第7章 副官

青山墓地につくと係りの人に上野英三郎の墓があるところを聞く。
「上野英三郎博士のお墓ですね?あちらです」
そう言うと係員は案内図を出して場所を指差して教えてくれる。
上野英三郎の墓の前には1人の男が立っている。身なりはきちんとはしている。
「あんたが黒のビトか?」
話しかける。男の手には団子の串が握られている。
「こんにちは、健司さん」
「本名まで知ってるか・・・さすがは凄腕のハッカーの副官だけあるな」
俺が皮肉を込めて言う。
「まあ、立ち話も何だし・・・どうです?食事しながらでも」
そう言うと彼は『ファーストフードの女王』というファーストフード店の紙袋を見せる。


     第8章 佐藤一郎

「これ、本名か?」
俺の問いに佐藤一郎と名乗る黒のビトはどうでも良いように答える。
「名前なんてどうでも良いでしょう?どうせ記号を並べただけなんだから」
まあ、確かにどうでも良いことだが・・・
「じゃあ、その情報を聞かせてもらおうか・・・」
そう言うと食べ終わったチーズバーガーの紙を丸めて袋の中に押し込む。
「・・・1月前、<ザ・ワールド>内であるプレイヤーが意識不明になった」
「まさか・・・いまや<ザ・ワールド>は全国で約9千万人の人がプレイしてんだぞ?そのゲームで意識不明者は出ないだろう?」
「そう、約9千万人のプレイヤーがプレイしている中で数人のプレイヤーが意識不明なった。おそらくCC社はハッカーのせいにする・・・」
・・・意識不明者・・・聖堂の中で見たプレイヤーが関係しているのだろうか・・・?
「そのプレイヤーのPC名はカズ・・・場所は聖堂の中・・・」
案の定・・・やはり、聖堂の事だ。
「その事件が起きる前、異様なデータがそのエリアに流れ込んだ」
「それが、あのモンスターだと?」
俺の脳裏に大きな十字架が浮かぶ
「行く手を疾駆するはスケィス・・・碑文に出てくる8相のうちの1人・・・」
「8相ね・・・やつは倒すことが出来るのか?」
なぜか、倒したいと気持ちが沸く・・・内心怖いのではあるが・・・
「その必要は・・・無い・・・と言いますか・・・」
「どういうことだ?」
必要がない?どういうことだろう・・・
「先ほどあるプレイヤーがそのスケィスを倒した・・・」
「倒したプレイヤーを意識不明にするようなやつだぞ?」
プレイヤーを意識不明にするようなやつを倒したとは・・・いったいどんなプレイヤーだろうか・・・
「たしかに・・・ふつうの方法では奴を倒すことは出来ない・・・だが、意識不明にした能力を持っているとしたら?」
「毒をもって毒を制す・・・か」
たしかに、プレイヤーが意識不明にするスキルをもっているのは驚くことだが・・・
あれを作ったのがCC社なら対策としてそう言ったPCを派遣するのも考えられる。
「そのPCにCC社が目を付けた・・・」
「なぜだ?CC社が派遣したんじゃないのか?」
疑問に思う、CC社が派遣したのではないだろうか? 
「彼、リョースはそのPCを削除するだろう・・・いや、しようとするだろう」
「削除出来ないのか?」
「彼のPCには管理者も破れないプロテクトが施されている」
ますます疑問が増える。CC社が作ったのに削除出来ないとは・・・
「そのPCについて教えてくれないか?」
「ヘルバ様の顧客情報は教えられなくて・・・」
ハッカーに顧客・・・か
「それじゃ・・・ここで」
黒のビトこと佐藤一郎は自分の袋をゴミ箱に捨てると立ち上がる。
「もう行くのか?もっと話を聞きたかったんだが・・・」
「これで副官というのも忙しくて・・・それじゃ・・・」
そう言うと佐藤一郎はその場を離れていく。
「あっ、忘れてた。ヘルバ様からの伝言・・・β版のアイテムを使うこと・・・」
「・・・」
そこまで、わかっているとは・・・さすがは凄腕のハッカーだけの事はある。
「それだけです・・・」
佐藤一郎はそれだけ言うとそのまま青山墓地を出ていった・・・


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