第31章 修行

 「・・・そう。そのイメージ・・・」
 少女はそう言うと俺の腕に触った。『天剣デュランダル』から放たれている光が俺の右手に吸い込まれるように入っていく。
 「・・・これで、完成なのか?」
 「・・・わからない・・・ここは、いわばイメージの世界。私はここにしか存在できないから・・・実際に使うとどうなるかは・・・」
 『天剣デュランダル』は今や光を放つただのレアな武器になっている。
 「まぁ、ありがな・・・」
 そう言うと少女の方を見る。
 少女は髪はボブヘアであごにそろえたプラチナブロンドの髪には赤いメッシュが入っている。
丈長のゆったりしたワンピースに縁飾りのある胸もとまでのケープも真っ赤だ。年は12、13歳ごろに見える。
 「ついでにここから出れるとうれしんだけどな・・・」
 「それは・・・私じゃ無理・・・やっぱり向こう側から刺激がないと抜け出せないと思う」
 そう言うと少女は少しうつむく。
 「そうか・・・まぁ、気長にまつさ・・・ありがとな」
 「・・・そんなに長くはないのかもしれないわ・・・」
 「えっ、どう言うことだ?」
 リオンが聞き返すと少女は転送し始めていた。そして、消滅する。転送したとたんにあたりは真っ暗になる。
 「・・・結局・・・名前を聞かなかったな・・・」
 リオンの声が闇の中でこだました。


