泌尿器科情報局 N

PSA検診 前立腺がん検診について2

2.がんを治療する際の問題

がん検診を行う最大の目的は、早期発見早期治療です。ほかっておくと命を奪われてしまうがんを、治せるあいだに見つけて治す、とういうことを目標に行います。しかし、前立腺がんは普通のがんと少し違った特徴を持っているため、この早期発見早期治療の中に、いろいろな問題を含んでいます。

一つの問題は、がんを発見してもすでに手遅れとなってしまっている患者さんが少なくないということです。早期の前立腺がんを手術した場合と手術しなかった場合とで比べた海外の研究がありますが、前立腺がんで死んでしまう患者さんは、手術をしても3分の2に程度にしか減りませんでした。前立腺がん検診では、がんで死んでしまう患者さんの3分の1しか救えないわけですので、検診に過大な期待を持ってしまうことは問題があると言えます。

もうひとつの問題は、先ほどの問題とはまったく逆の話になるのですが、普通の前立腺がんの進行は非常に遅いことが多いということです。がんは正常なからだの組織と同様、細胞でできています。細胞は細胞分裂といって一つの細胞が二つになることで増えます。ですので、がん細胞が増えるときは、倍々のペースで増えるということになります。この倍々で増えるペースが前立腺がんは他のがんに比べると非常にゆっくりであることが多く、たとえば倍になるために数年かかるということが珍しくありません。そのため、たとえ前立腺がんがあったとしても、がんが増えるまでに10年や20年かかることが良くあります。さて、がん検診を受ける方は、10年後や20年後にどうなっているでしょうか。長生きする方もいるとは思いますが、平均値で言えば男性は80才前後で亡くなることも多く、前立腺がんが増える前に天寿を全うできる方も大勢いると思われます。となると、そのようながんを早く見つけて早く治す必要があるでしょうか。これが、過剰診断、過剰治療の問題です。

とはいえ倍々のペースで増えるネズミ算方式では、初めの増え方は遅くても本当にがん細胞が増えてしまうと、その増え方は最初に比べるととてつもない速度でがん細胞が増えることになり、やはり前立腺がんも、普通のがんと同様、命を失う理由になってしまいます。見つかったがんが、どのぐらいのペースで増え、生きている間に困ったことを引き起こすかどうかは、ある程度の危険性を判定することは可能ですが、残念なことに今の技術で完全に判断することは不可能です。そのため、がんが見つかってしまうと、たとえ命にかかわる可能性は低いと分かっていたとしても、わずかな可能性が心配となり、治療を受けることとなってしまいます。

PSA検診をうけますか?

この二つの問題。早期に発見したとしても救える患者さんが少ないという問題と、ほかっておいても人生になにも影響を与えないがんを見つけてしまうという問題があり、PSAによる前立腺がん検診を行うことが、どの程度メリットがあるかということは、ながらく議論となっています。海外で前立腺がんの患者さんを手術した場合と、手術しなかった場合とで比べた研究では、10年後に生き残っている確率はわずか5%程度しか変わらなかったという結果が出ています。つまりPSA検診を行うことで、前立腺がんでの死亡を少しだけ減らすことはできるが、そのためにはかなりの人数に対して、結果として無駄となる検査や手術を行わなければならない、ということです。

現在の長寿社会は、少しずつの努力の積み重ねで成り立っています。この長生きのための努力を行うかどうかは、一人一人の患者さんが考えて決めることです。気軽にできる前立腺がん検診ではありますが、その先の治療のことまで考えると、さてあなたはPSA検診を受けるべきでしょうか。ぜひ、禁煙や減塩、運動など健康維持に努め、大腸がん検診などほかのがんの検診も忘れず受けるなど、長生きのための努力をしたうえで、PSA検診を受けていただきたいと思います。