(東京音楽学校の制服を着て)


〜鬼頭恭一・資料を受取られた方からのお便り〜



私は音楽については全く専門知識がないので私か感じるままに感想を書かせてください。
文才もないので私の感想がお二人に上手に伝わるのか心配です。

先ず三曲を聴いた私の感想は悲しく切ないものでした。
今回収録されているどの曲も戦争の悲劇を物語っています。
もし恭一さんが戦争のない時代に生まれていたならば、フィアンセへ送る愛の曲や青年らしい情熱に満ち溢れた曲を書いていたことでしょう。
とても残念でなりません。恭一さんのように才能を持った多くの若者がそれぞれの才能を活かすことなく亡くなってしまったことが戦争の残酷な悲劇です。
今の政権下、多くの方に恭一さんの曲を聴きながら戦争について真剣に考えて欲しいと切に願います。

1. 雨
奥様と三宅悦子さんがご自宅で演奏されたとは思えないぐらい美しく仕上がっているのに感心しました。
お二人の熱意が感じられます。
この曲については資料に詳しく書かれていたのでとても参考になりました。
歌詞が一つの物語になっていて、資料に書かれているように「反戦」の意思を表現しているのが納得できます。
雨音が美しく悲しく響きます。
私の世代の人間がこの時代の悲しみ、苦しみ、怒りをリアルに想像することはとても困難です。
しかし今の若者も含めて私達日本人は悲惨な歴史的事実に対して目を背けてはいけません。
私達は過去の過ちとどのように向き合い、どのような将来を描きたいのか今問われているのだと思います。
言論の自由が許されている私達は「反戦」を大きな声で訴えなければなりません。恭一さん達のためにも。

2. 鎮魂歌
私はピアノで演奏されたこの曲が特に好きです。
講演の中で先生の義理のお兄様が恭一さんについて「腕白小僧」で自分がしたいことをする性格だったと話していらっしゃいましたが、彼が先生のお兄様を失った深い悲しみと優しさがこもった思いが始まりのメロディーから彼の気持ちが素直に感じられ、聞く度に涙してしまいます。
シンプルな曲の中に彼の繊細さが感じられ清く美しい曲だと思いました。

2.惜別の譜
この曲を聴いたときに凛々しい兵士の顔が浮かんできました。兵士はこの曲のタイトルのように家族、恋人との別れを惜しみながらも自分に課された責任、死につながるかもしれない任務を全うとしようと自分を鼓舞する恭一さん自身を感じました。
私はこの曲を聴きながら将来日本の自衛隊員がこのような境遇に直面しないことを願います。
そして自衛隊員だけでなく敵も御方も血を流すことなく、時間をかけてでも会話で国家間の問題を平和に解決することを望みます。
戦争になれば結局犠牲になるのは権力者ではなく弱い者達だからです。

三曲とも自然に耳に入ってきて違和感を感じませんでした。私のような素人が曲を聴きながら情景を目に浮かべ、心動かされるのも恭一さんが才能ある作曲家だったからだと思います。

貴重な音楽と資料を送って頂いて本当にありがとうございました。
鬼頭恭一さんの音楽と彼の戦争によって失われた人生の物語を一つのセットとして多くの方に知ってもらいたいですね。

   菊地一恵 (佐藤正知氏/日大での研究室卒業生= ご本人のご承諾をいただき、お名前を掲載しております)