     第32章 紫島

 「よく来たな・・・」
 シルフィス達が祭壇に近づくとどこからともなく声がする。
 「えっ!?なになに?」
 ユキが辺りを見渡す
 祭壇の前に1人の男が出現する。
 体には鎧をつけている。色は赤、目は青く髪は金、髪は肩に数本かかっているような感じだ。背中には槍が背負われている。
 「・・・さて、君達は何の用で来ているのかな?」
 「とぼけてもらってはこまりますね・・・リオンを返してもらいましょうか・・・紫島・・・」
 シンが刀の鍔を切りながら前に出る。
 「リオン・・・あの男か・・・あいつを取り戻しに来たと言うことか・・・」
 「そうなるな・・・」
 シルフィスも前に出る。
 「それにしても・・・すごいメンバーじゃないか!!初心者が1人に放浪AIが2人、
預言者が1人に<聖獣騎士団>の四聖獣が1人・・・アンバランスなパーティじゃないか!!」
 シンに紫島と呼ばれた男は不適な笑みを浮かべている。
 「<聖獣騎士団>・・・?」
 ユキがシンの方に向いて質問する。
 「昔・・・<紅衣の騎士団>というグループがあった・・・奴らは厳しい取締りをし、多くのPCを削除していった・・・当然PCの中から不満がもれる。そんな中で<紅衣の騎士団>に対抗しようと作られたのが<聖獣騎士団>です」
 「・・・それで?」
 ユキが先をうながす。
 だが、答えたのはシンではなく紫島だった。
 「その目的は理不尽な理由で削除されたPCの復元。そのために優秀なエンジニアが必要だ。それはリーダーと同じだった・・・そこに、1人の男が現れた。」
 紫島がそこまで言うと次はシルフィスが話を続けた。
 「元、CC社の社員で移植作業にもたづさわった男・・・リオンだ・・・」
 「リオンさんってそんなにすごい人だったの!?」
 ユキが驚きの声を上げる。
 「そうですね・・・結局は数人のPCを復元しただけで終わりましたから・・・」
 シンが昔を思い出したように言った。
 「当時、俺とシン、ケニーにリーダーのリオンを長とし約20名で構成されていた。
しかし彼は実際に<ザ・ワールド>をアクセスせずにPCの復元をしていた・・・
だが、結成してまもなく・・・<紅衣の騎士団>は長の昴の宣言によって解体した」
 「ふ〜ん・・・お父さんにもそんな時期があったんだ・・・」
 ユキが感心する。
 「さて・・・おしゃべりはここまでで良いだろう・・・」
 そう言うと紫島は背中の槍を引き抜く、そして構える。
 「だが、俺1人ではいささか不利か・・・援軍を呼ぶか・・・」
 そう言うと紫島指を鳴らす。
 それと共に祭壇に鉄アレイ型のモンスターが出てくる。
 鉄アレイ型のモンスターの膨らんだ両端の部分にリオンとケニーが閉じ込められている。
2人とも膝を折り、膝を抱え込むようにしている。
 「リオンさん!!」
 「ケニー・・・!!」
 ソフィアとシンが同時に声を上げる。
 「ふふふ・・・実際にリオンでもソフィアでもつれてくるのは良かったのだよ・・・」 紫島は口元に笑みを浮かべる。
 「腕輪がほしいのか・・・?無理だな・・・腕輪は渡すことが出来ない・・・」
 シルフィスが確信をついたように言う。
 「そんなことは知っている・・・俺がほしかったのは腕輪と接触があった者のログ・・・」
 紫島は口元に笑みを浮かべている。
 「自分で作るつもりか!!」
 シルフィスは顔に驚きの表情を浮かべている。
 「ログがあったんだ・・・あとは基礎をもらうだけだ・・・」
 「基礎をもらう・・・?」
 シルフィスは額に手をやると考え始める。
 「8相じゃな・・・」
 後ろからクロカスの声がする。
 「あたりだ!!放浪AIのじじい・・・今までカイトに倒された8相の残留データから腕輪を復元・・・
実に大変だったよ・・・後ろの奴は先日捕らえてデータを書き換えて俺の僕にした・・・そして、完成したのがこれだ!!」
 そう言うと紫島は右手を挙げる。そこにはわずかに光を放つ腕輪がある。
 「じゃべりすぎたな・・・俺の悪い癖だ・・・」
 そう言うと紫島は右手をソフィアに向ける。
 「無論・・・威力もかわらんさ・・・」
 そう言うと腕輪が変形する。
 「あ・・・」
 ソフィアはあとずさる。
 「試してみるのも悪くない・・・」
 紫島は口元に笑みを浮かべる。
 腕輪が発動する。ソフィアをターゲットにデータドレインが発動する。
 バシュ
 データドレインが目標に命中した音がする。
 ソフィアは目をゆっくりと目を開ける。
 「・・・なんともない?」
 ソフィアの前には大きな影がある。
 「・・・クロカスさん・・・!!」
 ソフィアはクロカスに歩みよる。
 「ぬぅ・・・」
 クロカスはうずくまると胸をおさえる。そしてゆっくりとクロカスは斧を掲げると鉄アレイに投げつける。
 バシュ
 鉄アレイに斧が直撃する。そこまでするとクロカスは力尽き、ソフィアの腕に倒れかける。
 「クロカスさん・・・」
 「・・・ソフィア・・・」
 クロカスは震える手でソフィアの頬に手を伸ばす。
 「お主がわし達と共に暮らした時間・・・楽しかったぞ・・・せめて・・・お前だけでも・・・」
 そう言うとクロカスは光の粒子に包まれて消えた。
 「おじいちゃん!!」
 そう言うとソフィアはうずくまると泣き始めた。
 「放浪AIが放浪AIをかばうか・・・なんとも惨めだな・・・」
 紫島はいまだに口元に笑みを浮かべている。
 祭壇で宙に浮いている鉄アレイは消滅していく。その後にドサッと言う音ともに2人が地面に倒れる。
 「効果は・・・少し薄いな・・・効果が現れるまでに時間がかかるか・・・」
 紫島は口元に笑みを浮かべる。
 「さて・・・放浪AIの後始末でもするか・・・」
 そう言うと紫島はゆっくりとソフィアに向かって歩いてく。
 その前にシンが紫島の前に進み出る。
 「これ以上はやらせませんよ・・・」
 そう言うとシンは刀を引き抜く。
 「じゃまだよ・・・あんたは・・・いつもいつも・・・」
 そう言うと紫島は横なぎに槍を振るう。だが、そこにはシンの姿はない。
 「これまでの時間・・・強くなったのはあなただけではないですよ!!」
 シンは上から真っ二つにしようと上から切りかかる。紫島は右手を上に掲げる。
 「よけろ!!」
 シルフィスが声を上げる。
 だが、普通なら間に合わない。
 「くっ・・・!!」
 苦し紛れにシンはデータドレインを刀で受け止める。それと、共に弾き飛ばされる。
 「さすがに、良い反射神経してるな・・・だが、その刀は使い物にならんな」
 「・・・お父さん!!」
 ユキが心配そうにシンの元に駆け寄る。
 シンの手に握られているのは刀ではなく今やグニャリンだ。刀だった物は今やピョピョンとうごめいている。
 「だから、じゃまだと言ったんだよ・・・」
 そう言うと紫島は右手をシンに向ける。
 「これで終わりだ!!」
 そう言うと腕輪を発動する。
 「させるか!!」
 そう叫ぶとシルフィスが右手から紫島に切りかかる。
 ギン
 だが、短く持った槍に阻まれてダメージは与えられない。
 「あんたも邪魔だな・・・」
 そう言うと発動中の右腕をシルフィスに向ける。
 「くっ!!」
 シルフィスは左手を紫島に向ける。すると、呪文が発動する。
 多くの雷球が紫島に収束する。
 紫島は剣を槍ではじき、距離を取る。雷球は誰も居ない空間で収束し、消える。
 「メライクルズ・・・モーションが無かったところから魔法剣士か・・・」
 「ご明察!!」
 そう言うとシルフィスは一気に間合いを詰める。
 「不用意に近づき過ぎだ!!」
 そう言うと紫島は腕輪を発動する。
 「くっ!!」
 急激にブレーキを掛けるシルフィス。
 バスッ
 だが、見事に武器がヒットした音が聞こえる。
 シルフィスの胸に槍が刺さっている。
 「データドレインに気を使いすぎだ・・・」
 そう言うと槍を一気に引き抜く。
 バシュ・・・
 シルフィスは膝を折る。
 「おわりだな・・・」
 そう言うと紫島は腕輪を発動する。
 「ぐ・・・」
 シルフィスは傷口を押さえる。アイテムを使おうとするが間に合わない。腕輪のグラフィックはシルフィスに伸びていく。
 ガン
 だが、次に聞こえたのはシルフィスの断末魔の叫びではなくデータドレインがはじかれた音だ。
 「なに!?」
 紫島は後ろを振り向く。そこには頭を垂れたまま立ちあがろうとして中腰になっているリオン達の姿があった。
 「夢を見ていた気がする・・・暗闇でリオンと話した」
 「・・・ああ」
 立ちあがりながらケニーの言葉にリオンは答える。
 「その中で少女と話した・・・」
 「そのとおりだ」
 2人ともすでにまっすぐ立っている。
 「その少女からスキルの使い方を教えてもらった・・・」
 「奇遇だな・・・俺も同じ夢を見た!!」
 2人同時に頭を上げた。


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