第13章 異名

 『マク・アヌに来てくれ・・・』
 アルビレオから来たメールはこれだけだった。
 「それにしても・・・来てくれと言われてもな・・・」
 マク・アヌに来てもなかなか現れない。
 「遅いな・・・」
 結構時間がたっている。する事もないから街の中をブラブラする事にした。
歩いてるといつの間にか、マク・アヌの裏路地に来ていた。ここには、以前ケニーのホームがあったところだ。
 「・・・ケニー・・・」
 あれからずいぶんと時間がたっているのだが、昨日のことのように思い出す。
 「嬢ちゃん、さっさと金目の物おいてきな」
 「ん・・・?」
 路地の奥の方に眼をやる。そこには3人の男に囲まれた少女がいた。
男達はそれぞれ強面のがっちりとした体格だ。おそらく金を奪うために重複登録されたPCだろう。
囲まれている少女はどうやら呪紋使いのようだ。長髪の金髪に白いビキニ姿の呪紋使いだ。
 「そんなこと言われても私、お金もってないもん」
 少女は以外に強気だ。そんなにレベルが高いのだろうか・・・ 
 「おい、なめてんじゃねえぞ!!」
 その中で剣をもっている男が怒鳴る。剣はレベルはそんなに高くない。
35ぐらいだったろうか。レベルと同じで高い武器を手に入れるには高いエリアに行く必要がある。
ほかの男達も見ると、似たり寄ったりの武器だ。違うのは武器の種類、斧と槍だ。
 「だってないもんはないもん」
 少女のこの一言で剣をもった男は本気でキレたようだ。一気に剣をあげると、そのまま振り下ろす。
 ・・・あそこまで強気なのだから受け止めるだろう・・・
 だが、俺の予想とは違い、もろに剣が少女にヒットする。
 「あ〜HPが赤くなった〜」
 低レベルのようだ・・・
 「わかったか?さっさと渡さないと次ので殺すぞ!!」
 「え〜私まだセーブしてないんだよ・・・そんなのやだ!!」
 いまだに強気だ・・・
 「あっ!!そこの人助けて!!」
 気づかれた・・・面倒なことになる予感・・・
 「あぁ?お前、俺等とやる気か?」
 3人の男がそれぞれ武器を構える。
 「はぁ〜」
 ため息が出る。何でこんな事に・・・まあ、やるからには徹底的にやるか・・・
 「なんだぁ、お前・・・やるならかかってこいよ」
 「・・・」
 なめられている・・・それは確かだろう・・・
 俺の武器を構える。『デュランダル』を鞘から引き抜く。『デュランダル』がレア物特有のわずかな光を出す。
能力さえ使わなければふつうのレア物の剣だ。
 「それは・・・それをおいてけば見逃してやるぜ」
 斧をもった男が提案してくる。だが、そんな事は論外だ。
 「かかってこいよ・・・本当の戦い方を教えてやる」
 軽く挑発する。
 「んだと、てめぇ!!お前ら、行くぞ!!」
 重斧使いと重槍使いが俺の前に躍り出る。2人の男の目の前から姿が消えたように写っただろう。
 二人の攻撃を跳躍してかわし、そのまま剣士の前に躍り出る。
 ・・・横に一閃・・・
 運がいいことに『クリティカル』が出る。
 「なっ・・・」
 剣士の体が黒くなると光の粒子になって消える。そのまま半透明になる。
 この半透明になるのはPCが死んだときに起こる現象だ。これを<ザ・ワールド>では『おばけ』と言う。
 「てめぇ・・・汚いぞ!!」
 「なにが汚いか・・・2対1は汚くはないのか?」
 「くっ・・・」
 俺の返し言葉に男は黙る。
 「じゃあ、続けようか・・・メバククルズ!!」
 重斧使いに向けて火属性のスキルを発動する。複数の火球が男に向けて収束する。
 「ぐはぁ・・・!!」
 重斧使いは吹っ飛ぶと路地におかれていたタルにぶつかる。タルは粉々になる。
 「お・・・おい、大丈夫か!!」
 重槍使いが重斧使いの方に気を取られる。
 「他人の心配か・・・無用だな・・・そう言うのは自らが強くなってからするもんだ・・・」
 一気に重槍使いとの間合いを詰める。
 ・・・バクスラッシュ・・・
 重槍使いは水属性だったのか火属性のスキルは大ダメージを与える。
 これで、重槍使いも『おばけ』になる。
 そこに重斧使いが起きあがる。
 「火属性・・・その迅さ・・・お前・・・『炎の閃光』か・・・!?」
 「知ってるならどれだけレベルが違うかわかるな?」
 重斧使いを睨む・・・
 「死にたくなかったらこの場から立ち去れ!!次、このようなところを見たら即殺すぞ!!」
