最終章 決戦
 
 右手から繰り出した剣は槍で止められる。紫島は右手の腕輪を発動する。だが、はじかれる。
 「くっ・・・どういうことだ・・・?」
 紫島は驚いた様子だ。
 「いそげ、ケニー!!」
 「わかってる!!」
 そう言うとケニーはシルフィスの元に向かう。
 「『カラドボルグ』を!!」
 「あ・・・ああ」
 ケニーは何やら急いでるようだ。シルフィスが差し出した『カラドボルグ』をひったくるように取ると剣を額に当てて目をつぶる。
 「よし、いける。シン!!嬢ちゃん!!えと・・シルフィス!!俺の周りに集まってくれ!!」
 ケニーは急いで名前を呼ぶ。シルフィスの名前は『カラドボルグ』を受け取ったときに確認したようだ。
 ケニーの周りに3人が集まる。だが、ソフィアは入ろうとしない。
 「あんたは入れない理由はわかるよな?」
 そう言うとケニーはまっすぐソフィアを見る。
 少しの間黙っていた・・・ソフィアはコクンとうなづく。
 「なんでよ!!ソフィアも行こう!!一緒に行こう!!」
 「わがまま言ってはいけませんよ・・・」
 シンがユキの頭の上に手を乗せる。
 「だって・・・!!」
 ユキが更に何かを言おうとする。
 「あなたがそこまで急ぐとは・・・なにか、あるんですね?」
 シンはケニーのほうを見る。
 「・・・ああ」
 それだけ言うとケニーは剣を引き抜く。
 「いいか!!ルート・タウンについたらすぐにログアウトしろ!!」
 そう言うと剣を地面に突き刺す。 
 そこに、あるはずのないカオスゲートが現れると3人は転送消滅する。
 ドガッ
 紫島は弾き飛ばされて壁に大きな穴を開ける。
 「リオン・・・」
 ソフィアがリオンに駆け寄る。
 「心配かけたな・・・」
 そう言うとリオンはソフィアに向き直る。
 「うん。とっても心配した・・・」
 「ははは・・・」
 リオンは苦笑いを浮かべる。
 「くっ・・・俺の前で立ち話とは・・・余裕だな!!」
 そう言うと紫島は腕輪を発動する。グラフィックがリオンに向かって伸びてくる。
 ガン
 リオンは紫島を見ずに剣のみでデータドレインをはじく。それと入れ替わりにケニーが紫島に向かって走って行く。
 「ちっ、またか!!」
 そう言うと紫島は槍を持ってケニーに突進を始めた。
 「こっちは任せろ!!さっさと話を済ませろ!!」
 「ああ・・・悪いな・・」
 リオンがそう答えると
 「謝る時間があるなら一言でも多く彼女としゃべる!!」
 そう言うとケニーは紫島の剣を受け止める。
 「あの・・・私!!」
 ソフィアがそこまで言うと体が光の粒子に包まれていく。
 「あ・・・」
 いつのまにかケニーも光に包まれつつある。
 「そうだな・・・大体気持ちはわかるよ・・・この戦いがさ・・・全部終わったらみんなでクリスマスパーティ、やろうな!!」
 リオンはそう言うとソフィアの肩に左手を置く。
 「うん・・・」
 ソフィアはリオンの手に頬を当てて目をつぶる。
 「さて・・・時間だ・・・アウラが俺等を呼んでいる・・・」
 「ああ・・・」
 そう言うとリオンは紫島の方を向く。
 ケニーは紫島の剣をとめながら光の粒子に包まれいく。
 「がんばれよ・・・」
 そう言うと紫島とケニーの戦いに割り込む。そのとたんケニーの体が粒子になって消えていく。
 「お前もがんばれよ・・・」
 消える瞬間・・・ケニーは手を握ると親指を立てる。そして粒子となって消えた。
 「約束だよ!!クリスマスパーティ!!」
 ソフィアはそう言うと消えていった。
 「ああ・・・約束だ・・・」
 リオンが寂しそうに呟く。
 「まったく・・・わからんな・・・データドレインがはじかれたと思ったらいきなり青春ドラマみたいなことを演じ・・・
そして、唐突に消えるとはな・・・」
 リオンよりも少し離れたところに紫島は目の前のことが信じられないようだ。額に手を当てている。
 「お前には関係ない・・・」
 「そんなこと言わずに教えてほしいですね・・・」
 そう言うと紫島は槍を背中に背負う。
 「・・・いいだろう。俺とケニーのはプロトタイプの腕輪、お前の腕輪は8相のクズデータの集まり、
どれもアウラ自身が作った完璧な腕輪ではない・・・俺の腕輪は主な能力がデータドレインに関係する物の無効化、
ケニーのはゲートハッキグと小型のカオスゲートお前のはデータドレインのクズデータの集まり・・・
能力はデータドレインの大雑把な物・・・」
 「クズデータの集まりとはひどいな・・・」
 紫島は片方の眉毛を上げて腕を組む。
 「本当のことだ・・・そして、腕輪が使えなくなった理由は・・・」
 「・・・理由は?」
 紫島が先をせかす。
 「表裏一体のクビアが倒されたこと・・・いや、今やあいつのHPは無限だ。カイトが腕輪を破壊した。
それと連動して俺等の腕輪が能力を失っていく。
