大唐西域異伝 〓第二章・五回〓 |
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サイに似た風貌を持つ化け物は、その自慢と思われる角を私たちに向けながらにやりと笑った。 目の色が真っ赤に染まっていて、見た目以上に恐ろしさを感じた。 それだけならともかく、化け物の背後には黒い霧のような、背筋を振るわせるほどのオーラが駄々よっていたのだ。 周囲は一瞬にして異様な気配に包まれた。 「てめぇ、独角児だな?」 悟空が化け物の名前を呼ぶ。一つの(独つ)角を持つ鬼児。名は体を現すというけれど、これほどあからさまなものもないだろう。 「久しぶりぜよ、悟空のダンナ」 癖のある喋り口調。 「ああ、久しぶりだな。なんだ、また俺様に倒されに来たのか?」 悟空は皮肉をたっぷり込めて言い放つ。前に何かあったのかしら? 悟空の問いに独角児は何も答えなかった。しかしその言葉をつき返すような光が独角児の瞳には宿っていた。 独角児と悟空の間に火花が飛び散る。 私の前に立つ紅孩児はぎゅっと先ほどの珠を握り締めていた。 「ぼっちゃん、それをこっちに早く寄越しなって。でないと・・・なぁ?」 判っているだろう?と言いたげな独角児。それに対して紅孩児は強い目で見返すことしか出来なかった。 何があったのかは判らないけれど、・・・多分、それは紅孩児のお父様とお母様に関係あるんだと思う。 「だめよ、紅孩児がこんなに大事にしているんだもの。あなたなんかに渡せるわけがないわ!」 ちょっと怖かったけれど、私は紅孩児と独角児の間に立った。 独角児の攻撃目標が紅孩児から私へと変わった。 悟空は先ほどの会話以来無視されている。しまったな、余計なコト言っちゃったのかも。 攻撃目標が私に変わるってコトは、一番最初に相手をするのが私であって、えっと、自分で自分の身は守らなきゃいけないわけで。 ああん、頭がごちゃごちゃする〜。 でも、とりあえず、言っちゃった事は言っちゃった事だし、少しくらい私だって戦えるんだから! 「!」 ひゅんと音がして、私の視界から独角児が消えた。 そして腕から伝わる思い痛み。何かにぎゅっと腕を握られているような・・・ 「御嬢ちゃん、無茶はいかんぜよ」 背後から聞こえる声。 独角児は見た目からは想像できない動きで私の背後に回り、その手をつかんだのだ。 「ちょっ、や、やめてよ!」 その手を振り切ろうとするのだが、私の力なんかじゃ化け物の力に勝つ事は出来なくて。ただ、じたばたするしか出来ない。 ああ、少しあきれた顔をしている悟空の目が痛い・・・。 「良いから、その珠をこっちによこせ!」 「きゃあっ!」 いっこうに手に入らない珠にイライラしたのか、独角児は腕をさらに締め上げた。 「玄娘!てめェッ!!」 悟空の声が響く。・・・助けてくれるの? 「ぐほっ・・・」 本当は・・・可愛らしく悟空の助けを待つつもりだったの。 悟空の空中蹴りが独角児にヒットして、よろけた独角児が私の腕を放して、私は解放されるつもりだったの。 そして涼鈴が大丈夫だった?とか言いながら私の事を心配してくれて、紅孩児は私の勇気を誉めてくれるはず、だったの。 だけど、だけど・・・。 「痛いってば!」 あまりの締め上げに我慢しきれなくなった私は締め上げられていないもう片方の腕で(正確には肘)独角児に攻撃を仕掛けた。 それが。私と独角児の身長を考えると丁度、私の肘の辺りが独角児のみぞおち、なのよね。 綺麗にクリーンヒットしちゃって・・・。 独角児はそのまま、私の腕を放すと、腹を押さえながら膝を落とした。 その瞬間私は独角児から離れ、悟空や紅孩児のところへと向かう。なんか・・・みんなぽかんとしているんだけど・・・。 「こ、小娘・・・」 独角児が恨めしそうな顔で私を見る。やだ、そんな顔で見ないでよ。偶然なんだから。 仕切りなおして、悟空と涼鈴が前衛をする形で独角児と向かい合った。紅孩児も前衛で戦えるとは言ったけれど、片手に大切なものを持ったまま全快で戦うわけには行かない。 4対1。明らかに不利である独角児は指を鳴らした。そして独角児のオーラが広がり、そこから数匹の化け物が現れた。前に見たことのある飛蝗のような化け物だ。 「何匹居てもかわらねェよ」 悟空の言葉が開戦の言葉となった。一難さってまた一難。一体いつ、昔に戻れるんだろうか。
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††小さな言い訳。†† 玄娘の強気なところとちょっと間が抜けているところを書きたかったんですが、 あれ? なんか・・・微妙…です。 |
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