I understood...

 これは今から、十年位前の話。
 今学園にいる先生達が生徒で、今はいない先生達がいた頃の話。


 青い髪の少女は騒然としたクラスの中で一人本の中に閉じこもっていた。
 周りの声は全く聞こえず、ただ単に頭の中に入ってくる情報だけを整理しながらの読書。
 それは傍から見ればただの予習であり、クラスメイトとの間に壁を作る行為でしかない。
 窓際の、一番端の席であれば誰も彼女に気付かないのだが、
 窓側から2列目・前から7番目の席の彼女は少しばかり目立つ存在になっていた。
 それを今気付いたのか、前から気になっていたのかはわからないが、
 金色の髪の少女は近くにいた生徒に問いかける。
「あの子、なんて名前だっけ?」
 同じクラスで戦ってきたのに、名前すら覚えていない。
「ええと、アメリア、だったかな」
『確か』と前置きを置いてから答えるクラスメイト。その答えを聞いて少女は手をぱんと叩いた。
「そうそう、たしかそんな名前だったわね」
 …それにしても、あんなに暗い子見たことないわ。勉強の虫って、きっとあの子みたいなのを言うのね。
 少女は真顔でクラスメイトに返した。意外なキツイ一言にクラスメイトは閉口する。

「こんにちは、アメリアさん」
 少女はアメリアの元につかつかと歩み寄るとにっこりと笑いながら読書をしているアメリアを見下ろした。
 にこにこにこ。にこにこにこ・・・。
 暫く笑顔のまま佇んでいたのだが、いくら待っても反応を返さないアメリアに少女はもう一度声をかけた。
「こ・ん・に・ち・は」
 一つ一つを区切って発音する。
 流石にその雑音に気付いたのか、アメリアはゆっくりと本から目を離すと、少女を見上げた。
「…こんにちは。あなた、誰?」


 名前を覚えてないのはお互い様だった。お互いがお互いに興味を示してこなかったのだ。仕方がない。
 だが、ここは先に声をかけた方が勝ち。
「あら、アメリアさん。私はあなたの名前を知っているのに、あなたは知らないの?」
 さっきまで知らなかった割には態度がでかい。そのでかさは胸と比例するのではないかと、
 遠くから少女を見守るクラスメイトは少しばかり呆れた。
「ごめんなさい。クラスメイトに興味ないから」
 さらりと言い返して、アメリアは本の中に戻ろうと視線を落とす。
「私の名前はミランダよ、ミ・ラ・ン・ダ」
 冷たいアメリアの態度に怒りを覚えた少女、ミランダは本を奪い取ると栞を挟まずに閉じた。
「ちょっと!」
「天才さんならクラスメイトの名前くらい覚えてると思ったんだけどな」
 勝手な話である。

 こんなに勉強ばかりしていて楽しい?
 どうして周りと付き合おうとしないのよ?
 ミランダの言葉の攻撃にアメリアは口を閉ざしたまま別の方向を見る。
 学生として勉強するのは当たり前の事なのに。それをしていて何が悪いのか、アメリアは大きくため息を付いた。
「勉強以外のこともするべきだと思うのよね」
 アメリアの沈黙はミランダのこの台詞で打ち壊された。
「勉強以外のことなんて出来ないわよ。私、勉強しか出来ないんだから」
「あら、ご立派ね。勉強が出来るなんて凄いじゃない。さすが金剛賢者様ね。羨ましいわ。替わってあげたいくらい」
 ミランダは手にした本を音を立てて机の上に落とした。その音に他のクラスメイト達も驚いて彼女達を見る。
「あなたに私の苦労はわからないわ!」
 アメリアは机の上の本を抱えるとそのまま早足で扉へと向かう。
 ガラリと扉を開けて廊下を右に曲がろうとしたとところで誰かにぶつかったが、
 相手が誰だか判らないまま、軽く頭を下げるとそのまま屋上へと向かったのだった。


