第19章 度会
「よく来たな・・・寛司が変な事しなかったか?」
「連れてくるところですぐにやなめにあったよ・・・」
・・・はぁ〜
2人同時にため息が出る。
寛司は応接間に通すとそのままどこかに行ってしまった。
応接間はきれいな机とソファーが机を挟んで2つ、壁にはランプがさがっている。
「で、用件はなんだよ?この間のメールの事か?」
「まあ、な・・・」
度会はまたも意味ありげに言葉をにごす。
「もうそろそろ教えてくれないか?俺も暇じゃないんだ・・・」
「わかった、俺が知る限りの事を教えるよ・・・」
そう言うと度会はノートパソコンを机の上に出した。
度会はノートパソコンを操作しながら
「こないだは、俺の部下がすまなかった・・・」
と俺にわびる
「別に良いよ・・・」
俺がどうでも良いようにすると
「最近の奴は裏方の仕事を表には出さないと言うのが気に入らないと言ってな・・・」
「わかる気もするが・・・」
パソコンの操作が終わったんだろう・・・パソコンを反転させて俺にパソコンのディスプレイを見せる。
「<ザ・ワールド・・・>?」
「そう、<ザ・ワールド>だ・・・」
そう言うとまた、パソコンを反転させる。
そして、少し時間がたってからパソコンを反転させる。
「これを見てほしいんだが・・・」
「ん・・・?これは、<ザ・ワールド>の中にあるフォルダじゃないか」
画面にぽつんと1つのフォルダがある。
「そう、<ザ・ワールド>のフォルダだ・・・しかも」
度会はパソコンのディスプレイの上から手を出してマウスを操作する。フォルダを開けようとしても開けられない。
「ハロルド・ヒューイックの置きみやげだ」
「ハロルドのブラックボックス・・・」
いろいろ言われている・・・最初の移植作業の時から気になっているフォルダだ。
「これ、開けられないんだよね・・・」
俺が残念そうに言う。
「鍵を持ってた人物は行方不明か・・・」
「鍵・・・ねぇ・・・」
そこまで言うと頭の中にある噂が浮かぶ。
「<キー・オブ・ザ・トワイライト>・・・<黄昏の鍵>か」
「そんな噂もあったな・・・たしか、<紅衣の騎士団>にそれを探していた奴が居たな・・・」
度会が気になることを言う。
「探した奴が居たのか?結局見つけた人は居なかったんだよな・・・?居たらBBSに載っているだろうが・・・」
「たしか・・・クリム・・・だったかな・・・<紅衣の騎士団>で探したって奴・・・」
・・・あの騎士団は解散したのか・・・
「ほかにも居たような気もするが・・・」
「そりゃあ・・・かなりの数の人が探しただろう・・・」
そこで会話が止まる。
「俺をここに呼んだのは昔話のためじゃないんだろう?」
俺が唐突に聞くと度会は黙る。
「フォルダを開けることも出来ないしな・・・」
部屋の中に重い空気が流れる。
コンコン・・・
ドアからノックの音がする。
「どうぞ」
度会が入っても良いと了解する。
「失礼します」
1人の若い男性が入ってくる。特徴は金髪に染めた髪と黒い瞳、今時の若者と言った感じだ。
手にはお盆を持っており、お茶が2つ乗っている。
「お茶です・・・」
ぶっきらぼうに男性がお茶を俺の前に置く。
「どうも」
そう言うと男性は俺を横目で見る。男性は度会を見るとお茶を置く、お茶を置き終えると
『どうぞ、ごゆっくり・・・』と言うと部屋を出ていった。
「なんだ・・・あいつ?」
俺が度会に聞くと
「あいつは・・・剛志だ。<碧衣の騎士団>で、この間お前と戦った奴だよ」
「斬審というPCだっけな・・・」
俺がすでに閉じたドアを横目で見る。
「そのことなんだが・・・」
度会がパソコンをさらに操作する。するとパソコンにホームが浮かんでくる。そこには1人のPCと少女が立っている。
俺のホームだ。おそらく、事件直後の撮ったんだろう。
「この画像はついさっきの物だ・・・俺が聞きたいのは・・・」
「放浪AIの事だな?」
俺はわざと少女の事を放浪AIと呼んだ。
