大唐西域異伝 〓第二章・十二回〓 | |||
扉が消えたことで、私達は先へと続く道を見つけることが出来た。 林道へと続く道は平坦で、穏やかな日差しだけが私達を照らしている。 どこにでもありそうな山街道。だけど、少しだけ違うのは・・・道々で倒れている人が多いこと。 最初、私達は私達が時代交差している間に何かが起こったのだと思い、 一人一人起こしてはその事情を聞こうとした。 しかし、誰一人として『なぜ自分がここにいるのか』を説明できる者は居なかった。 ただ、黒い扉に飲み込まれたまでは覚えている、そんな回答が多かった。 「と言うことは。だ」 悟空がそう言って私に笑顔をよこす。 「お前が扉を消滅させた事で、行方不明になってたヤツらは帰ってこれたんだろう」 珍しく優しそうな悟空の笑みに私は、深くうなづいた。 私達はひとまず道に倒れている人たちを街道脇に寄せ(通行の邪魔になってしまうもの)、 傷ついた人が居ないかだけを確認し、その先を急ぐことにした。 この山を越えれば三蔵さんのいる亀滋までそう遠くない。 林道を少し入ったところで、紅孩児が私を呼び止めた。 「ちょ、ちょっと待ってくれ!」 何かを感じたのか、きょろきょろと辺りを探っている。悟空は 「何かあったのか?」 と紅孩児の隣まで行き、同じように辺りを見回す。 しばらくして、紅孩児は林道から少し離れた白梅と紅梅の木の根元へ駆け寄った。 日当たりの良い梅ノ木の根元には小さな女の子が二人並んで眠っていた。 「おい、金麗! 金麗ってばよ!」 紅孩児は二人のうちの一人を揺り起こす。 うーんと、唸って少女は目を覚ました。 「あれれ、紅孩・・・、こっ、紅孩児?!」 驚いて声を上げる。その声の大きさに隣で眠っていたもう一人も目を覚ます。 「どうしたの、金麗ちゃん・・・」 二人は今までの出来事を話してくれた。 久しぶりに、悟浄に会おうと出かけた矢先で道に迷ってしまい、 突然振り出した雨から逃れるために見つけた扉に入り込んだところ、 訳のわからない世界に迷い込んでしまったこと。 そこで出会った美しい貴婦人に助けてもらい、しばらくはその貴婦人のところでお世話になっていたこと。 どうやら、そのお世話になっている最中に私が扉を消滅させたせいで、 彼女達がこの場所へ帰ってこれたのだろう。 助けたことに対して、私にお礼を述べる二人だったが、それまで自分達を大切にしてくれていた その貴婦人に挨拶出来なかったことが二人の顔に影を落としていた。 「でもよ。金麗がその貴婦人に感謝の気持ちをずっと抱いていたんなら、相手もそれとなくわかってくれてると思うぜ」 金麗の頭をくしゃくしゃっとなでて悟空が言う。こういう時の悟空って、どうして一番欲しい言葉を判っているんだろう。 「そう・・・ですよね。急に私たちが現れたんだもの。 きっとあの方も私達が今度は急に消えてしまうことも・・・知っていたかもしれないわね」 ゆっくりとした口調で銀麗が話す。金麗は落とした影を吹き払って顔を上げた。 「そうだよね。私、ずっとお皿洗いもしてたもん!」 「うふふ、割ってたの間違いじゃないの?」 「ちょっと、銀麗〜、その言い方はないんじゃないっ」 多分、これが二人の本当の姿なんじゃないかな。 「お姉ちゃんはお名前なんていうの?」 木漏れ日の街道の中、銀麗が私を見上げて尋ねてきた。そうだ。みんなは彼女達に会ったことはあっても 私だけは『はじめまして』なんだっけ。 「私・・・私は、陳玄娘っていうの」 「私はねぇ、銀麗。で、向こうが・・・金麗ちゃん」 そう言って銀麗は一行の一番後ろを指差す。そこには紅孩児にベタベタされている金麗の姿があった。 「ねぇ、玄娘お姉ちゃん」 「なぁに?」 「お姉ちゃん、誰かに似てるって言われたこと、ない?」 「え?」 ・・・・・・それってやっぱり三蔵さんの・・・ことだよね。 先頭を歩く悟空の後姿を私はついつい追ってしまった。 きっと悟空が早く先を急ぐのは三蔵さんに会いたいから、なんだよね。 そう思うと、なんだか息苦しくなった。悟空が三蔵さんを慕っていることはずっと前から知っているし、 それは私がいちいち口を挟めることじゃない。 なんだか切なくなって、私はため息をふぅ、とついた。 | |||
††小さな言い訳。†† 続きを書くのにどれだけかかっているのか・・・。 すいません、すいません。本当に読んで下さる方を差し置いて怠けてました。ごめんなさい。 にしても間が長過ぎて・・・実は続きをちゃんと書こうかどうか迷っていたんですよー(汗)。 なんですが。イベントで「読んでます」とか「続き・・・書かれるんですよね?」とかのお言葉を戴いてしまって あわわわわー。ほんとうにこんな話で申し訳ないのですが、続けよう、終わらせよう!と 再発起しました。 今回はですね、ちゃんと最後までのフローチャートも完成させたので、あとは書いていくのみです。 色々とご迷惑をかけてばかりの人生ですが、何かしらの形でご恩返しが出来たら・・・本当に幸いです。 金麗と紅孩児ですが・・・あまりカップリング話を聞かないので捏造もいいところなんですが、 ウチの紅孩児は母親に似て、強い女が大好きです。よって金麗>銀麗なのです。 この部分に関しては好みが分かれるかと思いますが、御了承いただければありがたいです。 | |||