無論、本体であるクビアとカイトには激痛が走っただろうが・・・ゆえに俺等の腕輪はすでに能力は失われている・・・よかったな。
模造品だから激痛が走らなくて・・・」
 紫島にここまで話すと紫島は槍を取り出す。
 「・・・なるほど、良く知っていたな。それも、夢の中の少女から教えてもらったことか?」
 「・・・そうだ」
 リオンは紫島の質問に答える。
 「・・・まったく、あなたはお人よしだと言うか・・・昔からそうだ・・・何のためにここまで話すのか・・・」
 「・・・お人よしついでにもうひとつ教えてやるさ・・・」
 そこまで言うとリオンは口元に笑みを浮かべる。
 「・・・時間稼ぎさ!!」
 そう言うとダンジョンのいたる所にデータドレインのグラフィックが飛び出てくる。
 「な、なんだ!!」
 紫島は驚いた様子で辺りを見まわす。
 「・・・ここで、終わりにしよう・・・この<ザ・ワールド>は元に戻る!!お前が望むことは実現しない!!」
 「私が望むこと・・・?くっくっくっく・・・たしかに俺の腕輪の力による<聖獣騎士団>の再結成と
<ザ・ワールド>の占領は無理だな・・・」
 紫島は大きく1歩に出ると間合いをつめようと一気にリオンに向かって突進する。
 「だが!!ここで、お前を倒せば俺の名声を上げる事が出来る!!
そうすれば<聖獣騎士団>の再結成は時間をかければ可能!!あとは新たな事件が起きるまで待てば良いこと!!」
 紫島は叫ぶ。
 「ここで、すべての因果の鎖は断ち切る!!もう、<聖獣騎士団>は必要ない!!」
 そう言うとリオンも一気に駆け出す。
 互いにい一気に間合いをつめる。互いに武器の射程距離に入ったところ、2人とも後ろに飛びずさる。
それと同時にそのまま行けば2人が刃を交えただろう場所にデータドレインのグラフィックが数本、地面に突き刺さる。
 「この、ドレインハートは!!」
 「俺達も標的にしている!?」
 互いに叫ぶ。
 そのまま円を書くように互いに横に走る。彼等を追ってドレインハート追ってくる。
 一気に両者はジャンプすると空中で半回転すると刃を振るう。刃がぶつかり合い、火花が散る。
空中で刃を数回交えた後、互いに刃をはじき幅を取る。彼等を追ってきたドレインハートが空中でクロスする。
リオンは空中で回転して着地するとそのまま横に飛ぶ。すぐにリオンがいた場所にドレインハートが突き刺さる。
紫島は着地すると一気にリオンに向かって間合いを詰める。紫島がいた場所にも数本ドレインハートが突き刺さる。
紫島はジグザグに走りながらリオンに向かって間合いを詰める。曲がったいたる場所にドレインハートが突き刺さっている。
 「もらった!!」
 紫島はジャンプすると一気に上からリオンに切りかかる。
 「あまい!!」
 リオンは刃を剣で受け止めるとそのまま巴投げのように紫島を投げ飛ばす。そのままリオンは横に転がる。
その後にリオンが居た場所に数本のドレインハートが突き刺さる。
リオンは立ちあがると、そのまま空中で姿勢を整えようとしている紫島との間合いを詰める。
 「くらえ!!」
 そのままリオンは横なぎに剣を放つ。それを空中で紫島は受け止める。だが、空中ではふんばれなくそのまま吹っ飛ぶ。
 「くっ!!」
 そのまま紫島は祭壇の奥の壁にめり込む。
 リオンは紫島に向かって間合いをつめようとするが、ダンジョンの中をドレインハートが突き刺さるのでジグザグに走る。
走り抜けると周りでドレインハートが数本地面に突き刺せる。そのまま一気に紫島に向かって走る。
だが、5歩前ぐらい前にドレインハートが下降してこちらに向かってくる。
 「ちっ!!」
 リオンは舌打ちするとジャンプする。足の下でドレインハートが通過していく。
 「これで終わりだ!!」
 そう叫ぶとリオンは空中で半回転し紫島に剣を突き刺す。
 ブシュ
 剣が紫島にヒットする。
 「ぐは!!」
 紫島は口から血を吐こうとする。だが、血は出てこない。
 それを好機と見たか数本のドレインハートが紫島に突き刺さる。
 「ぐはぁぁぁ!!・・・まさか、俺がこんなところで俺が・・・」
 そう言うと紫島は消滅する。
 「・・・終わったな・・・」
 リオンは剣を一振りすると鞘に収める。
 空中でドレインハートが数本収束したと思うとリオンに突進してくる。
 「・・・終わったんだ・・・後はカイト達に任せても大丈夫だな・・・」
 そう呟くとリオンは目をつぶると体を楽にしたようにドレインハートを受け入れようとする。
 パシュウ・・・
 だが、リオンの気持ちとは裏腹にドレインハートはリオンの額、数センチの所で消滅する。
 「・・・ん?」
 リオンはゆっくりと目を開ける。ダンジョンは正常な<ザ・ワールド>に戻っている。
 「・・・」
 リオンはそこまで確認した後、頭をポリポリとかくと転送消滅した。