 重斧使いは返し言葉もなしにその場から立ち去る。その後を2人の『おばけ』が
追いかける。
 「おい、あんた大丈夫か?」
 後ろを振り向くと少女が安堵のため息をつく。
 「ありがとう!!キミ、名前は?」
 そう言うと手を差し出す。
 「・・・リアンだ・・・」
 ・・・初対面でタメ口か・・・マナーがなっていないと言えばそうだが・・・こういったキャラを演じているのかもしれない・・・
 俺も手を差し出して少女の手を握り返す。
 「わたし、ほくと♪」
 ほくとと名乗る少女はにっこりと笑う。
 ネットの場合自分のPCの名前はチャットウィンドウに表示されるから初対面の相手でも
『はじめまして〜』とか『どうも初めまして』程度の挨拶ですむ。
名前まで言う必要は無い。だが、この<ザ・ワールド>はリアルに近いためか名前を紹介することが多々ある。
 「ねぇ、さっきのおっさんが言ってた『炎の閃光』って?」
 「通り名だよ。それなりにレベルが上がって何かしらの功績をたてると他の人からつけられるんだ」
 「『炎の閃光』ってことは火系のスキルが使えてPCが迅いの?」
 「まあ・・・そう言うことだ・・・」
 実際、自分は通り名で呼ばれたいと思ったことはない。
ただ、レベルが上がればそれに比例して行くエリアのレベルも高くなる。
そういったエリアにはたまに無謀にも低レベルPCが挑戦していることがある。
そう言ったPCを助けていると小さな噂が立ち、通り名が付く。
このPCの場合は『炎の閃光』、あの『ザワンシン』イベントをクリアしたバルムンクとオルカは
『蒼天のバルムンク』『蒼海のオルカ』と呼ばれている。
 『ザワンシン』イベントをクリアした2人に比べれば俺などつま先にも及ばない知名度だろう。
 「ねぇ、レベルいくつ?その剣なに?結構レア物だよね?」
 ほくとの質問は止まるところが無い。
 「悪い・・・俺、人と待ち合わせしてるんだ」
 「あっ、私もやらなくちゃいけないことがあったんだ・・・じゃね♪」
 ほくとは言うことだけ言ってログアウトした。
 「なんだかな・・・」
 久しぶりに見た初心者だった。


     第14章 2nd

 結局5時間も待ったがアルビレオは現れなかった。することもなくマク・アヌの中を少し歩くことにした。
マク・アヌの橋の前につくとなにやら人だかりが出来ている。
 ・・・なんだ?
 人だかりに向かってPCを動かす。人だかりをかき分けて中心に向かって行くとちょうど橋の真ん中で開けている。
 ・・・ん?
 橋の中央には3人の重槍使いと1人のPCが居る。
 重槍使いは騎士の格好、1人の方は・・・職業はわからない・・・
 通常では設定不可能なキャラだ。わかるのは少女と言うことだけだ。
髪の毛は腰あたりまで来るだろう長髪に黒髪、耳の後ろあたりにブラウンのメッシュが入っている。
年は17、8才ぐらいだろうか・・・服装は冒険者には見えない。
町民のような格好で鎧もなにも装備していない。丈長の白いワンピースに茶色のケープだ。足は革の靴を履いている。
 「あれってなんだよ・・・?」
 「<碧衣の騎士団>だよ・・・<碧衣の騎士団>ってのは・・・不正なキャラを削除したりバグを削除したりするんだってよ」
 「それとこれと何か関係があるのかよ?」
 「・・・さぁ?」
 画面下のチャットウィンドウはトークモードになっているPCの会話が表示される。
 あいつ等が<碧衣の騎士団>だとしたら・・・少女が標的だろう・・・
 CC社の決まりで<碧衣の騎士団>の者はふつうにプレイする場合は騎士団とわからないように最善を尽くすのが決まりだ。
それが<碧衣の騎士団>と思いっきりわかるような格好で居るからには仕事だろう。
その仕事の対象が目の前の少女であるということはすぐにわかる。
 「私がなにをしたというの?」
 少女が声をあげる。
 「斬審さん・・・どうします?」
 右側の騎士が斬審という先頭の騎士に尋ねる。
 「我々は<碧衣の騎士団>だ。むろん削除する」
 これを聞くと部下らしき2人は橋の両側に向かう。
 「ここから先は<碧衣の騎士団>の仕事です。場合によっては削除スキルを発動する事があります。
その場合このNPCがスキルを交わすことがあり、あやまってPCが削除されることがあります。
その場合、当社が責任を負うことはありません」
