泌尿器科情報局 N Pro

残尿があることで、どのような問題があるかという問いに、明確な回答をするのは困難です。残尿があることで起こる可能性がある問題をあげていきますが、必ずしも問題が起こるということではなく、問題を起こさないことも十分ありますので、判断には注意が必要です。残尿によって起こりうる可能性がある問題としては、
1. 下部尿路症状
2. 腎機能障害
3. 尿路感染
4. 膀胱機能障害 があげられます。

下部尿路症状

残尿がある時点で、すでに何がしかの下部尿路機能の問題があることが疑われます。残尿があるからその症状がでているのか、それとも残尿を引き起こしている病態そのもののが症状を引き起こしているのか、区別は難しいところです。

いわゆる残尿感は残尿によって引き起こされると考えがちです。しかし残尿感を訴える患者さんで実際に残尿があることも時にはありますが、多くの場合残尿感と残尿量は一致せず、残尿感を訴える患者さんでは残尿がないことのほうが多いように思います。残尿感があるために再度排尿しようとするためもあるかもしれません。逆に残尿感がない患者さんに多量の残尿を認めることも珍しくありません。残尿感は排尿後症状に区別されていますが、今一つ病的意義がはっきりしていません。

残尿があることで起こりうる症状としては1回排尿量が減少することによる頻尿です。膀胱容量の半分が残尿となり有効に利用されなければ、排尿回数は単純に2倍になります。導尿を行うことで残尿を排出することができ頻尿が改善しますが、頻尿の為だけに導尿を行うのは、あまり一般的なことではありません。相当にひどい頻尿であれば、導尿は有効な治療となります。導尿以外の方法で残尿量を減らすのは、確実性のある方法はあまりありません。αブロッカーによる治療は多少残尿を減らすことがありますが、頻尿を改善するほど残尿が減るわけではありません。5α還元酵素阻害剤は前立腺サイズを縮小して下部尿路閉塞を改善しますので、症例によっては良い効果をもたらしますが、確実性は高くありません。

腎機能障害

残尿が直接、腎機能を障害するわけではありません。残尿があるために常に膀胱内圧が高い場合、腎盂内圧も上昇し、それによって腎機能が障害を受けます。当然水腎症が認められます。障害の程度は、圧の高さと、その持続期間によって変わります。膀胱内圧が高圧の状態で維持されている間は、腎臓での尿の産生は抑えられますが、導尿やカテーテル留置によって膀胱内圧が下がることで、腎機能は回復に向かいます。あまりにも長期に障害を受けていると、腎皮質が委縮し、腎機能の回復が不十分となります。

この膀胱内圧が高圧に保たれている状態、つまり両側水腎症で発見される排尿障害は、残尿を呈する排尿障害の中では比較的少ない状態です。水腎が出現するほど膀胱内圧が高い状態でありながら、圧が下がらないように尿道を閉鎖しておくか、尿道以外に閉塞部位が無ければいけません。多くの症例では、膀胱が拡張しわずかばかりでも排尿反射が起こることで、尿道括約筋が弛緩する瞬間があるため、膀胱内圧はそれほど上がりません。前立腺肥大では常に尿道が前立腺によって閉塞しているため、尿閉の状態で膀胱内圧が高く保たれることは珍しくありません。神経疾患で水腎が出現するのは、膀胱コンプライアンスの悪化、DSD(排尿筋尿道括約筋協調不全)、尿道括約筋過活動などの病態を来たすものに多く、絶対ではありませんが脊髄に病変がある場合が多い様に思います。

逆に考えれば、残尿があっても、腎機能障害をきたすことは比較的少ないということです。水腎から腎障害をきたすよりは、後述する感染のために腎機能が低下することのほうが多いと思います。