泌尿器科情報局 N Pro

症例012

解説

卵巣のう腫と間違って診断された尿閉の患者さんです。前医ではMRIを撮影していましたが、残念ながら気付かれませんでした。患者さんに、手術までの間、自排尿ができたのか、それとも尿失禁があったのか聞いてみたところ、尿失禁があってパッドを当てていたとの事でした。女性の患者さんや高齢者では、尿失禁がはじまってもあまり問題に思わない事が珍しくありません。この方の場合は下腹部痛があって産婦人科に受診していますし、巨大な卵巣のう腫のために尿が出なくなりつつあると言われていた様ですので、排尿ができなくなっている事に疑問を持たなかったのでしょう。

さて、治療方針を決定するためには、病態の理解が必要です。この患者さんの尿閉の原因は何でしょう。そのものずばり、我慢のしすぎが尿閉の原因と思われます。膀胱が極度に拡張することで排尿できなくなる事があります。これを膀胱過拡張と言います。たとえば飲酒後に尿閉となる原因の一部は、膀胱過拡張が関係していると思います。とはいえ、純粋に膀胱過拡張だけで尿閉になることは少なく、多くの場合前立腺肥大症などがベースにあって尿閉が発生します。この症例では中年の女性であり、もともと何らかの下部尿路機能障害をもっていた可能性は低いと思われます。とはいえ、単なる我慢のしすぎから尿閉にまでいたることは相当まれな事と思われますので、排尿機能に影響する問題が隠れていないか、MRIを中心にチェックしています。しかし、何ら問題となる神経症状もなく、画像でも脳、腰椎に特に病変を認めませんでした。

よって、非常にまれなケースではあると思いますが、我慢しすぎによる尿閉と判断しました。とすれば、尿閉の原因はすでに解消しています。よってこのまま自己導尿で自排尿が回復するのを待つ事としました。

経過
2週間後 尿意と自排尿が出現。自排尿100 残尿150
4週間後 徐々に残尿量が減少。自排尿150 残尿50 となり導尿を離脱しました。
8週間後 自排尿200 残尿10 と問題のない排尿状態となりました。

UFM

女性としてはややQmaxは低めですが、経過を考えれば妥当と思われます。

過活動膀胱に対する治療として、膀胱訓練があげられていますが、症例によっては尿閉となる場合がまれにあります。尿意の我慢は必要なことですが、我慢のしすぎには気をつけないといけません。軽い尿意を我慢できるのを目標にした患者指導がよい様に思います。