 これじゃあ、私が悪者のままじゃない。
 ミランダは空いた席から離れるように自分の席へと帰る。廊下側の一番後ろ。
 真面目な生徒なら避けたいその席にどっかりと彼女は腰を下ろした。
 暫くはクラスメイトの目が向けられていたが、彼女の青色の目がそれらを跳ね返す。
(羨ましいって言ったんだから、『あら、ありがと』くらい言ってもいいじゃない)
 機嫌の方向はかなり下向き。
 そんな時、廊下側の窓が開き、よく見る顔がそこにあった
「どうした?」
 流れるような青紫の髪を持つ隣のクラスの友達。
「あ、フランシス」
 彼女は友達の名を呼ぶと、いつもの笑顔を取り戻した。
 曇った顔から一気に見せる太陽のような笑顔。フランシスはその顔に笑みを向けつつ、
 尋常でないクラスの雰囲気を悟って彼女に問いかけた。
「何かあったのか?」
 いつもならフランシスの問いかけに直ぐ答えるミランダだが、
 どう考えても自分が彼女を苛めた状況になっている限り、素直にそれを話すことは出来ない。
 なんとか自分は悪くない、というのが伝わるよう、言葉を捜すのだがこれがまた難しい。
 結局彼女は今までの事をどちらが悪い、という客観的な部分だけ除いて伝えることにした。
「ちょっと、クラスのコと、ね」
 言い争いがあったのだけ伝える。
「ふぅん、アメリアさん?」
「あ、そう。なんで知ってるの?」
 誰とは言わなかったのに。
「さっき、廊下でぶつかったから」
 隣のクラスなのに、どうしてこの人は人の顔と名前を覚えるのが得意なんだろう。
 自分にはない能力を披露する友達に、ミランダは少しばかり嫉妬した。

「それで、ミランダはアメリアさんに謝りたいのか?」
 手にした教科書を窓の桟に預け、フランシスはミランダの顔を覗き込む。
「べっつに。私が悪いんじゃないもの」
 少し頬を膨らませてミランダは顔を背ける。まだまだ幼い態度が残っている。
「でも、この状況じゃ彼女戻ってこないと思うけど、それでも良いのかい?」
「……」
 ミランダはこちらに視線を戻さない。それが今の答えだった。
「いいよ、僕が呼んでくる」
 フランシスは窓から離れると、そのままアメリアが向かった方向へと歩き出した。
「ちょっ…!」
 余計なことはしないでよ、と伝えるつもりの口が閉ざされる。
 ミランダとて後ろめたい部分があるのだ。
 予鈴までのあと5分でアメリアが戻ってきて何事もなかったかのように物事が進むのであれば
 それに越したことはない。
 ひらひらと後ろでに手を振るフランシスの背中をミランダは暫く眺めていた。



 アメリアは屋上にいた。
 ドラマで良くみるような『手すりにもたれて空を見上げて』はいなかったが。
 屋上の入り口付近に腰を下ろして、先ほどの分厚い本を広げてなにやらつぶやいているようだった。
「こんにちは」
 頭上から降りかかる声にアメリアは顔を上げた。
 そこにはにっこりと優しそうな笑みを浮かべる見知らぬ生徒が立っていた。
「こ、こんにちは。ええと、何、かしら?」
 名前が判らないのだから他に返す言葉なんてない。
「僕の名前はフランシス。隣のクラスの生徒、だけどね。アメリアさんはここで何をしてるいるんだい?」
 見れば判ることをあえて聞く。
 判りきっていることをわざと説明させるのは彼の癖だった。
「勉強しているのよ。他に何をしているように見えるのかしら?」
 あからさまに不機嫌な態度を出してアメリアは目の前の不審者を追い払おうとする。
「さぁ。問題を抱えたまま逃げているようにしか見えなかったから聞いたんだけど」

 性格が悪い人間はこういうに人を言うのだ、とアメリアはフランシスを睨みつけた。
 どこからその情報が流れたのだろう。隣のクラスの人間が知っていると言うことは誰かが喋ったのだろうか。
 まさか、ミランダが? それとも誰も喋ってはおらず、私とミランダの会話が隣のクラスまで筒抜けだった、という事か。
 しかしそんなに大きな声を上げた覚えは…恐らくないし、人に心配されるほどの会話はしていないはずだ。
「それで、君の言い分を聞きたいんだけどな。あ、ミランダに告げ口をするつもりは全くないから」
 果たして、彼にどこまで話してやれば良いのか。


