泌尿器科情報局 N Pro

症例002

解説

腎後性腎不全で発見された認知症の女性患者さんです。尿閉の女性患者さんでUDSにどの程度の診断的価値があるかは、あまり分かっていません。特別な注意を要する神経因性膀胱が疑われるケースを除き、当院では高齢者もしくは認知症患者さんではルーチンではUDSは行いません。若年者では長期の尿路管理が必要となる様な場合では、膀胱容量やコンプライアンス、DOAの有無を確認して、導尿時間や導尿回数を調節するので、UDSは積極的に行います。

この症例の場合には、救急ではよくあることですが、尿閉が発見されたきっかけも不明であり、またそのときの膀胱容量なども分かっていませんが、腎後性腎不全となっていたとのことです。もし入院時から排尿状態に変化がなければ、今後も適切に管理を行わないと腎後性腎不全になってしまうかもしれません。UDSまで必要かどうかは、微妙かもしれませんが、まったく無意味とも言えないと思われます。

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1. 記録状況
圧のグラフがすべて小刻みに揺れていますが、これは呼吸性の変動です。microcontractionsではありません。Pabdがすこし感度が低く、サブトラクション(Pves-Pabd)が少しずれており、Pdetに腹圧の影響が少し残っています。

2. 蓄尿期
capacity 640ml
compliance 600ml/20cmH2O=30 わずかにコンプライアンスの低下あり。 
DO なし
尿意 FDからNDと比較してNDからSDはすぐに訴えがありました。ひょっとすると多少は尿意が分かるのかもしれません。とはいえ認知症の患者さんですし、入院時には腎後性腎不全となるまで分からなかったわけですので、どこまで信用できるのか分かりません。問いかけに対しては答えられるけど、自発的には訴えられないのかもしれません。

3. 排尿期
Qmax ほんのわずかに排尿がありました。
残尿 ほとんど排尿出来ていないので大量にあります。
Pdet at Qmax 排尿筋の収縮圧をどう読むかで判断が分かれるかもしれません。Pdetのグラフだけをみると、排尿時に排尿筋収縮があって排尿があるかの様に見えますが、Pvesを見てください。Pvesが上がっているのではなく、Pabdが下がっているために、Pdetが上がっているように見えているだけです。よって、排尿筋収縮はないと判断します。
腹圧 あまり上手に腹圧をかけられていませんが、腹圧によってわずかに排尿ができています。
DU たまたま排尿できなかっただけの可能性もありますが、検査で普段と同様の排尿状態が再現されており、収縮が認められないので、DU+と判定してもよいでしょう。
BOO 女性のBOOの判定は決まった方法はありませんが、男性と同じようにノモグラムで判定するとすれば、BOO-となります。

UDSサマリー DO- DU+ BOO-

上手に腹圧をかけることが出来れば、もう少ししっかり排尿出来るのかもしれませんが、残念ながら認知症があってそれは期待できません。
尿閉解除後、1ヶ月の時点で検査が行われています。尿閉直後は膀胱が過拡張したために機能低下が起こっており、尿閉解除後は徐々に膀胱機能が回復していきます。どのぐらいの期間で安定するのかは、ケースバイケースだと思います。もう少し待てばさらに回復する可能性は完全には否定できません。尿閉となった原因がはっきりしており、それが何らかの方法で改善されている場合には、排尿状態の回復を期待できますが、回復が期待出来ない進行性の疾患のために尿閉となってしまった患者さんの場合、回復は期待出来ません。この患者さんは、尿閉の原因が分かっていませんので推測の域を出ませんが、UDSの結果から考えると、DUがもともとあった状態で腹圧排尿をしていたのかもしれません。認知症の進行によって尿意が曖昧となり、腹圧排尿ができなくなったのかもしれません。