心の温度

「先生の誕生日って、確か来週でしたよね?」
そういって、カイルは壁にかけられたカレンダーのその日に指を置く。
来週の今日。
カレンダーに書かれた文字の中で唯一自体の違う『先生の誕生日』には花丸が付けてあった。
「そうだが。どうかしたか?」
カイルの方へ顔を向けることなく、デスクに向かうフランシス。カイルはあからさまにため息をついた。
「どうかしたか、じゃないですよー。誕生日ですよ、誕生日」


「何か欲しい物とかはないんですか?」
「欲しい物?」
手にしていた紙をくず入れに放り込んでフランシスはカイルの方へと向き直った。
「特にこれと言ってないよ。それに・・・」
「それに?」
カイルは首をかしげてフランシスを見る。
カイルの腕のに積まれた文献を引き渡すよう、指示しながらフランシスは言葉を続けた。
「生徒から物を貰うほど困ってはいないからね」

生徒と先生。
自分と先生の関係がそれ以外の何物でもないことを突きつけられて、カイルは視線を落とした。
フランシスが先ほどくず入れに放った紙が視界に入る。『特別優待券』、多分映画のプレミアム試写会のチケット。
こんな大層なものを簡単にゴミ箱に捨てられる先生だ。確かに生徒から物を貰う方が迷惑なのかもしれない。

「でも、僕、先生に何か贈りたいんだけど・・・」
「何故?」
意地悪な回答を返すフランシス。理由はとっくに判っている。
「何故って・・・!先生の事が好きだから記念に残る事をしたいんですよ!」
思わず出てしまった告白。
普段は滅多に『好き』なんて言わないのに。

さて、どう続けるか。
フランシスは再度カイルに背を向けると、デスクに着いて受け取った文献をパラパラとめくり始めた。
特に今すぐ調べることはないのだが、なんとなくカイルの存在をそのままにして置きたかったのだ。
案の定、続く言葉を見出せないでいるカイルは自分の背中を見たまま、落ち着かないでいる。
性格が悪いな、と自分でも自覚はしているが、そんなカイルが今この瞬間に居ることが嬉しい。

「あのー、ですねー・・・」
必死になって言葉を探すカイルに流石のフランシスも大人気ないと気付いたのか、文献をぱたんと閉じた。

「カイル」
優しく呼ぶ声にカイルはハッとして顔を上げる。
「君は映画は好きかい?」
「え、あ、ああ。はい!」


「本当は行くつもりがなかったんだけど・・・」
そう言って先ほど捨てた紙を再び取り出す。
(ああ、先生がゴミ箱を漁るなんて!僕が取るのに!)
ほとんど紙ごみばかりのゴミ箱だが、先生のイメージが崩れるとカイルは急いでフランシスに駆け寄った。
「先生!あの、僕が・・・!」
「はい」
目の前に出されたのは先ほどのプレミアム試写会の特別優待券。
「え・・・?」
「付き合ってくれるな?」
悪戯な笑みを携えてフランシスの指差す試写会の日にちは・・・来週の今日。


カイルの明るい二つ返事が執務室にあった。




†後書き†

注釈が必要なほど色々省かれた小説になってしまいました。うわーん。
ええとですねー、フランシス先生がプレミアムチケットを捨てたのは、カイルと一緒にその日を過ごしたかったから、
というお話(のつもり)だったんですよ。
でも、カイルの方から先生のために何かしたい、と言ってくれて、それが嬉しくて。『じゃあ、一緒に出かけようか』という事になる。・・・そんなカンジのが書きたかったんですが。ダメですねー。伝わってません。ひー。
今のところ出来てる小説はオンリーイベントで本を出してからサイトにUPします。

・・・しょーもない小説ばっかりなんですガ。