大唐西域異伝
〓第二章・十一回〓

鳥のさえずりが頭上で聞こえた。
体が時空を越える感覚はまだ慣れないけれど、しっかりと瞑った瞳を開けると、そこは数日前に見た景色だった。
緑の森の中にそびえる赤い炎の山。そして、その前に立ちはだかる黒い門。


村人が恐れていた門を早く閉じるという使命を思い出し、私たちは黒い門へと急いだ。

依然見かけたまま、特に変わった点はなく、私たちはその門をどうするべきか考えながら見上げた。
平たい門なのに、その奥が全く見えない黒い門。
両脇に取り付けられた重そうな鉄の扉は地面に根付き、簡単には動きそうに無かった。
これを閉じれば、とりあえず人がこの中に吸い込まれるなんて言うことは無いんだけど・・・。
私はうーん、と唸って両腕を伸ばした。

チャリ・・・

あ、これって・・・。
「それ、『向こう』で見つけた鍵じゃない?」
涼鈴が私の足元に落ちた鍵を拾い上げて言う。
そういえば、心のかけらが手に入ったのと、独角児との戦いで忘れていたけど、これは多分ここの鍵。
きっとこの扉を閉めて鍵をかけてしまえばもう大丈夫になるんじゃないかしら?
「そうかも。でも・・・」
涼鈴に手渡された鍵を握り締めて、私はもう一度門を見た。
地面と繋がるように土にめり込んでいる扉。
扉の厚さは1mはありそう。こんな重い扉、どうやって閉めたらいいんだろう・・・。


「アレ、やるか、アレ」
「アレ?」
悟空が涼鈴に何かを持ちかける。
「あー・・・アレね、アレ」
「そう、アレ」
・・・アレじゃ判らないわ。
「公主、アレ、ですか?」
「うん、アレ。
「アレって?」
「お前も出来ンだろう?」
「あぁ、オヤジ達も出来るアレか」
「そう、アレ」
「やるなら・・・悟空よね?」
「そうですね。繊細な私ではこの扉は無理です」
「誰が繊細だって?」
「私です♪」
「・・・私じゃ飛ぶくらいしか出来ないし・・・」
「俺か」
「お前だな」
「・・・・しゃあねェなー」

もしかして、アレ?・・・かしら。

悟空は扉前、中央に仁王立ちで立つと、そのまま印を結んだ。
悟空を包み込むように空気が螺旋を描きながら上昇する。
やがてその空気は量と速さを増し、竜巻へと姿を変えた。
竜巻によって呼び寄せられた暗雲は大きな空に光の筋を何本か描き、雷を起す。
舞い上げられた風で運ばれた砂利に私は目を開けていられなかった。
そして地面を引き裂くような力強い咆哮が辺りに響き渡り、私の目の前には山ほどの大きさを持つ大猿が現れた。

涼鈴や八戒で見せてもらった神獣変化とは迫力も格も全然比べ物にならない悟空のそれに、私は言葉を失った。
「ご、悟空・・・?」
(いいか、俺がこの扉を閉める。だからお前は鍵をかけろ)
悟空の声が心に届く。
「で、でも!」
(でも?)
「この扉に吸い込まれた人は・・・たくさんの人たちはどうなるの?閉じちゃったら帰って来れないよ!」
今更思い出した村人の言葉。
悟空もそれに気付いたのか、遥かずっと高いところにある頭をガリガリ掻くと、少しだけ考えを巡らし、私に答えをよこした。
(とりあえず、この扉は一方通行なんだろう? ・・・なら大丈夫だ。それに)
「それに?」
(原因となった扉が無くなれば『時空を越える』という術力もなくなるわけだし、戻ってこれると思うがな)
悟空の言う術力の定義はわからないけれど、確かに一方通行の扉は早く閉じてしまわなくちゃいけない。
私は・・・私はみんなの視線の真ん中で悟空の言葉にうなづいた。
「判ったわ。悟空、お願い!」
(・・・おっしゃ!)

厚い鉄の扉に押された土が音を上げながら移動する。
よほどの力が必要なのだろう、扉を閉じる悟空の足も地面にめり込んでいく。
涼鈴の指示で私は少しだけ後ろに下がり、その成り行きを見守った。
少しずつだけど、両側に180度開いた扉は角度を鋭角にし、こちら側と向こう側の境界線を少しずつ消していく。
しばらくして、扉は轟音を上げなら完全に閉じた。悟空が抑える扉の足元、
私の目の高さにある小さな鍵穴に私は黒い鍵をカチャリとかけた。

その後、扉は何の前触れもなく、空気に溶けるように無くなった。


「こ、これでいいのかな・・・」
「いんじゃねェーの?」
振り返るとそこには元の姿に戻った悟空が。皆も笑顔でそこにいる。
これで、一安心、かな。



††小さな言い訳。††
更新日を間違えて記憶してました。すみません。
しかし、書きながら『悟空が変身したのがこれが初めて?二回目?』と疑問に思ったり。
流石にここまで長く小説を書いた事がないので、ボロがそろそろ出てきそうです。
明らかに「ココはおかしいぞ!」というところがありましたら、是非是非教えて下さい!! 多分本人気付いてないです。
そしてそして、こんなん書いて欲しい、というネタがあればそちらも是非! メールでも掲示板でも良いので、ご連絡下さいー。
(流石に悟空と玄娘を18禁で、というのは無理ですが/苦笑)。

あと、また更新が遅くなって、ご迷惑をおかけしないように次回の更新予告は消しました。
ですが、2週間に一度の更新は出来る限り守って行きたいです。
皆様の応援が心の糧ですー!!