泌尿器科情報局 N Pro

症例011

解説

下腹部痛があり、排尿ができないとのことで救急搬送された患者さんです。排尿ができず下腹部痛があるため尿閉と判断され、導尿後に泌尿器科受診となりました。ここで問題となるのは、本当に尿閉だったのかどうかということです。導尿量は不明です。これは救急外来ではよくあることです。しかし導尿前の腹部CTがあるので、だいたいの膀胱容量が分かります。たしかにそれなりに尿がたまっていたことは間違い無いようです。しかし、尿閉と言えるほどの貯留でしょうか。断言はできませんが、尿閉であればもっと膀胱は丸い形をしていてもよいかもしれません。  

患者さんが救急車を呼んだのは本当に尿が出なかったからでしょうか。再度患者さんに聞いた所、救急要請をしたのは下腹部痛がひどかったからであり、排便ができなかったうえに尿も出ないため、このままではどうにかなってしまうと思ったから、と言うことでした。排尿がしたかったのかどうかについては、お腹が痛くて尿意どころでは無かったとの事でした。  

CTでは、便はS状結腸にはありますが、直腸にはなく、トイレでがんばっても出そうにはありません。浣腸をして排便を待つことにしました。その結果、排便があり、同時に排尿もありました。  

ということで、この患者さんは完全な尿閉の状態では無かったのであろうと思われます。しかし、まとまった量の尿が膀胱内にたまっていたのにもかかわらず、排尿できなかった訳ですので、まったく問題が無かったというわけではありません。おそらくは、痛みが強かったために、排尿ができなかったのであろうと思われます。