 部下の騎士は橋から下がるようにPCにうながす。
 PC達が橋からさがっていく。橋の上には俺と騎士団、NPCだけだ。
 「そこのキミもさがっていなさい。削除された場合、当社は・・・」
 騎士が言い終わる前に騎士の横を通る。
 「キミ!!私の話を聞いていないのか?あやまって削除された場合は当社が責任を負うことは・・・」
 「してみろよ・・・」
 なんだか騎士団を見ているとイライラしてくる。
 「キミ・・・今なんと・・・?」
 「削除するならやってみろって言ってるんだよ・・・」
 斬審と名乗る騎士もNPCも俺のことを見ている。
 「おい、そこの騎士!!」
 斬審という騎士に言葉をかける。
 「なんだ・・・?」
 「こんなマク・アヌのしかも沢山のPCが居るまえで削除を試みるのは得策ではないと思う。
それに、目の前でNPCが削除されるところを見ていて気持ちの良い物ではないしな・・・そう言うことで邪魔させてもらうぞ」
 私は敵ですと意思表示する。
 「ど、どうします?」
 部下の騎士が斬審に問いかける。
 「・・・場合によっては連行してもかまわない。本人の希望だ削除してもかまわない」
 「ですが、そんな事したら上層部が黙って・・・」
 「上には放浪AIだと報告してかまわん・・・」
 CC社も落ちるところまでも落ちたかな・・・
 「話は終わったか?」
 またイライラしてくる・・・
 「<碧衣の騎士団>の仕事を行使させてもらう!!キミを連行する!!」
 「おい、あいつ『炎の閃光』じゃないのか?」
 野次馬のPCから俺の通り名が出てくる。
 「なに?『炎の閃光』かよ・・・俺等じゃ勝てないんじゃ・・・」
 騎士の1人が声をあげる。
 「斬審さん何とかしてください。斬審さんじゃなきゃ勝てませんよ」
 「どうした?かかってこないのか?」
 挑発する。
 「お前等は見習いだ。レベルもあまり高くないな・・・そこの放浪AIを見張っていろ・・・」
 「は、はい!!」
 斬審と名乗る騎士は前に出てくる。姿は銀色の鎧に銀の仮面<碧衣の騎士団>は
にたりよったりの格好だが仮面に角があるところからそれなりの位ではあるらしい。
 「<碧衣の騎士団>の名にかけてお前を排除させてもらう!!」
 「どうでもいいから・・・さっさとこいよ!!」
 俺が構える前に斬審が俺の前に躍り出る。そのまま槍の一閃が俺を襲う。
この急襲に後ろ飛びに避ける。だが、槍の一閃は俺の体に傷を付ける。
 ・・・ちっ、かすった・・・
 「上等じゃないか!!行くぞ!!」
 地面に着地するとそのまま一気に間合いを詰める。一閃を加える。
斬審は横飛びに交わすと橋の縁に捕まりそのまま手の力を使ってジャンプする。
そのまま俺に上から槍を突きで繰り出してくる。それを剣で弾き返す。
そのまま後ろに飛ぶと呪紋スキルを発動する。メバククルズが発動すると火球が斬審に向かって収束する。
 ・・・よし!!決まった!!
 確かに火球が当たったはずだ。だが、煙がはれるとそこには斬審の姿はない。
 ・・・どこに・・・
 あたりを見回すと斬審の影らしき物が見られる。
 ・・・上か!!
 上を見ると斬審が跳躍しているのがわかる。
 ・・・そこだな!!
 だが、太陽が逆光になり眩しくて斬審の姿がよく見れない。
 「くそ・・・」
 後ろに飛ぶ、これなら武器の攻撃でダメージを負うことはない。だが、これが失敗だった。
 「あまいな・・・」
 斬審のこの言葉がチャットウィンドウに表示される。
 「なに・・・?」
 斬審は武器で攻撃してくる気は最初から無かった。ジャンプ中、武器をかまえてはいなくスキルの準備をしていた。
 「メロー・クー!!」
 火属性で固めた俺には痛いダメージだ。
 その場をすぐに動こうとするが、体が思うように動かない。今のダメージで倒れてしまった。
 「おわりだ・・・<碧衣の騎士団>の仕事を邪魔するんじゃなかったな・・・最後に言い残すことは?」
 「あるな・・・負け惜しみだと思うなら思ってくれてかまわんが・・・このキャラクターは・・・2ndキャラクターだ・・・」
 俺が言い訳をすると
 「そうか・・・」
 それだけ言うと斬審は俺の2ndキャラクター、リアンにとどめをさした。


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