泌尿器科情報局 N Pro

症例004

解説

知らない間に尿失禁がある高齢女性の患者さんです。

UDS(PFS)

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1. 記録状況 圧測定は良好に出来ています。サブトラクションのずれはごくわずかです。

2. 蓄尿期の所見 capacity 500以上 compliance 良好 DO 定義に従えばDOはなしと判定されますが、失禁の状況をよく見てみましょう。ストレステストを数回行い、3回目に失禁が検出されています。ただし腹圧の低下後も失禁が続いており、腹圧の上昇に応じて失禁があるというよりは、腹圧に誘発されて失禁が始まったとみるべきでしょう。その後、注水を再開してしばらくの時点で誘因無く失禁が起こっています。注水を止めていますが失禁はしばらく続きます。この時、患者さんは失禁があることに気付いていないため何も記録がされていません。失禁が起こっている間のPdetを見ると、ごくわずかながら上昇が見られます。これは、定義上はDOとは判定されませんが、病態としてはDOが起こっていると考えられます。 尿意 280mlでFDが記録されていますが、NDは記録されていません。注水が500mlはいったところで追加のボトルを使用せず、そのまま排尿を指示しています。もっと蓄尿したら尿意を感じるかどうかは分かりませんが、おそらく蓄尿される前に失禁してしまうため、これ以上蓄尿を続けても無意味だろうと思われます。尿意減弱があると考えます。

3. 排尿期の所見 Qmax 25ml/s程度 残尿量 Vmicは500mlまで上昇し注入量と同じだけ排尿があったと読めますので、残尿はありません。 Pdet at Qmax 15cmH2O程度です。 腹圧 ほとんど腹圧をかけずに排尿ができています。 DU 女性のDUの判定は現在定まったものはありませんが、Qmaxの時点で判定すると、ノモグラム上は収縮力はN-あたりになります。とはいえ、女性ですので必ずしもDUが無いとは言い切れません。排尿の終わりがけに再度排尿筋圧が上昇していますが、Quraは低いのですが、Pdetも20cmH2O程度までしか上昇していません。この時点の排尿をノモグラムに当てはめると、収縮力はVWとなります。 BOO 排尿のどの時点で判定してもノモグラムでは閉塞はないと判定されます。

失禁は腹圧と対応せず腹圧性尿失禁は除外されます。定義上はDOは無いと判定されますし、尿意切迫感もありませんが、DO様のPdet上昇に対応して失禁が発生しており、おそらくDOに応じて尿道括約筋が弛緩し失禁が起こっていると思われます。切迫感がないので、切迫性尿失禁と表現するのはおかしいかもしれませんが、排尿筋過活動による尿失禁と考えられます。 排尿筋収縮力の判定はなかなか難しい問題なのですが、排尿後半の収縮圧があまり上がらないことを考えるとDUがあると考えるべきでしょう。ただし、女性でありDUがあっても尿排出障害は来していません。DUが潜在している状態と考えるべきです。DUがある患者さんにDOが合併しているがUDSで検出されない病態は、DHICの特殊な病型であり、いわゆる不安定尿道という病態にあたるものなのかもしれません。尿意が減弱し、外陰部の感覚の低下もあって、患者さんが知らないうちに漏れている、ということが分かりました。

ノモグラム

UDSサマリ
DO+ 尿意減弱 DU+ BOO-

対応をどうすべきでしょうか。このような患者さんに対する最適な治療は教科書にもガイドラインにも書いてありません。抗コリン剤は尿意のさらなる減弱を来すため、おそらく無効だろうと考えました。実際、様々な薬物治療が前医で行われており、無効であったため、再度薬物治療を提示するのは無意味でしょう。この患者さんには、尿意を感じる前に失禁してしまうため、早め早めの排尿(Timed Voiding)をおすすめしました。検査後は前医に戻っているので、効果があったかどうかは、分かりません。また、この症例の来院した時期はまだミラベグロンが発売されていませんでしたので、ミラベグロンが効果があるかどうかについても分かりません。