◆ギヤチェンジ

 チェンジペダルを踏むと変速していくけど、エンジンの中でギヤはどんな動きをしているんでしょう?
 バイクの変速機は「常時噛み合い式変速機」と言われているけど、どんなメカニズムでしょう?

常時噛み合い式5速変速機の例

・常時噛み合い式変速機
 その名の通り、ギヤは常に噛み合って回転しています。では、ギヤ比が違うのに何組ものギヤが常に噛み合っ
 て回っているって、変だと思いませんか。そう、ドッグミッションなんです。
 ギヤには
  1.シャフトと一体になって回転するギヤ(1P、2P)
  2.シャフトにスプライン嵌合しシャフトと一体になって回転しつつ左右に動くギヤ(3P、4W、5W)
  3.シャフト上で回転するが左右に動かないように固定されたギヤ(4P、5P、1W、2W、3W)
 の3種類あります。

 これらがドライブシャフトとドリブンシャフトに、各一対となって5速なら5組、6速なら6組付いています。
 
  各ギヤの側面にはドッグと呼ばれる凹凸があり、これを噛み合わせて動力を伝達しす。この噛み合う場所を
 変更するのがシフト機構です。(シフト機構については別の機会に)
 
・ギヤの動き
 2速から3速へ変速する際を例に説明します。

ドッグの噛み合い

 2速の時、ドリブンシャフト上の5Wギヤが2W側に動いていて2Wギヤとドッグが噛み合っています。(黄矢印
 の箇所)
 3速へシフトアップする時、5Wギヤが右に動いて2Wギヤとのドッグの噛み合いを外し、さらに右に動いて3W
 ギヤのドッグと噛み合います。 (青矢印の箇所)
 3速から4速の時は、5Wギヤが左に動いて3Wギヤとのドッグの噛み合いを外し、次に3Pギヤが右に動いて4
 Pギヤのドッグと噛み合います。
  概ね、ドックの噛み合い代は4mm ドッグ間の隙間は1.5mm位ですから左右に移動するギヤはドッグを外すた
 めに5.5mm、噛み合うために5.5mm 動きます。

  さて、2速から3速へ変速するときに5Wギヤのドッグは3Wギヤのドッグに飛び込んでいくわけですが、 5W
 ギヤは何回転で廻っているのでしょう?相手の3Wギヤは?

・ギヤの周速
 各ギヤの回転数を知るには、1次減速比が判らないと計算できません。

  そこで実際の1次減速比を見るとヤマハのYZ85の場合「3.611」、同じくDRAG STAR 1100は「1.659」・・・と、車
 種によってマチマチです。(といってもそれぞれ理由があって決まってますが、それを書き出すと、長くなってしま
 うので今回は割愛します)
  ココでは計算を簡単にするため1次減速比を「3.000」とし、エンジン回転数が「3000rpm」の時に、2
 速から3速へシフトアップする時を考えることにします。

 1次減速比が3.000ですからエンジン回転数3000rpmの時、ドライブシャフトは1000rpmで回転していま
 す。
 ドライブシャフトと一体になって回転しているギヤは、1P 2P 3Pです。一方、ドリブンシャフトと一体にな
 って廻っているのは、4W 5Wです。今、2速ですから5Wのドッグが2Wのドッグと噛み合いエンジンの回転は
 、1次減速ギヤからドライブシャフト→2P→2W→5W→ドリブンシャフトへ伝わり、2速ギヤで減速された回転
 数で回っています。
  ここから先は、ギヤ比を決めないと計算できません。別のページで述べたようにギヤ比は千差万別、種々雑多、十
 人十色、、、。そこで計算しやすいように架空のギヤ比として「2.5/2.0/1.8/1.2/1.0」の5速ミッションで計算しま
 す。

  因みに、実際のバイクのギヤ比は、以下のようになっています。
   YZ85の変速比は「2.454/1.882/1.529/1.294/1.130/1.000」
   DragStar11の変速比は「2.352/1.666/1.285/1.032/0.852」
   BMW R100RSの変速比は「4.400/2.860/2.070/1.670/1.500」

  ドライブシャフトは1000rpmで回転してるので、2速ギヤで減速されたドリブンシャフトは500rpmで廻って
 います。
 この時の各シャフトと各ギヤの回転数をまとめてみると
  ドライブシャフト:1000rpm        ドリブンシャフト:500rpm
        1P:1000rpm(ドライブシャフトと一体) 1W:400rpm(1Pで回されている)
        2P:1000rpm(ドライブシャフトと一体) 2W:500rpm(2Pで回されている)
        3P:1000rpm(ドライブシャフトと一体) 3W:555rpm(3Pで回されている)
        4P: 600rpm(4Wで回されている)   4W:500rpm(ドリブンシャフトと一体)
        5P: 500rpm(4Wで回されている)   5W:500rpm(ドリブンシャフトと一体)

  “さて、2速から3速へ変速するときに5Wギヤのドッグは3Wギヤのドッグに飛び込んでいくわけで
   すが、5Wギヤは何回転で廻っているのでしょう? 相手の3Wギヤは?”

