腕時計のキズ
今から30年以上前、私は当時の家の近くで腕時計を買った。
働き始めて1年が過ぎた頃で、自分へのプレゼントだった。
その頃は特にお金を使う趣味とかも無かったので、少し高価な時計を奮発した。
その時計店の主人は、昔風の職人気質のおやじだった。
客に対しても、ずけずけものを言うタイプで、私は苦手だった。
まあ、それも自分の技術への自信の現われなのだろうと思った。
それから2年ほど経って、私がその腕時計を落とした拍子に故障してしまった。
修理を頼みに行った時、外しておいた電池の持ち方にまで主人が文句を付けてきて、相変わらずだなあと思った。
修理が済んで、受け取った腕時計を、家でよく見てみた。
ガラス面に、細長いキズが付いていた。
ごく浅いキズだが、光の具合によっては、はっきり分かる。
修理前には無かったキズで、店の主人が気づかなかったはずは無い。
私は、心底がっかりした。
クレームを付けるべきか迷ったが、結局やめにした。
受け取りの時にちゃんと確認しなかった自分は、つくづく甘い人間だと思う。
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