 結局アメリアはフランシスに思いの丈をぶつけることにした。
 不思議なことに目の前の不審者には自分に似たオーラを感じたから。
 自分は勉強をしたくて勉強をしているのではない。ただ、自分の頭が常に情報を手に入れようとしていること。
 それを放り出しているだけで、喉の渇きに似た飢えが自分を襲ってくるのだという事。
 間単には理解し難い事を淡々とアメリアは続けた。
 フランシスはそれを静かに聞いた後、目を閉じながら言葉を紡いだ。
「君の言い分はわからなくもないよ」
 何かを思い出すかのようにその言葉は発せられた。だが、その雰囲気まではアメリアまで届かない。
「判らないわ」
 冷たく言い放ち、アメリアはページをめくった。まだ前のページで読んでいないところもあるが、
 今は音のない空間を作りたくなかった。
「そうかな?」
「そうよ」
 手をかけた本の端が少し震える。無理をして強がっているのがよく判った。

「・・・・・・そうだな。確かに誰も君の事は判らないだろうね」
「え?」
「だけど、理解しようとすることくらいは出来るんじゃないか?」
「どういう意味かしら?」
 まさか、ミランダが私の事を理解しようとしてたとか? それはありえない。
 フランシスの顔を見上げたが、そこには飄々とした表情があるだけだった。
「まぁいいさ。明日、君も全国大会に出場するんだろう?」
 何が良いのか判らないが、アメリアは頷く。
「僕と対戦で当たることがあれば判ると思うよ」
 直ぐに判る答えを出さないところがこの男の性格の悪いところだ。
 出来れば直ぐに答えを出して欲しかったのだが、タイミングよくなった予鈴にアメリアは腰を上げざるを得なかった。



 次の日。
 空はいつも以上に快晴を保っていた。全国大会初日。誰もが日ごろの勉強の成果を出そうと力を注ぐ。
 アメリアも例外なく、指定の場所に移動しては心を引き締めた。
「アメリア!」
 昨日聞いた声にアメリアは振り返った。そこには自分の姿を見つけて駆け寄る金色の髪の少女がいた。
「ミ、ランダ…」
 『さん』を付けようとして、自分に付けられていないことに気が付いた。
 呼び捨てにされるのなら呼び捨てし返すのが信条。
 駆け寄ったミランダは息を整えながら昨日の事を謝った。
 自分に悪気はないとは言え、不快な思いをさせてしまった事は謝りたい。
 根っこが素直な人間なだけにミランダは真っ直ぐ頭を下げた。
 流石のアメリアも丁寧に謝ってもらえている立場上、キツイ言葉を投げつけることは出来なかった。
 恐らくこの謝罪の行為もあのフランシスの提言だろうに。
「別にもう、怒ってなんかいないわ。ただ、強い言葉でまくし立てられたから…返してしまっただけの事よ」
「そう、なら、いいわ。良かった」
 なんて可愛く笑う人なんだろう。少しだけアメリアの中に他人への興味が生まれた気がした。


 けたたましい音を立てながら試合開始の鐘が鳴り響いた。
「やっば。じゃあ、後でね!」
 会話も少なく、ミランダは会場を移動しようと一番近い移動手段を探す。
「え? ミランダ。会場はこっちよ?」
 そう。アメリアの受ける試験の会場は今立っているこの場所。
 だが、ミランダは振り返りざまに苦笑いを浮かべたまま答えるのだった。
「あたしはまだ『Bリーグ』なの!」
 ペロッと舌を出して言い捨てると、ミランダは垣根を飛び越えて隣のリーグへと軽快に向かっていった。
「・・・・・・私達、同じクラスよね?」
 何か不思議な感覚を胸に抱きつつ、ミランダは自分が参加する試合のゲートをくぐる。
 周りにたくさんいるクラスメイト達。
 首をかしげながら挑む試合は今始まったばかりだった。