「<碧衣の騎士団>として削除に乗り込むか?」
「いや・・・やめておく」
度会は俺のさぐりには乗らなかった。
「上からの命令は無いしな・・・」
度会はこう付け加えた。
少し互いに黙った後、俺はお茶を口に運ぶ。静かな部屋にお茶のズズズと言う音が響く。
「すまないな・・・さっきのは少し私情を挟んでしまった・・・」
度会がなにやら意味ありげなことを言って謝る。
「私情・・・?」
俺が問いつめようとすると度会は「なんでもない・・・」とそれ以上はこの事について教える気はなさそうだ。
少しの間の沈黙の後、度会が口を開く。
「お前のPCの職業・・・」
「俺のPC?」
俺がオウム返しに聞き返す。
「β版の職業キャラはCC社の許可が下りるまでは使用禁止のはずだが・・・」
「う・・・」
確かに使用禁止が出ていたが・・・今回だけの使用である。
「そ、それは・・・」
「斬審に勝つためか?」
度会が問いつめてくる。
たしかに・・・勝つために使った。
「2ndキャラクターは斬審によって削除されたし・・・そうだな、1stキャラクターの職業を剣士に戻すが良いか?」
「う・・・」
たしかに仕方がないことなのだが・・・
「その代わりと言ってはなんだが・・・」
そう言うと度会は1つの紙の束を机の上に出した。
「・・・契約書?」
そう、その紙は契約書だった。
紙の文字列に目を走らせる。その紙は仕事の契約書だった。目を通し終えると度会をみる。
「どうだ?受ける気はないか?」
「う〜ん・・・」
結構悩む、仕事内容は<ザ・ワールド>の新システムの考案だ。
「こういうのは、俺じゃなくても出来るだろう?」
度会に聞く。
「・・・日本語版移植作業に関わった奴で頼めるのはお前ぐらいなんだが・・・頼まれてくれないか?」
「・・・わかったよ、職業のシステムを作れば良いんだろう?」
「引き受けてくれるか!?」
度会の顔がすこし明るくなる。
「わかった、引き受けるよ・・・」
そう言うと俺はお茶を飲み干す。お茶を飲み干すと書類にサインをする。
「・・・わかった。では、システムの方を頼むぞ」
そう言うと度会は立ち上がるとドアを開ける。
「わかったよ・・・じゃあ、こんど<ザ・ワールド>で・・・」
そう言うと俺も立ち上がる。
「残念だが、これから24時間メンテだ・・・」
そう言うと度会は苦笑いを浮かべた。
第20章 客人
「・・・なにやってるんだ?」
ホームに戻ってきた俺が見たのはリフォームされた部屋と服のデザインが変わっている少女だった。
「あっ・・・おかえりなさい・・・」
少女は俺の声を聞くと顔を明るくしてこちらを見る。
木のいすと木の机、目立つ物はそれしかなかったホームが今は木のいすには赤と黄色のチェックのカバーがかけられている。
机にも同じようなカバーがかけられている。少女のデザインは白と青が目立つローブを着ている。PCでいうなら呪紋使いだろう。
「あの、部屋・・・」
少女はそこまで言うと俺の顔を伺う。
「え、あ〜良いよ。別に・・・」
俺が部屋の模様替えを許可すると少女はどこから持ってきたのか箒で床を掃き始めた。
少女が掃除をしている間、チェックのカバーが掛けられた真新しい椅子に腰を下ろす。
「そう言えば・・・名前はなんて呼んだらいいんだ?」
「あっ、わたしの名前はソフィアです。一応・・・放浪AIです。よろしく」
そう言うとソフィアは俺の向かい側の席に座った。
「なんだか・・・最初に会ったときとふいんきが変わったな・・・」
「あの時は・・・<碧衣の騎士団>に削除されるのかと思って・・・」
たしかに、削除されると言うことは殺されると同じ意味だから放浪AIには恐怖を感じたんだろう・・・
ここまで考えてフッと疑問が浮かぶ。この放浪AIは対話をしている。
話をしている感じ、人間と同じだけの知能を持ち合わせているようだ。そもそも放浪AIに感情という物があるのだろうか・・・
「あの・・・」
