泌尿器科情報局 N Pro

症例013

解説

UDS

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記録状況
括約筋筋電図はコードを接続していないため、途中まったく波形が出ておらず、コードが揺れたりした時だけ波形が出ています。Pves、Pabdはきれいに計測されており、サブトラクションもおおむね良好です。

蓄尿期
capacity 350ml
compliance 蓄尿によってわずかにPdetが上昇していっていますが、300ml/5cmH2O=60ml/cmH2Oと問題ない数値です。
DO 蓄尿期の終わりにFDと同時にPdetが上昇しています。そしてそのまま排尿へと移行しています。terminalDOと判断します。
尿意 FDが遅く、またFDからNDまでが非常に短くなっています。NDを訴えるころにはすでに排尿が始まりかけています。尿意減弱と排尿筋過活動が合併しています。

尿排出期
Qmax 3ml/sec
Voided Volume 60ml
PVR 285ml
PdetatQmax 83cmH2O
腹圧 途中でPabdが上昇していますが、Pvesに反応はありません。直腸の収縮と思われます。ほかは排尿開始時にわずかに腹圧に波形がありますが、わずかであり、排尿開始のために腹圧をかけたわけではないと思われます。

ノモグラム 閉塞 V 収縮力 W+

UDSサマリー DO+ DU+ BOO+

前立腺は小さいのですが、閉塞ありと判定されました。そこで、膀胱鏡を行って閉塞の原因を見てみました。

膀胱鏡(前立腺部尿道)

膀胱頚部狭窄と判断しました。

透視下でUDSを行うなどすれば自信をもって判断ができますが、この症例では膀胱頚部の閉塞は、排尿時のみに悪化していると予想されます。排尿筋の収縮は膀胱頚部も同様に起こるため、膀胱頚部の排尿筋が発達しすぎると閉塞の原因となることがあります。膀胱エコーもそういう目でみると多少膀胱頚部の排尿筋が肥厚しているように見えます。とはいえ、頚部の排尿筋の発達が閉塞の原因となるのは一部の症例に限られるため、エコーで膀胱頚部狭窄を判断するのは難しいように思います。同様に、膀胱鏡での観察でも、排尿時以外は膀胱頚部は弛緩しているためそれほど狭く見えないことがあり、見逃されることもまれではありません。

なおこの状態はDSDに近い状態です。本来の括約筋、つまり外尿道括約筋の協調不全が本来のDSDですが、この症例では膀胱頚部、つまり内尿道括約筋(internal urethral sphincter)の協調不全ですので、一部の研究者においてiDSD、DISDなどと表現したりする場合があります。

一方前立腺肥大症手術後の膀胱頚部狭窄は線維組織による狭窄で常に狭い状態となっています。

なお、排尿開始に時間がかかるという症状は、閉塞だけで排尿開始に20分もかかるとは考えにくいため、閉塞に加えて排尿筋過活動と尿意減弱も影響しているかもしれません。排尿筋過活動のために尿意を感じますが、蓄尿量が不十分だと尿意減弱のために尿意が消失してしまいます。その状態で排尿を行おうとしてもなかなか排尿が始まらないということです。

症例に戻ります。閉塞に加えDUも加わることで、尿排出障害が悪化しています。残尿が200mlを超え、症状もあり、感染も一度起こしています。手術が望ましい状況です。

手術を勧めようとしましたが、そうしているうちに乳癌が再発してしまいました。認知機能が悪化し、さらにADL低下、誤嚥、心不全症状も出現し、手術が安全に行える全身状態ではなくなってしまいました。タムスロシンを継続し経過観察としました。間欠導尿や尿道カテーテル留置も検討されますが、認知機能低下によって症状の評価ができない状態となり、また予後も限られるため、介護負担を増やすことに見合うだけの介入のメリットがありません。おそらくは感染のコントロールがつかなくなって初めて、間欠導尿または尿道カテーテル留置を検討することになると思われます。