「Δサーバー 隠されし 禁断の 聖域!!」
ヒュイィィィン
カオスゲートからプレイヤーが転送される。
「ここか…プレイヤーから不思議なNPCが現れたという場所は…」
そのエリアは一見変わっていた。
ダンジョンがあるわけでもない。無論、魔方陣も宝箱も…そう、本来はある筈もないエリア…
彼の名はアーネスト。髪の色は金色、体には白銀の鎧を付け、剣を片手に持つ…職業は剣士。
彼はCC社でThe Worldと呼ばれる大規模MMORPGの管理をするGMの一人…。
「不思議なNPCか…」
彼はそう呟くと聖堂への道を歩き始めた。
天井で揺れる四つの振り子…聖堂の奥にある、縛られた少女の像…
「デマか…?NPCなどどこにも…」
ザッ…ザザッ…
突如スピーカーから聞こえてくる深いなノイズの音。
「なっ…!?」
突如、目の前の空間が歪み始める…
ザッ…
ノイズ音が止むと同時に彼の目の前に現れた少女。
(これが…プレイヤーから通報のあったNPC…)
少女の姿は…そう、12〜13歳くらい、少し赤みのかかった髪、
ふわふわとしたワンピースの様な衣類、靴は履いていなかった…
「馬鹿な…こんな姿のキャラは作れるわけが…」
あり得ない…そう彼は思った。だがそれが自分の目の前に実在している。
「しかし…これは企画書にあったバグと同じだ…『放浪AI』確か見かけ次第削除しろと書かれていたはず…」
シャキンッ…
彼はその手に持った剣を少女に向ける。
「別に君に恨みがある訳でもないんだが…一応仕事なのでな…」
NPCが返答することはない。こんなことには慣れている。別にどうってことはない。
いつものようにThe World内に潜むバグを消すだけである。
今までも何人かの『放浪AI』を削除してきた。
だが…今彼の目の前に立っていた少女のNPCは違った。
『私を…私を殺すの…?』
「なっ…」
少女はアーネストに言葉を返す。
『何故…私は何も悪いことはしていない。私はただここにいたいだけなのに…』
本来NPCはテキスト文字のみで会話をする。声を出して対応するNPCもほんの一部しかいない。
それももちろん人の声をあらかじめ入れておいて何時話しかけられても同じ言葉を返すようになっている。
だが少女は違った。まるで…自分の意思を持っているような喋り方だ。
勿論スピーカーから少女の声と思われる音も聞こえてきた。
とてもナチュラルな…人の声を吹き込んだ感じではなく彼女自身が喋っているような…
「君は…PCなのか?『放浪AI』じゃなく誰かが操っているのか?」
そう思いたかった。こんなものはあるはずがない。企画書にもこんなものの存在は書いてない。
ただあるのは『本来設定されていない場所に現れるNPCは削除する』と書かれた文だけ…。
『私は…PCではありません…私の名前はアリス…』
「君は一体…」
アーネストは少女に興味をしめした。
学者の間ではどんな知識をもっていてもどんなに優れた才能があっても
おそらく半世紀経っても人工知能を持ったプログラムを作り出すことは不可能だといわれている。
だが、目の前にはその不可能と呼ばれたものがある。
スッ…
アーネストは手に持っていた剣をしまった。
「大丈夫だ、俺は君を消したりはしない。」
『本当?』
「ああ、本当だ。」
『/smile』を押して笑顔で返答した。少女もそれに答えるかのようににこりと微笑む。
そしてアーネストが少女に近づき触れた瞬間…。
「アーネスト!!」
後ろで声が響いた。アーネストが慌てて振り向く。
そこに立っていたのは数人の剣士…碧衣の騎士団である。
碧衣の騎士団は『放浪AI』や不正行為を行うプレイヤーを容赦なく削除する集団。言わばデバッカー。
彼ら…碧衣の騎士団もまたCC社の人間。
「ふむ…そいつが通報のあった不思議なNPCか…」
「待て!この娘は…!」
ジャキンッ!
彼が言葉を言い終わる前に剣士達は一斉に剣を抜く。
「The Worldに存在する不正な物は何であろうと削除する!」
「ちっ…石頭が…」
剣士達が剣を構え走ってくる。すると突然少女が手を天井に向ける…。
ヒュイィィィン
光の輪が現れる。その輪はアーネストと少女を包み…そのエリアから二人をどこかへと転送してしまった…。
あとにはただゆらゆらと揺れる振り子の下にただ呆然と立ちすくむ剣士達だけだった…。


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