追悼/安部幸明先生

                  岡崎 隆

 年も押し迫った2006年12月28日、作曲家安部幸明先生が95才の天寿を全うされ、逝去されました。
数年前に脳硬塞で倒れられ、その後はずっと施設で療養の日々を送っておられましたが、お手紙で私のHPの文章の間違いを指摘されるなどすこぶるお元気だっただけに、元旦の新聞で安部先生の訃報を知った時、私はいてもたってもいられぬ気持になりました。何をおいても告別式に参列させていただきたかったのですが、2日からコンサートの予定等もあり、ついにお別れの場に立ち会わせていただけなかった事が、返す返すも残念でなりません。
 1月6日、そぼ降る冷たい雨のなか、安部幸明先生の告別式が行なわれました。
参列された方によれば、葬儀は無宗教、無宗派で、まことに爽やかな集いであったといいます。
会場には安部先生の曲がテープで流される中、広瀬量平氏が訥々と弔辞を述べられ、多岐にわたった先生の業績と作曲への情熱と信念とを、参列者の方々は改めて再確認されました。

 昨年夏に安部先生を「あすなろ大泉学園」にお見舞いに伺った時の事です。
先生のお言葉は気力とユーモアとがあふれ、いろいろなお話を伺うことができ、今となっては本当に良かったと思っております。安部先生の大親友で、また小生の師匠でもある西出昌宏氏 (元京響Cb.主席)の話が出ましたので、私はその場で携帯で西出氏のところへ電話しました。お二人がたいそう嬉しそうにお話されていたことが、懐かしく思い出されます。
 また、ナクソス「日本作曲家選輯」シリーズで、安部先生の管弦楽作品集のCDがリリースされると発表された後、なかなか連絡が来ないことについて、安部先生は「戦争の時にチェロ協奏曲が賞 (註 : ワインガルトナー賞/1938) を貰った時も、初演してくれると言われながら、なかなか実現しなかった。どうも私はこういう運命にあるようだ。CDも、本当に出るのかなあ・・・」と、たいそう弱気になっておられました。そこで私はただちに関係者の方に連絡を取り、一刻も早くCD音源が安部先生のもとに届くようお願いしました。その後ロシアで録音された音源が先生の元に届き、ようやく聴いていただくことが出来たのです。
 しかし先生は「このCDを、一体何人の方が聴いてくれるのかなあ・・・」と漏らしておられたということです。来年には正式にリリースされる筈ですので、是非一人でも多くの方に聴いていただきたいと思います。
 まだまだ安部先生には伺いたい事が数多くありました。先生の親友で、チェロの手ほどきをされた夭逝の作曲家・尾崎宗吉のことなども・・・しかし、もう叶いません。
今後私は、機会あるごとに安部先生の作品の浄書化、演奏の実現に向けて微力を傾けたいと思います。

心から先生の御冥福をお祈り申し上げます。   (2006.1.9)