大唐西域異伝
〓第二章・九回〓

 ふわりと辺りに紫色の霧が発生した。
「な、なにごとぜよ?!」
 独角児は次第に濃くなっていく霧に飲まれたまま、辺りをきょろきょろと見まわす。
 独角児の側面、私の隣側を軽快な足音が欠けぬけて行った。
 たたたたた…そして、力強く大地を蹴る音。
「!」
「んふふっ!」
 空中で一回転し、独角児との間合いを計って、その目の前に着地するのは涼鈴。
 突然の出来事に一瞬躊躇する独角児に涼鈴は得意技をお見舞いする。
「烈針霧!」
 涼鈴の周りに向かって天高くから雨のような針が次々と落下して行くのが見えた。
 空からの刺針は独角児に悲鳴を上げさせ、その体力を大量に奪う。
 
 空からの襲来は辺りを覆っていた霧と共に消えた。
 あの霧はこの術法の前触れだったのね。


「ぢ、ぢくじょ〜」
 お尻に沢山の針を刺したまま、独角児は涙目で涼鈴を見る。
 涼鈴はと言うと、会心の攻撃にガッツポーズを取っている。ふふふ、涼鈴らしいなぁ。
「さーて、よそ見はマズいんじゃねェーの?」
 印を結び終えた悟空が今度は攻撃を仕掛ける。
「烈炸炎!」
 悟空も涼鈴と同様、独角児に接近し、術を放つ。
 視界から悟空と独角児が消え、2人を炎が包んだ。火の術法が苦手な涼鈴は
「おっと」
 と言いながら私の方へと避難する。


 暫くの後、鎮火した中から現れたのは無傷な悟空と体中を煤だらけにして現れた独角児。
 弱々しい足取りでゆっくりとこちらへとやってくる。

「玄娘、あれやってみろ、あれ」
「あれって何?」
 悟空が錫杖を指差しながら何かを指示する。
「封印だよ。・ンなもん、この状況なら何すっか分かるだろうが」
「そ、そんな事言われても…」
 やってみたことが無いんだし、出来るわけ無いじゃない。…だけど、もし三蔵さんだったら。
 そう思ったら、行動までは早かった。

 地面と平行させた錫上に祈りを込める。
 祈りに満ちた錫杖は次第に光を放ち始めた。その光はひとみを閉じていても判るほど。
 そして錫上をゆっくりと垂直に向きを変え、天からの補助を賜れる様に地面に突き立てる。
「封印!」
 最後の掛け声は要るのかどうかわからなかったけど、錫杖に宿っていた光はやがて独角児を包むと、再び錫杖に戻り、1度だけシャランと心地よい音を告げた。


 目の前には悟空と涼鈴と紅孩児。そして戦いの後と青い空だけだった。



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††小さな言い訳。††
ごめんなさい。やっとです。。。