泌尿器科情報局 N Pro

症例021-3

解説2

神経疾患を合併する前立腺肥大症の患者さんです。現在間欠導尿を行っていますが、導尿離脱を希望しています。UDSの結果をどう解釈するべきでしょう。

まずは、閉塞の有無を考えます。ノモグラムでは閉塞度はIIIに判定され微妙なところですが、この排尿をこのまま排尿と判断してよいでしょうか。微妙なところですが、私はPdetが上昇している時に重なるため、排尿として採用してよいと考えました。よって軽度の閉塞があると判断しました。同様の排尿筋収縮があれば、閉塞度がI程度まで下がれば、それなりに排尿ができるようになると思われました。

ということで、手術を行えば改善すると考えてよいでしょうか。排尿できるかどうかは別の問題ですし、もし排尿できるようになったとしても、導尿を離脱できるだけの十分な排尿ができるようになるかどうかはわかりません。UDSの際の排尿の開始は、DOに引き続いてのものです。DOが無い状態で排尿が始められるかどうかはこのUDSからはわかりません。脊髄疾患では排尿の開始が困難となる患者は珍しくありません。随意排尿ができなくても、排便時や、大腿部をたたいたり、ウォシュレットで刺激したりすることで、排尿を開始させることができる、脊髄損傷の患者さんがいます。この患者さんもDOがうまく出たときのみしか排尿ができない可能性は残ります。

また閉塞がなくなると尿意を感じる前に失禁となってしまうかもしれません。失禁のみの排尿だと、排尿をしようとしていないため排尿筋収縮の収縮力が弱かったり、持続時間が短くなったりします。結果として不完全な排尿となりやすくなります。くわえて、有効に腹圧をかけられていないことも、あまり良い所見とは言えません。

その後の経過

手術をするべきか非常に悩んだ患者さんとなりました。手術の危険性は、高齢とはいえすでに全身麻酔の手術を合併症なく行えており、それほどのリスクではないと考えました。しかし、手術をおこなっても導尿が離脱できるかどうかは非常に怪しいところです。ですが、他院で頸椎の手術を断られたにも関わらず当院で手術を行ったように、回復の可能性があるのであれば手術を積極的に受けたいとの価値観をもった患者さんでした。ぜひ手術を受けたいとのご希望にしたがい手術が予定されました。

その後全身麻酔下にTURPを行い、腺腫は8g切除されました。手術後にカテーテルを抜去したところ、失禁、自排尿が出現しはじめました。失禁量は0~300ml、自排尿量は0~100ml。残尿量は100~300mlという経過でした。失禁はありましたが、尿意は比較的保たれていました。当面は導尿継続とし、座位で随意排尿を行うことを勧め、その後の経過を見ることとしました。

しかし、術後ノロウイルス胃腸炎や、マロリー・ワイス症候群などを合併したこともあり、頚髄症術後のリハビリが進まず、ADLの回復が遅れました。認知機能の問題はなかったのですが、ADLは術前考えたほど回復せず、最終的にはほぼ寝たきり全介助の状態となってしまいました。うまくタイミングを合わせてポータブルトイレに座らせると多少自排尿ができ、残尿もやや少ないのですが、寝たままでは排尿開始が困難で失禁があっても残尿が多い状態でした。

手術によって閉塞は解除されているため、膀胱内圧は尿道括約筋の閉鎖圧以上に上昇することはありません。圧が上がる前に失禁で下がるからです。また、もともと排尿筋収縮力が弱いため、それほど高圧蓄尿になることはないと思われます。よって必ずしも導尿は必須とは言えません。しかし、残尿量が多いということは、慢性細菌感染は必発であり、長期的には感染が増悪して発熱をきたしたり、血尿を引き起こしたりするリスクがあります。間欠導尿を行っておくことで、感染悪化のリスクはかなり軽減されますので、この患者さんの場合は、導尿中止にチャレンジすることなく妻による間欠導尿で退院することとなりました。

ADLが回復し、腹圧をうまくかけられるようになれば、導尿を離脱できた可能性があったと思われたのですが、もっとも重要な頚髄症の回復が思ったほど得られなかったということが、結局は一番足を引っ張ったということなのでしょう。