Beyond the All…
人間の住む世界と、人間の空想の世界の間に、
人間の知らない空間がある。
広いのか狭いのか、大きいのか小さいのか判らない
不可思議な空間。

そこには小さな劇場と、小さな鏡と、
虚無の空間を生きる座長が一人。

ここは・・・ルミネ・ノール。



ふと鏡が闇を反射させ、そこに黒髪の座長を映し出す。
「ブラックゥ・」
座長の声の向こうに・・・黒い髪、黒い瞳を持つ漆黒の座長。
「やぁ、シルバー。お元気そうだね」
年齢不詳の黒い座長は意地悪そうに声をかけてきた。
「ええ、御陰様で。元気ですよ」
それでも座長は丁寧な言葉で返す。
鏡の中に広がる同じ空間。
座長と劇場以外色を持たない、空も地もない空間。
「それで、今日はなんの御用魔ナすか?」
いつまでもニヤニヤと笑い続けている黒い座長に
イライラした座長が問いかける。
「まぁまぁ、ゆっくゆ゙珈琲でも飲みながら話をしようじゃないか」
鏡の中のブラックは1カップの珈琲をテーブルの上に置いた。
シルバーは仕方なく近くの椅子に腰をかけ、
隣に置かれたテーブルの上に現れた珈琲マグを手に取った。
・・・珈琲は少し苦かった。



「君はまた、7つのアークを持つ子供を捜しに行くのかね?」
ゆったりした椅子に右足が上になる形で足を組んだ座長は
鏡の向こうに見えるベージュ髪の座長に問いかけた。
「それが、私の役目ですから」
シルバーはマグに視線を落としたまま答えた。
フフン
かすかに座長は鼻で笑う。

イイカゲンニ アキラメタラ ドウダ?

「君はこの世界が人間の世界、もしくは空想の世界と
 本当に融和できると思っているのかね」
シルバーは何も答えてこなかった。
暫くの沈黙の後、マグをテーブルに押し戻した白い座長は
まっすぐに鏡を見つめると一言だけ伝えてきた。
「私は・・・信じています」


それからどれくらい時間がたったのだろう。
2人の座長は各々考えるべき場所へ自分の幻影を送り、
それぞれ探し物をして帰ってきた。
一人は多くのモノを手に入れて。
一人は何も手に入れずに。
やがて身辺の整理が片付いた、再びブラックはシルバーを
鏡の前に呼び出した。
「こんばんは、シルバー」
「・・・・・・」
「おっと、君の世界にはまだ時がないのだったね。
 『こんばんは』という言葉はふさわしくないね」
ブラックが頬骨を浮き上がらせてシルバーを嘲笑する。
シルバーは鏡の中を、ブラックに判らないよう覗き込んだ。
そこには沢山の人々と、沢山の建物と,
『黒と白』の世界が広がっていた。
「ブラック・・・あなたは!」
あまりのショックにシルバーは言葉を失った。
真っ白な月が真っ黒な夜を照らし、
灰色の動かぬ人間が人形のように立ち並ぶ世界。
「素晴しいだろう。ここが私のダルク・ノール。
 君のルミネ・ノールとは違い、繁盛しているよ」
ククク、ブラックののどが鳴った。
「これが時間と欲の世界だ。簡単に手に入る。
 私はもうお前みたいな孤独な人間じゃない」
シルバーは・・・少しだけの後悔と挫折を知った。



鏡での通信を一方的に断ち切り、
座長は劇場の二階へと足を運んだ。
音のない世界で、座長の足音だけが響く。
座長室に閉じこもり、机に伏してそっと目を閉じた。

全てのアークを手にする子供に本当に会えるのだろうか。

考えることは沢山あった。
疑問に思うことも多くあった。
だが、全てがどうでも良くなってきた。
瞳を閉じたその闇の中で、ブラックが手招きをしているのが見えた。

その時。
暗い闇の中、二人の間を割るように金色の光がふわりと舞った。
透き通るように輝かしい光。お互いの顔が光に照らし出される。
小さくか細い光はやがて消えたが、
座長は、シルバーはその光に小さな『希望』を感じた。


旅立ちは遠くなかった。
自分となる案山子の座長を街に送り出す準備に取り掛かるシルバー。
鏡の向こうからはそれを嘲笑するブラック。
「今更どこに向かおうと言うのだ。
 今まで目新しい都市は回ってきたではないか」
だが、その皮肉もシルバーの耳には届かない。
「今度、港の小さな町で祭りが開かれるんです。
 『希望』は、7つのアークを持つ子供は必ずそこにいます」
根拠はないが、自信はあった。



案山子の座長は顔をまっすぐ上げ、港町へと向かう。
真っ青な空。どこまでも広がる大地。命を運ぶ海。活気溢れる街。
全てがここから始まった。




えーと…。
判りにくい話になってしまって申し訳ないデス。
頭の中にはちゃんと映像で物語が出来ているのですが、
どこまで伝わっているのか疑問で仕方ありません。(-x-;)

イメージ的には山田章秤謾撃フ『紅色探偵団』に出てくるノイエ・ジャポネが近いです。
空もなく、地平線もない。ただその空間に劇場だけが存在する世界。
そこが現実世界と繋がるために案山子の座長は存在する、と考えてくだされば幸いです。
物語以前の話なので、完全にオリジナル・・・ですね。

ゲームに登場するキーワード、
・シルバー・フィンガー・チップスとブラック・フィンガー・チップスは知り合いだった。
・シルバーは何度か挫折を経験したことがある。
・希望の光は座長の部屋にあった。

  ・・・・・・それを書いてみたかったんです。

文字だけでどこまで自分の考えを表現できているか判りませんが、
少しでも伝わっていたら嬉しいです。