いやらしい人 寮の配給食リストが配布された。 育ち盛りの生徒を抱えるアカデミーだからこそ、栄養重視の学園給食は全ての教師が目を通す。 もちろんそれらの食材の中には栄養だけではなく、生徒達の好みも考えた食品もいくつか入っているのだが・・・ 「この暑い時期に『辛味ソーセージ』はないだろう」 香辛料の多い一品に目を留めてフランシスはため息をつく。 育ち盛りの生徒に付き合わされて食事をする自分達の事も少しは考慮して欲しいものだ。 「辛味ソーセージがどうかしましたか?」 何気ない呟きを拾って、カイルはフランシスに話しかける。寮も違う、 専攻学科も違う先生と話が出来るのならばどんな言葉でも話の種にしたい。 「明後日の晩御飯がね、あの香辛料と人工物の塊だと言うんだよ」 「はぁ」 フランシスが何を嫌がっているのかカイルには判らなかった。 香辛料・・・確かに今は暑いけれど、こういう辛さは逆に暑さを克服するのに相応しいし、 パリッと破れたソーセージの中からは熱々の肉汁が口の中に染み広がる。 辛さと熱さの共演に粒マスタードが名脇役を勤め、 多くの生徒から指示される『辛味ソーセージ』の何が嫌なのだろうか。 しかし、カイルにはその嫌いとする理由よりも、別の事が気にかかってしょうがなかった。 「先生が『絡みソーセージ』とか言うと、なんかやらしいですね」 「は?」 いつも通りの顔でサラリと言ってしまった後、 フランシスに呆れ顔を向けられてからカイルは自分が言ったことに顔を赤らめた。 「あー、いえ、あの、その・・・先生が言うと『辛味ソーセージ』が『絡みソーセージ』に聞こえるな、なんて思いまして」 取り繕してはみるものの、ますますドツボに嵌っていく気がしてならない。 「君は私の事をそんな風に思っていたのかい?」 「いや、そのっ・・・」 思ってました、なんて言える訳なくて。 しかし、多分そう思っているのは自分だけではないことをカイルは知っていた。 クラスの皆が噂をするフランシス先生の悪い噂。 あんなエロ臭い格好して、生徒を夜な夜な自室に連れ込んでいるに違いないとか、 体で『何を』覚えろ言うのか、とか。 ついさっき後にしてきた教室でも少しだけ話題になっていた。 もちろんカイルは先生が夜通しどんな作業をしているのかを知っているだけに話には加わらないが、 たまにフランシスのところに訪れる度、自分が先生の悪い噂を作ってしまっている原因なのではないかと 勘繰ってしまう。 黙ったまま立ち尽くしているカイルを見て、フランシスはため息をつくと一言添えた。 「私は君が思っているより、もっと『やらしい』人間だよ」 「え・・・?」 今度はカイルが聞き返す。 「ど、どういう意味ですか・・・?」 「そのまんまだよ。私はいやらしい人間だからね、自分の邪魔になる人間は排除したいと願っているし、 目的のためには手段は選ばない」 カイルに背を向けてフランシスは書類に再び目を落とした。サラリと流れる蒼髪が背もたれに色合いを付ける。 なんだ、そう言う意味か・・・ カイルは少しだけ安心したが、その反面残念に思う気持ちも残っていた。 (確かに手段を選ばない人間の事も『やらしい』人とは言うけどなー… 「そう言う『やらしい』も、ありますね」 「だろう?それだけではないぞ、嫌いな食べ物は極力食べないし、 アメリアの面倒くさいお願いは出来るだけ聞こえていないふりをする。それに・・・」 「それに?」 「・・・朝も夜も君の事を考えている」 心臓にメーターが付いていたら、多分思いっきり数値を跳ね上げるのだろう。カイルの掌は汗をかき始めていた。 「ええと、僕、ですか・・・?」 それ以外誰だというのだろう。 「抱きしめたらどんなに暖かいのだろう、首筋に口付けたらどんな反応をするのだろう、・・・とかね」 ここが個室なのを良い事にフランシスは言葉に制限をかけずに更に続けた。 聞いているカイルの方が恥ずかしくなってくる。 「『やらしい人間』だろう?」 どうだ、と言わんばかりに問い返すフランシス。 カイルは速さの衰えない脈拍に耐えながら、平常の顔を取り戻して言い返した。 「でも、先生は思っているだけで行動に移さないじゃないですか。・・・だったらやらしくないです」 出来れば行動に移してほしいと少しだけ希望を抱きながら。 フランシスは手元にあった書類を一まとめに纏めると、それを片手に持ち替えカイルの頭を軽く叩いた。 「今の君にそんなことはしないよ」 「なんでですか?」 痛くは無いものの、カイルは叩かれた場所に片手を添えてその理由を聞く。 「今の君に手を出しても不利益しか生まないからね。時期を待って、一番相応しい時に行動に移すよ」 「なんですか、それ。計算して行動するなんて、やら・・・」 『やらしい』人じゃないですか、と続けようとしてカイルは気が付いた。 フランシス先生の顔にはいやらしさを超えた不敵な笑みが浮かんでいる。 「だから言っただろう?私は『やらしい』人間だと」 †後書き† クマケが終わったのでUPしてみました。 えーと、多分一番『やらしい』人間なのは、私じゃないかと。ぐは。 元ネタはAZさんのだいぶ昔の発言から。 ・・・絡むソーセージってエロいよね? うん。エロいと思う。 だったのですが。 どうして、こう私が書くとエロく無いんだろう? 先生の良さが全く出ていません。 |