第23章 時計台

 夜になった。ここは、試作段階で放棄されたルート・タウンが集まった場所だ。
なんだか、落ちる気もせず外で夜空を眺めている。ほかの奴等もそうらしい。
落ちずPCをベットに横にさせるとAFKの状態にしている。ソフィアとユキはまだしゃべり込んでいるようだが・・・
 「ふむ、今夜は冷えますな・・・」
 いきなり後ろから声をかけられる。
 「ん?」
 後ろを振り向くと先ほどの老人、クロカスがカップを2つ持っている。
 「そうだな・・・こんな日は冷えそうだ・・・」
 夜空が怖いほどキレイに見える。
 「ソフィアから話は聞いたよ・・・<碧衣の騎士団>から救ってくれたそうだじゃな・・・」
 「ん、まあな・・・」
 俺がそう言うとクロカスは俺に向かって一礼する。
 「ど、どうしたんだ?」
 いきなりクロカスが礼をするとは・・・先ほどの印象とは全然違う。
 「ありがとう、と・・・そう言う事じゃ・・・」
 顔を上げるとまじめな顔になるとソフィアのことについて話し始めた。
 「あの子、ソフィアはな・・・元々PCじゃ・・・」
 「PC?本人は放浪AIだって・・・」
 俺が聞き返す。
 「まず、なぜそうなったかを話そう。彼女の話からすると彼女はある呪紋使いにあったと言っていた・・・」
 「呪紋使い?」
 呪紋使いとこの事がなにが関係するのだろうか・・・
 「その呪紋使いの名は・・・司と言ったかな・・・一時期BBSで話題になったから興味本位で近づいたら、データドレインされたそうじゃ・・・」
 「データ・・・ドレイン・・・?」
 データドレイン・・・初めて聞く単語だ。
 「主な能力はモンスターデータの改竄・・・それがデータドレインじゃ・・・」
 「それとPCとAIとなにか関係が?」
 データが改竄されるのならキャラのデザインが変わるなどの事だろう・・・が、その考えが甘いと言うことが次の言葉で思い知らされる。
 「それぞれ、データドレインされた人には共通点があってな・・・おぬし達の世界、つまりPCの本体が意識不明になるそうじゃ」
 なるほど・・・あれからケニーと連絡が取れないのもうなずける。と、いうことはケニーの本体は意識不明と言うことか・・・
 「そうじゃな・・・彼女はデータドレインされる前の記憶があやふやじゃそうだ・・・さらに、データドレインされた人物の中に放浪AIとなる人がいるそうじゃ。その中の1人が・・・」
 「ソフィアか・・・」
 なんとなく頭の中で納得した。
 「そうじゃな・・・お主の剣、それじゃな・・・」
 「ん?」
 俺は鞘に収まっている剣を抜くとクロカスに見せる。
 「それにもデータドレインと同じ能力がある。ちと見せてくれるかな?」
 クロカスに『デュランダル』を手渡す。
 「ふむ・・・ゲートハッキングは無いようじゃな・・・」
 「ゲートハッキング?」
 「プロテクトされたエリアに入れるスキルのことじゃ・・・CC社のプロテクトはもちろん。
管理者さえも入れぬエリアにも入れる優れ物のスキルじゃ」
 そんなスキルを移植作業の時に入れた覚えが無い・・・と言うことは
ハロルドボックス・・・だったか・・・CC社内ではそのような呼び方がされていた。その中に入っていたものだろうか・・・
 「どうした?ほれ、お主の武器じゃ重宝せいよ」
 「あ、ああ・・・」
 そう言うと『デュランダル』を受け取る。
 「それにしても・・・あんたよく知ってんな・・・」
 俺がそこまで言うと街のどこかで爆発音がなる。
 「な、なんだ?」
 奥の時計台があるところで爆煙が昇っている。
 「お主は先に行っておれ!!わしは他の奴らを起こしてくる!!」
 クロカスはそう言うと家の中に入っていった。
 家の中を覗く。ユキがジャンプしている。パソコンの前からプレイヤーが離れたときにPCがする動作だ。ユキはジャンプしながら
 「ちょっとお父さん!!起きてよ!!起きろー!!」
 その後にPCを通してのゴスと言う鈍い音。
 それだけ見ると俺は時計台の方に向かって走っていった。 

     第24章 騎士団

 レンガで出来た家々が見える。時間があればゆっくりと見ていたいが、それらを無視して時計台に向かっていく。
レンガの道を抜けるとちょっとした広場にでる。おそらく、ここはマク・アヌに使う予定だったのだろう。
広場の中心には円形の紋章がある。ないのはカオスゲートだけだ。
その中心から放浪AIが飛ばされてくる。俺の目の前で体が黒くなると消えていく。
 「こ、こいつら!!」
 目の前には数人の騎士、間違い無く<碧衣の騎士団>だ。
 「ん?お前・・・なぜ、ここにいる!?ここにはPCがいないはずだぞ!!」
 「お前らこそなぜ、ここにいる?」
 「それは私が連れてきたからですよ」
 数人の騎士に囲まれた1人の騎士が前に出てくる。
 「お、おまえは・・・斬審」
 俺の目の前に現れたのは紛れも無くマク・アヌで戦った斬審だ。
 「名前を覚えてくれて光栄ですよ・・・健司さん・・・いや剣士のリオンさん」
 剣士のところを強調して言う。
 「お前らの目的は・・・放浪AIを一挙に削除することか?」
 「私の仕事はそうですからね・・・」
 案の定・・・やはり削除を前提にした作戦だ
 「それにしても・・・やっと見つけた放浪AIの巣に居たのがあなたとは・・・削除しないわけには行きませんねぇ・・・」
 口元にニヤリと笑みを浮かべる。
 「悪趣味な・・・」
 時計台の上から声がする。
 「ん?」
 斬審が時計台の上を見る。
 「放浪AIですか?」
 「せっかくの夜だ・・・少しは静かにしてもらいたいがな・・・」
 月の光が逆光になってどうゆうデザインなのかわからない。
 「おい、お前・・・」
 斬審が1人の騎士を呼ぶ。
 「は、はい。分隊長殿なんですか?」
 「時計台の放浪AIを削除しなさい」
 斬審は部下に命令する。
 「はっ!!」
 そう言うと部下らしき騎士は敬礼をすると時計台の上にジャンプしていった。
 「おい!!まて・・・」
 俺が騎士のあとを追いかけようとすると斬審が俺の前に踊り出る。
 「あなたの相手は私ですよ」
 そう言うと斬審は武器を構えた。


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