     エピローグ

 「お〜、遅かったな!!」
 そう言うとケニーはドアを開けてリオンを向かい入れる。
 「まあ・・・な。CC社に頼まれた仕事をメールで送ってたら時間がかかって・・・」
 「あっ!!リオンさん!!」
 中からユキの声がする。
 「きましたか?」
 シンの声もする。
 「まぁ、中に入れよ・・・話はそれからすれば・・・」
 ドガッ
 何かがぶつかる音がする。ケニーの首の上に何かが乗っている。
 「ねぇ、ケニー。ジュースないの?ジュース!!・・・私は未成年者なんだから『尊酒シーマ』は飲めないんだよ!!」
 ケニーの上にはユキがのっかて、頭を叩いている。
 「ゲームなんだから飲んでも大丈夫だろうが!!」
 そう言うとケニーはユキを部屋の中に押し入れる。
 「さっさと入ったほうが良いぞ・・・乱闘がはじま・・・」
 ゴスッ
 ケニーが大きく仰け反る。後ろではユキがドロップキックをいれた後だろう、後ろで倒れている。
 「お・ま・え・なぁ〜・・・」
 ケニーが剣を抜く。
 「あ〜、ケニーが剣を抜いたよ!!逃げろ〜」
 ユキが部屋の中を走って行く。
 「・・・とりあえず、中に入れよ・・・何か、起こる前に・・・」
 「あ、ああ・・・」
 リオンは口元に微笑を浮かべている。もちろんケニーには見られないようにだ。
 「どうも、クリスマスおめでとうございます・・・」
 そう言うとシンはリオンに『尊酒シーマ』を渡す。
 「お、どうも・・・」
 そう言うとリオンは『尊酒シーマ』を受け取る。
 そのまま、近くのソファーに腰掛ける。
 「そういえば・・・ソフィアとシルフィスは?あと、アルビレオは?」
 リオンが辺りを見まわしながら言うと
 「ソフィアさんからは連絡がありませんね。シルフィスさんはCC社にメスを入れるそうでその準備に忙しいそうです。
アルビレオはメンテや記者会見に出るそうです」
 シンがそう答えるとリオンは『尊酒シーマ』を口元に運ぶ。
 「ねぇ、リオンさん〜なんかジュース持ってない?」
 ユキが標的をリオンに選んできた。
 「あ、ああ・・・ジュースか・・・これしかないが・・・ほい」
 そう言うとリオンはユキにアイテムを渡した。
 「あ!!なになに♪」
 ユキは楽しそうにアイテム欄をみる。
 「これって『気付けソーダ』じゃん!!それと、これ何?『危険な缶コーヒー』って、飲むの怖いじゃん!!」
 「まぁ、確かに一理あるな」
 「・・・あるな」
 シンとケニー納得したよう賛同の声を上げる。
 「まぁ、な・・・予想してたけどな・・」
 そう言うとリオンは立ちあがる。
 「ん、どこか行くのか?来たばかりなのに・・・」
 ケニーがどうしたんだ?と言う感じでリオンの顔をケニーが見る。
 「ん、まあな・・・少し外に出て、風にあたってくるよ・・」
 「あ、ああ。プレイヤーキラーに出くわすなよ。クリスマスにPKされたら洒落にならないからな・・・」
 ケニーはそう言うと口に『尊酒シーマ』を含む。
 「すぐに戻ってくるからな・・・」
 そう言うとリオンはホームから出て行った。
