せんかしの雑文

本に関する記憶

私が幼稚園の頃、母親が動物図鑑を買ってくれた。
その中のヒグマの絵が、妙に心に残っている。
背景に描かれた山や川が、不気味なほど寂しく思えたのだ。
まるで自分がその寂しい景色の中にいるようで、とても怖くなった。
同じような気持ちは、初めて海や大きな池を見た時にも感じた。
自分の意思が及ばない世界に対する、恐れの様な気持ちだった。
いまだに私は、海を見ても素直に喜べない。

小学生の頃は、あまり自分で本を買うことは無く、家にある本をたまに読む程度だった。
『眠れる森の美女』などの絵本、『シンデレラ』などの童話、『太郎とクロ』などの児童書が家にあった。
題名がうろ覚えだが『振り返るな裕治』は、小児麻痺にかかった少年の闘病を描いた作品だった。
最後の方、退院して自分の家に戻ってくる場面で、実際に私の胸に懐かしい感じが湧いた。
物語を読んで特別の感慨を持ったのは、これが初めてだった。

小学5年と6年の担任のF先生は、図書室の管理をされていた。
本の整理を手伝うと、学習雑誌の付録をもらえたりした。
私は、ハンドルを回すとパラパラ漫画の要領で絵が動く物をもらって、とても嬉しかった。

F先生は読書指導にも熱心で、読んだ本を毎週報告させられた。
私が3週続けて何も読まなかった時は、代わりに漢字の書き取りをさせるぞと怒られた。
それでも、まじめに本を読む気になれなかった。
本の章題を1冊づつの本として、ごまかして報告したりした。

私がある程度の量の読書をするようになったのは、高校に入ってからだった。
F先生に言われた時に、ちゃんと読むようにすればよかった。
そうすれば今頃は、もっとましな文章が書けるようになっていたかもしれない。