 の答えが出ました。
   「2速から3速へ変速するとき、5Wギヤは500rpm 3Wギヤは555rpmで廻っています。」

   相対回転数は55rpmの差があるわけです。

  前段で「ドックの噛み合い代は4mm ドッグ間の隙間は1.5mm位ですから左右に移動するギヤはドッグの噛み合
 いを外すために5.5mm、噛み合うために5.5mm 動きます。」と書きましたが、 55rpmの差があってドッグが
 完全に噛み合うには、5Wギヤは11mmの距離をどんなスピードで動けば良いのでしょうか?

余談:ドッグの種類

丸雌ドッグの例

角雄ドッグの例

・形状から・・・角ドッグ 丸ドッグ 雄ドッグ 雌ドッグ 歯面ドッグ
・ドッグ数から・・・3ドッグ 4ドッグ 6ドッグ・・・
・ドッグの噛み合い面から・・・逆テーパドッグ


シフトアップの前半では、5Wは2Wとのドッグの噛み合いを外し、ニュートラル状態を経て、後半は3Wのドッ
グに飛び込んでいきます。前半の、ドッグの噛み合いを外すための動きはさして難しいことはないでしょう。トル
クがかかっている場合は、ドッグの噛み合い面の摩擦力に打ち勝って、滑って抜かなければならないが、スロット
ルを戻すかクラッチを切ってトルクがかからないようにすれば簡単に抜けます。
問題は後半の3Wのドッグに飛び込んで噛み合うところです。
5Wと3Wとの相対回転数が55rpmでしたから1分間に55回転、角度にすると「55回転×360度=198
00度」1秒間に直すと「330度」の速さで回転していることになります。
5Wの雄ドッグの角度を30度、3Wの雌ドッグの角度を45度とすると、遊びは15度ということになり、この
15度回転する時間(0.045秒)に4mm移動しなくてはならないことのなります。つまり秒速88mmで動かなけれ
ばなりません。
  でも、これはドッグ同士の位置関係一番条件の良いときの話なんですよね。
実際には、ドッグ同士が突き当たってぶつかったり、ドッグの角の面取り(0.3〜0.5)同士でハネられたりしてい
るんです。

 古くからライダーの間で言われているテクニックの一つに「ノークラッチ・ギヤチェンジ」というのがありま
す。
 百分の一秒を争うレーサでは必要なテクニックの一つですが、このテクニック、ひとつ間違うと「ドッグナメ」

というトラブルに繋がる危険と隣り合わせの「技」です。

ドッグの遊び
 大きければギヤの入りに有利となるが、アクセルのオンーオフでギクシャクが出ちゃうし、小さいと入りにく
くなってタッチが悪くなる。
 どれぐらいの遊びがあるか、は自分のバイクで確かめることが出来る。ギヤを入れてタイヤを回してみると直
ぐに判る。同様に、どれくらい入りにくいかも。チェンジペダルを押し下げたままタイヤを廻していくと、ある
位置で「スコン!」と入るが、それまでの間ドッグが突き当たっているのです。

R100RSの場合
 上で紹介したミッションとギヤ配列が異なります。上の例は左から「2−5−3−4−1」の順に並んでいま
すが、R100RSは左から「5−3−2−4−1」の順に並んでいます。

 上と同様に、2速から3速に変速する場合のギヤの動きはどうなるのでしょう。

各変速時のギヤの位置を図解すると下図のようになります。

赤色のギヤは、常に入・出力軸と一体で回転
しており、シフトフォークのついているギヤ
は左右にスライドする。

4Wがスライドし1Wのドッグと噛み合う。
青色の線は動力(トルク)の伝達経路。
(以下同じ)

1Wと噛み合っていた4Wがスライドし2W
のドッグと噛み合う。

2Wと噛み合っていた4Wが中間位置に戻っ
た後、2Pがスライドし3Pのドッグと噛み
合う。

3Pと噛み合っていた2Pがスライドし4P
のドッグと噛み合う。

4Pと噛み合っていた2Pが中間位置に戻っ
た後、3Wがスライドし5Wのドッグと噛み
合う。


2速から3速へ変速するとき、上の例では5Wだけが動いていましたが、R100RSの場合は、
4Wと2Pの
二つのギヤが動きます。
 このように、同じ5速でもギヤ配列により動くギヤは異なります。

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