 第1回戦はノンジャンルだった。特にこのジャンルが得意なのではないのだが、
 括りに囚われる事無く問題に取り組むことの出来るこのジャンルはお気に入りだった。
 何か一つにこだわるわけでなく、全てを網羅しないと回答を得る事が出来ないノンジャンルで
 パーフェクト回答をするのは気持ちが良かった。
 常日頃から鍛えてあるタイピングの早さに正確さを加えると、誰もが彼女の成績を追い抜けない。
 当然のトップ成績でクリアした彼女の顔はいきいきとしていた。
 だが、そんな順調な流れも大会の最後まで続くわけではない。
 すでに何回目の対戦かわからなくなってきた頃、アメリアの前に『芸能』の問題が立ちはだかった。
 内容はかなりマニアで歴史の深いもの。
 正解率は悪く、先ほどからその問題に当たった事のある生徒がアメリアの回答を待っている。
(あ、やだ…。どうしよう。こんな問題見たことない…)
 覚えていないものは答えようがない。同じ時代の俳優や歌手を思い出すのだが、答えまでは辿り着かない。
 問題を一通り読み終えて、じっと考え込む。その間に一人回答を出した者がいたのだが、気付くことはなかった。
 秒針は円を描き、回答時間の制限を表示する。その短さに生徒達は息を呑んだ。
(判んないッ…。なんで、なんで…)
 そうこうしているうちに時間は終わりを告げ、アメリアの回答は『時間切れ』となった。周りから落胆の声が上がる。
 同時に隣のクラスから歓声が上がったのだが、その声は彼女の耳には届いていなかった。
 ランダム問題の残りを全て回答しつくして、結果発表はすぐに行われた。
 一問外した彼女の成績は確実に1位を取れたとは言い切れない。
 勝ち抜いてはいるのだが、今までの3で割り切れる勝ち抜き数からは逸れてしまう。

 結果。彼女の勝ち抜き数は素数となった。
 中途半端な数に少しうなだれるが、1位を取った生徒の表示を見て、彼女は驚いた。
(フランシス!)
 先ほどの難問をクリアして満点回答を出した人物欄に彼の名前が載っている。
 何てことだろう。自分が一番なんでも知っていると思っていたのに。
 自分より勝ち抜き数の多いフランシスの成績。
 学年一の頭脳を誇っていたアメリアだけにそれはとても疎ましく、憎たらしいものだったが、
 それと同時に彼への興味が湧いていた事には気付いていなかった。

 暫くの後、再びアメリアとフランシスは対戦することとなった。
 数人ばかり勝ち抜き数を上回っていたため、優越感を得ることが出来たが、何か寂しさがあることも否めない。
 先ほど見た満点成績を思い出し、気を引き締めて回答台に上る。しかし、結果は早かった。

 他にも現在のジャンル、『学問』に強い生徒がいたのだ。
 そのため、秒数差でアメリアは第二位を再び手にしてしまった。悔しさの反面、フランシスには一人分勝ったと思い、
 3位の表示を待つ。
 だが、そこに彼の名前はなかった。
 自分の回答ばかり気にしていたアメリアは彼が不正解を2問ほど出していたことに気付いていなかったのだ。
 
 アメリアは自分の対戦予定時間を見計らって席を外すと、そのまま隣のクラスへとその足を進ませた。
 円を元に作られたスカートが風になびく。
 ざわめきの中、アメリアはフランシスを呼んだ。
「フランシス!」
 目的の人はクラスメイトの輪から外れたコロセウムの壁の花となっていた。
「や、アメリアさん。勝ち抜きおめでとう。是非賢帝を勝ち取って欲しいね」
 以外ににっこり微笑んでいる彼の前にアメリアは持ってきた質問を忘れるところだった。
「…笑ってんじゃないわよ。なんなの? あの回答率。芸能問題の解く速さと正確さといったら。
 …どうやったらあんなに答えられるの?」
 対戦に負けたのに笑っている彼に、怒りたい気持ちと彼自身への興味とその秘訣を知りたい一心が渦巻く。
 だが、彼の回答はたった一言だった。
「君なら判っているんじゃないか?」
「え?」
 驚くアメリアを余所に、フランシスはクラスメイトからさらに離れるように場所を移動する。
 フランシスに軽く手首を捕まれたまま、人気の少ないところにつれてこられたアメリアはフランシスの背中をじっと見た。
 時折人より少し長く作ってあるタイが青紫色の髪に混じって目を引いた。
 やがてフランシスは少し物憂げな表情を浮かべたまま。アメリアに切り出した。
「僕の別名って知ってる?」
 突然の質問にアメリアは「知るわけないでしょ」と切り返した。クラスが違うのだ。知っているわけがない。
 フランシスはそれを否定しないまま続けた。
「芸能オタク。クラスメイトがそうやって呼ぶんだ。ま、芸能問題の正解率がここまで高いんじゃしょうがないけどね」