ソフィアが気まずそうに俺の顔をのぞき込んできた。
「えっ、ああ・・・すまん」
どうやら放浪AIの事を考えて顔が険しくなっていたようだ。
「私も聞いて良いですか?」
ソフィアは明るい声で質問してくる。
「ああ、いいよ。俺の答えられる範囲ならな・・・」
「あの、こないだの鉄製の突起物がないんですけど・・・どうしたんですか?」
「あ〜、これか・・・」
俺は話して良い物かどうか悩んだが、取り合えずかいつまんで剣士に戻ったいきさつを話した。
「はぁ〜、CC社も落ちましたね・・・」
ソフィアは俺の話に満足したのか満足気にため息をついた。
「落ちた?」
落ちたという言葉を聞いて少し疑問に思ったが放浪AIなら知っていてもおかしくはないだろうと思い、追求はしないことにした。
「あの、リオンさんに来てもらいたい所があるんですが・・・」
「来てもらいたい所?」
俺が聞き返すと
「えと・・・」
少し困ったようにドアの方に目をやる。
「ん?」
俺もドアの方に目をやる。少し立ってから
トントン・・・
ドアをノックする音が聞こえる。
俺はドアの前まで行くと
「誰ですか?」
と聞く。
「・・・私ですよ」
・・・だから、だれだよ・・・
そう思いながらチャットウィンドウに目を通す。チャットウィンドウには『・・・私ですよ』と言う文字の前にシンという文字が浮かんでいる。
シン・・・俺の知り合いと言えば知り合いだ・・・
「待ってろ今、開けるから・・・」
そう言うと俺はドアの鍵をあける。
ガチャ・・・
鍵の重い音が部屋に響く。ドアが開く。
「きゃ!!」
「おわ!!」
ドアを開けると少女がいきなり倒れかけてくる。
・・・な、なんだ?
心の中でそう思いながら少女を立たせる。
髪は肩に少しがかかるような感じだ。色は黒、姿は忍者のような格好。というか忍者だ。
忍服は赤、肩のあたりが出ている。瞳は黒、日本人という感じだ。
職業は双剣士、腰の後ろに剣が二本、交差している。年は15、6才に見える。
「あっ、すいません」
少女は顔を上げる。かわいらしい顔だ。
「どうもすいません」
後ろには1人の重剣士が立っている。装束は白、服装は白で固めている。腰には日本刀を下げている。
目は細く、瞳は見えるか見えないか微妙。現実なら見えないと言うぐらいの薄目だがゲームにはそんなことは関係ない。
髪は黒で耳を隠すぐらいの長さだ。オールバックのような髪型で2、3本、固まって髪が前に垂れている。
「う〜見つかった・・・」
少女は残念そうに顔を垂れている。
「ドアに耳を当てていたら見つかるでしょう」
シンが少女に苦笑いを浮かべながら言う。
「その娘・・・だれ?」
俺がシンに少女は誰かと聞く。
「あ、私の娘ですよ」
「娘!!」
シンに娘がいたとは・・・
「私も聞きたいですね。その娘は誰ですか?」
シンがいつの間にか俺の後ろにいるソフィアを指さす。
「あっ・・・」
ソフィアはそうつぶやくと俺の後ろに隠れた。
「なんか、人見知りが激しいみたいですね」
そう言うとシンはニコッと笑う。
「えと、あの・・・」
忍者服の少女は気まずそうにシンを見る。
「あ、そうですね。それじゃ・・・私の娘から」
「あっ、やまな・・・ユキです。よろしく♪」
そう言うとユキは手を差し出してきた。『やまな・・・』の部分はおそらく本名を言いそうになったんだろう。こいつも初心者だ。
「あ〜、よろしく」
そう言うと俺はユキの手を握り返した。
「ねぇ、君・・・だれ?」
そう言うとユキは俺の後ろで隠れているソフィアに手を差し出した。
「あ、こいつは・・・」
「あっ・・・ソフィアです・・・」
俺が紹介しようとするとソフィアは自分から挨拶した。
「よろしく、ユキです。仲良くしようね♪」
そう言うとユキはソフィアに手を差し出した。
「あ・・・よろしく」
そう言うとソフィアはユキの手を握り返した。
「あらら・・・すぐに仲良くなっちゃいましたね」
そう言うとシンは楽しそうに笑みを浮かべた。