04・04・30 愛知県芸術創造センター | |
何もない暗い舞台に左側にやや後ろ向きのピアノ、右側にドラム。背が高い小さいシンバルが多い。そして中央には寝かせたベース。ライトが落ちラフな格好をした3人の初老のおじさんが現れる。期待の拍手。それぞれ持ち場所に着き、ほぼ満席の会場は静まり返る。キース・ジャレットのピアノで静かに始まった。次に、ドラムが小さく細かいリズムを足していく。次にベースが陰影をつけて行く。全部で10曲ぐらいやったのだが、だいたいその流れだった。楽器で会話してる。 最初にピアノが「あのさ、僕はこう思うんだよ」と投げかける。次に、ドラムが「ふーんそれで」、また、ピアノが「それで彼女はこういうのさ」すると、ベースが「そんなこた、とうにわかってるさ」と言う具合だ。キースは時々腰を浮かし、時には立ち上がって、もっとのってくると例の唸り声も絞り出す。 キースジャレットのピアノはその端正で粋な流れが魅力だが、曲のコーダの一つの和音だけでも胸がキューンと締め付けられたり幸福感に満たされたりする。それは、「今のこの音が最後なんだという想いでいつも演奏している」という彼の言葉通り音楽に対する真摯な構えがあるからだろう。 ピアノだけでなく、3人が3人とも極めて高い技量と感受性と精神性を持ったアーチストだった。ベースのゲーリーはあれは、哲学者というか瞑想に入ってる。ベースが曲の中で生き物のようにしゃべったり怒ったり鼻歌を歌ったりしているのだ。そして、ドラムのジャックは神。ほとんど上半身が動かない。手首だけで信じられないリズムを刻む。パンフレットによるとジャックはクラシックピアノをやっていたので、キースが何を表現したいのか瞬時に分かるようだ。 スタンダードというがジャズに疎い私は、テーマのフレーズがよく分からなかった。海のようだとか、ドライブしてるようだとか、妙な和嗚だなとか、ここは何連符なんだろうとかとりとめもない想いがあるだけで、音の渦巻きの中で芯となる知識がなくとまどうこともあった。しかし、アンコールの中の1曲はなじみのあるフレーズから始まり、それをくずして行くのがよく分かった。クラシックで言えば変奏曲。崩して遊びを入れスパイスも効かし苦みも少々加え、オツで粋な音楽になっているのだ。 アンコールを2回も演ってくれ、もうみんな喜んでた。立ち上がって拍手をしてる人も何人かいた。私も立ち上がりたいくらいだった。主人は休憩時間と終演後の2回東京の息子2に電話をしていた。感想を伝えたかったのだ。会場で販売していたパリでのライブ録音「星影のステラ」を買った。 |