 ドアを閉める瞬間、中から声が聞こえる。
 「あっ、そうだ!!アイテム屋で・・・ぐむ」 
 中からユキの声が聞こえるが途中で途切れる。どうやら、シンかケニーが気を利かしてくれたようだ。
 外に出ると冷たい風が心地よく頬にあたる。
 目の前にはソフィアが立っている。
 「ははは・・・やぁ」
 ソフィアは少し照れたように片手を挙げて挨拶した。
 「・・・よぉ」
 そう言うとリオンはソフィアの前まで歩を進める。
 「・・・橋まで歩くか?」
 「うん♪」
 ソフィアはうれしそうにうなづくと橋のほうの歩いていく。
 「ん、どうしたの?はやく行こう♪」
 そう言うとソフィアはリオンの手を握ると引っ張って行く。
 「いてて・・・わ〜たって引っ張るなよ」
 リオンは手を引っ張られながらソフィアと橋の方に向かって行く。
 橋の上につくとそこには数10人のPCが居るだけだった。
 リオンとソフィアは橋の中央の手すりに腕を乗せるとクリスマス限定アイテムの
『クリスマスおめでとう』のジュースが入ったコップを口に運んだ。
 「わたしね・・・今日、牧野病院から退院しましたぁ〜♪」
 そう言うとソフィアは横に居るリオンに笑いかけた。
 「・・・牧野病院・・・?じゃあそんなに離れてるってわけじゃないんだな」
 リオンは少し考えた後、思い出したように言う。
 「とにかく、退院おめでとう」
 そう言うとリオンはソフィアのコップに自分のコップをカンと当てる。
 「うん、ありがとう♪」
 ソフィアはまたにっこり笑う。
 そよ風がソフィアの髪を揺らす。
 いきなり、PCの中から声が上がる。
 「わぁ〜、見て見て♪きれいだよ〜」
 ソフィアが声を上げる。
 「ん?」
 そう言うと橋から河を眺めて行き、夜空を見る。
 そこには黄色の光が上がると花形の花火が上がる。
 「きれいだね〜♪」
 ソフィアは感動したように花火に見入っている。
 「あ〜、こんなとこに居た!!」
 後ろからユキの声がする。
 「あ、ユキ!!」
 ソフィアはユキに歩み寄ると2人で話し込み始めた。
 「え〜ソフィアって20歳いってるの!!」
 「そう、意識が戻ったらびっくりしちゃったぁ。意識不明中に誕生日迎えてるんだもん♪」
 ソフィアとユキは2人で談笑しあっている。
 リオンはソフィア達から花火に目を戻す。そこにはゲームならではの整った形の花火が打ち上げられている。
 ここには、正常な<ザ・ワールド>がある。放浪AIになるPCも居ない。
ここでみんなで楽しく<ザ・ワールド>がプレイできる日々が再びやってくる。
 ・・・これからも・・・ずっと・・・

     完

     ※この物語は現時点で原作とは違いがないように設定はしましたが、
これからの話によっては変わることがある事があるかもしれませんが、あしからず。ご愛読、ありがとうございました。m(‐‐)m

    2003年 4月21日


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