大唐西域異伝
〓第二章・四回〓

 岩の上は小さな庭園のようだった。
 芝生の様に生え揃った雑草といつからここで育ったか分からない木が数本。
 一体この岩のどこに根を下ろしているのかしら?
 不思議でしょうがなかった。

 その木のうち、一番高い木を悟空は指差した。上に鳥の巣がある。
 きっと私が見たものに間違いないわ。
 とりあえず・・・うーん、木を揺らしてしまったらきっと鳥の巣も落としてしまうわね。
 それではダメだわ。
 ・・・じゃあ、登る?

 幹には登れそうな凹凸はほとんどなかった。足をかける所もなくて。
「私が行ってくわえて帰ってこようか?」
 涼鈴が提案する。だけどもし上にある鳥の巣にヒナさんがいたら、きっと驚かせてしまうに違いないわ。
 それはきっと揺らすよりもだめね。

 それにもしかしたらこの錫杖と同じく私以外は触れる事が出来ないかもしれないし。

「やれやれ」
 悟空が私をバカにしたように言う。なによぅ、少しぐらい考える時間をくれたって良いじゃない。
「お前、俺の事忘れてるだろ?」
 悟空の事を・・・?
「そっか、悟空は猿だもんね、木登りはお手の物よね!」
 涼鈴が私より先に気づいた事を口にする。そうだ、悟空は妖怪である前に猿なんだわ。
 当たり前のことに私はぽんと両手を打つ。
 だけど・・・

 私の話を聞く前に木に手をかける悟空に私は先ほど考えていた事を告げる。
「もしかしたら、錫杖みたいに私しか触ることが出来ないかも」と。
 悟空は最初は「そんな事滅多にあるかよ」とたかをくくっていたが、やがて、私の真剣な目と何回かぶつかるうちにその考えを肯定してくれるようになった。
 鍵を取りに行く方法はさっきと同じ。
 抱っこはもうイヤだから(恥ずかしいし)肩に乗せてもらうことにして?斗雲にに乗る。私一人じゃ雲の上に立てないけれど、雲の上に乗った悟空の上なら安心。
 時々意地悪をする悟空だけど、流石に今はそういう場合じゃない事は分かっているハズ。しっかり支える腕に私はごくうに強い信頼感を寄せた。

 木々の上は葉が生い茂り、視界を何度かさえぎった。青々とした視界が続き、しばらくは緑は見なくても良いかも、と思わせる。
 次第にその葉の数が少なくなり、私と悟空は木のてっぺんへとたどり着いた。
 そして・・・その先にある鳥の巣に手を伸ばす。

 あ・・・

 やっぱり。
 そこには小さなヒナが3匹ほど声を上げて鳴いていた。
 鍵を探そうとする私の指を親鳥のくちばしだと思ったのか、ヒナのくちばしが探そうとする手を攻撃する。そんなに強くはないけれど、やっぱりちょっとだけ痛い。
「あった!」
 ヒナの中央に見える少しさびの付いた鍵。
 扉の割には小さい鍵だな、と思ったけれど、今はそれどころじゃない。
 そっとその鍵引き寄せ、手中に収める。
「やった♪」
「玄娘、危ない!!」
 不意に涼鈴の叫び声が聞こえて私と悟空は振り返った。

 勢い良くこちらに向かってくるのは大きな鳥。おそらくこの子達の親だろう。
 体長は私の何倍かありそう。赤い目が私たちを敵として捉えていた。
「うおっ!」
 悟空がとっさに高度を下げてくれたお陰で親鳥の攻撃は免れたが、その弾みで悟空の体勢が傾く。両手で鍵をなくさないようにしっかり握り締めているため、私から悟空にしがみつく事は出来なくて・・・。

 落ちると思った私は目を強くつぶった。
 しかし・・・落ちて痛いはずの体は痛くなくて・・・。なんか・・・暖かい。
 そぉっと目を開けて自分のおかれた状況を確認する。

 目の前に広がるのは綺麗な赤。

「ご、悟空!!」

 そう、悟空が私の代わりに落ち、クッション代わりになっていてくれたのだ。
「大丈夫?!」
「・・・っつーか、重いからとっととどけよ」
 相変わらず憎たらしい口を叩く悟空。だけど・・・。
「腕、怪我してるじゃない!」
「気にすんな」
「だめっ!」
 捲り上げられた袖から傷が見える。二の腕から手首にかけての傷。
 近くに包帯になりそうなものはないし。どうしよう。
 三蔵さんだったら・・・三蔵さんだったらどうするだろう。

 遠くにいる三蔵さんに助けを求めるように私は手を組んで目をつぶった。
 しかし当たり前だけど答えは出ない。
 悟空の傷を治したい、ただそれだけを私は祈った。

 ぱぁぁああ・・・

 驚いた事に私の両手が少しだけ光を帯びた。
 何だろう、これ?
 暖かくて、なんだか懐かしいような光の力に私は何かを感じ、その光を悟空の腕に当てた。
 ゆっくりと凝結していく流血。傷が痕になり、かさぶたとなって消えていく不思議な光景。
「・・・回復法か・・・。やっぱ、お前も三蔵なんだな」
 傷がすっかりいえた悟空が発した言葉。
 意味が良く分からなくて首を傾げたが、悟空はそれを見て何かを安心したようだった。


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††小さな言い訳。††
遅くなりまして。
あまりの更新の遅さに冬コミで『この小説は完結しますか?』と聞かれた時は
本当に・・・真面目に反省しました。ちゃんと読んでいてくれる方がいるわけだし・・・頑張れ自分!!
・・・一応完結するつもりでいます。終わりも何とか考えました。
2巻目は頑張って5月に出します。(言ったんだからやれよ、自分!!)
こんなのんびりペースで申し訳ないですが、これからも見守ってやって下さい。
皆様からの感想が本当にやる気に繋がっています。