 フランシスはクラスでも頭が良くて人気があって…。そんな事を勝手に想像していたアメリアだったが、
 彼が居なくても平常を保っているクラスメイトを指差されてしまっては声も出ない。
「まさか…」
「ミランダから聞いたよ。君の頭脳が驚くほど早いスピードで知識を吸収してるって話。
 しかもそれは自分一人だけだと思ってる事もね」
 図星を指されてアメリアは気分を害する。だが、当たっているだけに否定は出来なかった。
「ま、まぁ。他に見た事がないんだもの」
「僕もだよ」
 そこまで言われてアメリアは気付いた。私一人だけじゃないんだと。
 同じように勝手に頭が勝手に知識を得ようとしている人間が他にいたのだと。
 ハッとして他のクラスにも目をやる。今まで気にしなかったが同じように勝ち抜いている生徒達にも
 同じような人がいるのではないのだろうか。
「君とは違ってジャンルに偏りがあるみたいだけどね。なんだか判らないが、一箇所のみ凄く集中力が集まるんだ」
 それが僕の場合芸能なんだ、とフランシスは淡々と語る。
 最後に見せた寂しげな笑みだけが脳裏に焼きついて離れなかった。



 日暮れを待って、アメリアはミランダを探した。
 隣の競技場は勝手が判らず探すのはいささか難しかった。
「あ、アメリアー!」
 競技場で佇むアメリアにミランダは声をかけた。
「なに? Bリーグに用がなさげなあなたがここに来るなんて。もしかして私を迎えに来てくれたとか?」
 昨日まで喧嘩をしていた相手とはとても思えない発言にアメリアは不思議そうな表情を一瞬浮かべたが、
 ミランダのあまりの笑顔に打ち消されることとなった。
「あー…、そ、そうよ。あなたが何人抜いたか気になったの。同じクラスメイトだもの、
 トップを取るほど勝ち抜いているんじゃないの?」
「39人よ?」
 トップなんか取れるわけないじゃなーい、そう言ってミランダはカラカラと笑った。
 ランキングにも入らない勝ち抜き人数にアメリアは閉口する。
「ど、どうして?! 何でそれだけしか出来ないの? 同じ時期に入学した仲間達は皆賢者異常なのよ?」
 もっともな意見が競技場に響く。二人しかいない場所でその言葉を邪魔するものは何もなかった。
 アメリアの強い意見の中、ミランダは口元に指を立てると何か幸せを感じているような笑顔でこう答えた。
「んー、だって私。自分が頑張るより人が頑張るのを見るのが好きなんだもん。
 ここで一人脱落したら残れるって状況で頑張る人の横顔って本当に綺麗なのよ。だから私、それを応援したくて。
 私が落ちてその人が頑張れるならそれで良いのよ」
 初めて聞く意見にアメリアは何も返せなかった。誰よりも上に上がるのが皆の目標だと思っていたのに。
 そうじゃない人がいるなんて。


 今考えていることが全てじゃない。自分だけが何てこともない。
 持論が崩れていく最中、アメリアは少しだけ周りを見ようと心に決めた。
 一気に広がる視界にアメリアは少しだけ涙を流した。


 *-*-*-* 後日談 *-*-*-*
 ミランダと机を並べるようになって、アメリアは彼女の日頃の勉強態度に驚かされた。
「なんなの?その回答…」
「え、だって。正直判んないし。折角だから表示されたときに面白い回答を入れようかなーって」
 そう答えた彼女の入力画面には問題とは全く関係のない言葉が映っていた。
「まさか、それが原因であなたまだ中級魔道士なの?」
 嫌な汗が出てくる。
「そうよ? …あ、返してくれた人がいるわ! ね。見て見て!」
「ちょっ…ミランダ!」
「そこ、静かにしなさい!」
 担当教官が小さな稲妻を落とす。ぺろんと舌を出したミランダを少しだけアメリアは恨んだ。



†後書き†
ほんの少しばかり毛色の変わった話が書きたいぞ、と思って書き始めたのがこれです。
更新したのがフラカイでなくてすみません〜。
やー、フランシス先生の昔を描きたかっただけなんですが、なんかアメリア先生はヤな性格だし、
ミランダ先生はボケラーだしで大変です。

誰か先生の昔話を書いてくれませんかねー?