泌尿器科情報局 N Pro

症例039

解説

尿失禁のために老年科から診察依頼のあった、高齢認知症患者さんです。4年来の下肢浮腫があり、エコーにて両側水腎症が判明しました。

提示された情報だけから疾患を導き出すということは、実際の臨床とは少しかけ離れた状況ではありますが、診断を疑う鍵となる所見を知っていて、それを気にしていれば比較的早めに診断にたどり着くことができることもあるので、この症例を提示しました。

今回の鍵となる所見は膀胱のエコーです。

膀胱エコー(排尿5分後)

両側水腎症ですので、一般的には両側の尿管の閉塞か、膀胱内圧の上昇を疑います。排尿5分後ですので多少の残尿はありそうですが、膀胱内圧が上がるほどの大量の残尿量はなさそうです。となると、両側の尿管の閉塞を疑うべきでしょうか。となると、腹部CTを撮影することで答えが見えてきそうです。

実際にこの後で腹部CTを撮影して、想定した疾患でよいのか確認をしているのですが、その前にエコーの所見から、外陰部所見を確認しその時点でほぼ診断を確定しています。そのエコーの所見とは、膀胱三角部の描出不良です。膀胱三角部が恥骨の後ろ側まで落ち込んで陰に隠れてしまっています。これは骨盤臓器脱、膀胱瘤を疑う所見です。おむつをおろして外陰部を確認すると、膣より膀胱が脱出していました。

腹部CT

以上から膀胱瘤による両側水腎症と判断しました。

水腎症の原因が、膀胱瘤による排尿障害からの膀胱内圧上昇が原因なのか、膀胱瘤による両側尿管の膣口での圧迫が原因なのかは、諸説あるようです。

経過
膀胱瘤の用手還納は比較的容易であったので、家族にトイレ誘導前に用手還納を行うことを指導し、デイサービスでは看護師に還納をしてもらうことを依頼しました。かかりつけ医にウラピジル(エブランチル)の処方を依頼しました。
その後、失禁が減少し、加えて両下肢浮腫も消失しました。

腎エコー

水腎も消失。

膀胱エコー

残尿は認めません。