泌尿器科情報局 N Pro

排尿自立指導料クイズ(泌尿器科医向け)2-2

解説

1. 多発性硬化症では尿道カテーテル抜去後に尿失禁があり残尿が無ければUDS(尿流動態検査)まで行う必要はない。

多発性硬化症では、脊髄にも病変が出現するため、DSD(排尿筋括約筋協調不全)を来していることがまれではありません。尿失禁があり排尿のコントロールができていませんので、なにがしかの問題がありそうです。残尿が無いことだけで問題が無いと言い切るのは、無理があります。若年の患者さんも多い疾患であり、長期的な腎機能、膀胱機能、QOLを維持するためにできうる介入は行っておくべきであり、UDSをためらうべきではありません。場合によっては、低コンプライアンス、DSDによって高圧排尿、高圧蓄尿となっているかもしれず、抗コリン剤や間欠導尿が必要かもしれません。

当然、症状や神経所見、神経画像所見、尿路のエコー所見などの様々な所見を踏まえた上で、UDSを行わなくても問題のおきる可能性が低そうであると判断ができれば、UDSは必須ではありません。ただしその場合でも、定期的な経過観察は継続が必要でしょう。

2.1,000mlの尿閉で尿道カテーテルを留置した。7日後にUDS(尿流動態検査)を行ったが排尿筋収縮は無く、自排尿への回復は困難であると判断した。

UDSの結果はそのときの状態を表していますが、その結果が未来にわたりずっと続くかどうかは、病態生理を考えたうえで判断を行わないといけません。この場合UDSは7日前の1,000mlの尿閉の影響を受けており、排尿筋収縮が無いことは、必ずしももともとの排尿状態を表していません。今、排尿ができない理由は排尿筋収縮が起こらないためだと判断できますが、尿閉となってしまった原因は、それからは分かりません。

これまで、この選択枝のような判断をされた患者さんをたくさん見てきました。確かに、その時点では尿閉であったのでしょうが、永遠に回復しないという判断はそう簡単に下せるものではありません。必要の無いカテーテルが急性期病院で入れられている、という批判はこのようなケースも含まれた結果なのかもしれません。内科医は尿閉の患者さんが発生すると泌尿器科依頼をするだけで後は知らぬ顔ですが、泌尿器科医は勇気をもって内科医に回復の可能性は急性期病院入院中には判断がつかないことも多いのだと伝えてください。当然、回復の可能性が高い患者さんについては、主治医判断で回復をあきらめて尿道カテーテル留置のまま退院となってしまわないように、主治医を説得する必要があります。

3. 尿閉のため尿道カテーテルを留置し、その後カテーテル交換の際に膀胱内に生食を注入し、自排尿が可能であるかを判断した。3か月後の交換時にも自排尿ができず、回復は困難であると判断した。

カテーテル抜去テストを行っている泌尿器科医は少なくないと思います。海外の論文にもこのような方法をとっているものが時々あります。排尿機能が回復することで、多くの症例ではこのようなカテーテル抜去テストで自排尿を行うことができます。しかし、カテーテル抜去テストで排尿ができないからと言って、排尿機能が回復していないと言い切ることもできません。

手術を受ける前に正常な排尿状態であった患者さんにも、ときどき手術後のカテーテル抜去後に尿閉となる患者さんがいます。文献的に手術後尿閉というカテゴリーのものが多いので手術後の例を挙げましたが、経験的にも高齢者では単にカテーテルを留置しただけでもカテーテル抜去後に一時的に尿閉となる患者さんがいます。そのような患者さんでは、数日間欠導尿を行うことで尿閉を離脱することができます。

カテーテル留置で尿閉となってしまう患者さんがいるのですから、カテーテル抜去テストだけで、回復の可能性を判断するのは望ましいこととは言えません。また、逆のケースとして、カテーテル留置によって一時的に前立腺肥大症が軽快し、カテーテル抜去直後は自排尿もしくは失禁があっても、数日で再度尿閉となってしまう場合も、まれに遭遇します。

カテーテル抜去パス(参考文献1参考文献2)は最近のトピックスだと思いますが、このような視点でパスを眺めてみてはいかがでしょう。