテーテル管理から離脱するにはもう少し時間がかかることがあります。しかし、脳梗塞後の尿閉が回復しないケースは、それほど多くありません。1~2ヶ月の時点でも回復が始まってこない場合には、尿閉を説明できる障害部位であるのか、他の合併症がないか、これまでの尿路管理方法は適切だったか、など、もう一度方針の見直しを行う必要があると思います。