前立腺がん検診で異常といわれたら(PSAが高いといわれたら)2
MRI検査
前立腺生検を受けるかどうかを迷う場合には、MRI検査を行ってもよいかもしれません。昔のMRIでは前立腺がんの有無はあまり判断ができませんでしたが、最近ではMRIの性能が上がり、少なくともひどいがんの有無ぐらいは判断できるようになりました。性能のよい装置であれば、かなり小さな病気も見つけられるようになってきています。とはいえ、怪しい部分があったとしても、すごく怪しいという所までは言えても、絶対そうであるとは言い切れませんし、逆に怪しい部分がなくても、弱いがんはMRIに写りにくいためにがんが絶対無いと言い切ることもできません。そのためがんがないと安心したいのであれば、前立腺生検を省略することはできません。では、MRIは無駄かといえばそうでもありません。前立腺生検で検査がやりにくい場所に、がんが疑われる部分が無いかどうかの判断ができます。また前立腺生検を行うと出血のためにしばらくMRIの検査がきれいに撮影できなくなってしまうため、がんが見つかった場合には、前立腺生検を行う前に撮っておいたMRIで、見つかったがんが前立腺のどの部位にまで広がっていそうかの判断ができます。
前立腺生検を行うか?
現時点でがんがあるかないかの判断のための最も正確な検査は前立腺生検です。しかし前立腺生検には多少危険性が伴います。前立腺性生検の前にいろいろな検査を行って、前立腺がんが隠れている可能性を多少判断することができます。あくまでも可能性です。また予測は当たらないかもしれませんが、もし前立腺がんがあると仮定した場合にそのがんがどのぐらい人生に悪影響を与えそうか、ということもある程度は予測がつくかもしれません。当たるかどうかは別として、その予測を受け入れるのも一つの選択肢です。しかし多くの場合、がんで死ぬかもしれないという予測は受け入れたくないものです。そうであれば、早期発見、早期治療をめざすことになります。前立腺生検を行って、がんがあるのかないのかをはっきりさせましょう。
検査を受ければ絶対大丈夫?
とはいえ、前立腺生検をうければ絶対大丈夫なのでしょうか。残念ながらそうとは言えません。前立腺生検を行っても、ものすごく小さながんは見つからないかもしれません。今現在がんが無かったとしても将来がんができるかもしれません。
また、もしがんが見つかった場合、検診で見つかっているからと言っても必ずしも早期がんであるとは限りません。検査では早期と判断されたとしても、根治治療をおこなった数年後にがんが再発してくることはまれではありません。そのような患者さんでは手術の時にすでに早期ではなかったわけですが、現在の検査技術では転移が見つけられなかっただけということです。
がんが見つかったら
前立腺がんが見つかったのであれば、100%治るという保証はないとしても、治る可能性を目指したくなるのが普通の反応です。がんが見つかった場合に選択する治療選択肢は大きく分けて4つになります。
手術
放射線治療
ホルモン治療
経過観察
このうち、検診の目的である早期発見早期治療のメリットが得られると考えられるのは、手術と放射線治療を行った場合の一部です。メリットが一部の患者さんに限られるのは、根治が得られない場合があることと、がんの進行が遅いため治療を行わなくても人生に影響しない場合があるためです。
治療選択肢に、手術と経過観察という、まったく両極端の選択肢が並んでいることは、とても驚くべきことだと思います。しかし、進行が遅いことの多い前立腺がんでは、この選択は非常に悩むことが多いのです。少し古い海外の調査ですが、早期前立腺がんの患者さんを、手術した場合と治療をせずに様子を見た場合とで、どちらがどの程度長生きできるかを比べた調査があります。それによると、5年後に生きている可能性は、手術をしてもしなくても違いはなく、10年後になってやっと5%程度の差がついたという結果でした。あくまでも生きているかどうかだけの比較で、転移がある確率なども別に考える必要がありますが、手術をしなくても5%しか10年後に生きている確率が違わないということは、手術を受けるかどうかを決める際にとても大きな意味を持ちます。
10年後に5%生きている可能性を高くするために、前立腺がんの早期発見早期治療を目指したいと考えるでしょうか。検査や手術の危険性やデメリットを考えると、非常に悩ましい判断です。PSAが高くてがんが隠れている場合、運が悪ければ前立腺がんで10年後に死んでいるかもしれません。早めに検査をして根治治療を受けておけば、その確率を少しだけ下げることが可能です。でも下がられる確率はそれほど大きくありません。もし、少しだけ損をすることが覚悟できるのであれば、がん検診で異常と言われていても、もう少し様子を見てもよいかもしれません。
結局どうすればよいのでしょう
検診の本来の目的は早期発見早期治療であり、根治治療を行う気持ちが無いのであれば、PSA検診で異常を指摘されたとしても、必ずしも精密検査は受けなくてもよいかもしれません。とはいえ、もし根治できないとしても、将来命にかかわるがんを見つけておくことは、それに備えて人生設計を考えておけるメリットがありますので、進行が早いかもしれないがんを見つけておく意味はあるように思います。目標をどこに持つかによって、PSA検診で異常がみつかった場合に選ぶ選択肢は変わってきます。
1. 早期発見早期治療を目指す場合 → 前立腺針生検
2. 少ししか長生きにつながらないのならなるべく痛いことはしたくない → PSA経過観察
3. 命に関わるがんがありそうかどうか知っておきたい → MRI検査
1. 前立腺生検
早期発見早期治療を目指すのであれば、がんがあるのかないのかをはっきりさせるため、早めに前立腺生検を受けましょう。がんがもし見つかってしまったら、手術や放射線治療を行って根治をめざしましょう。それによって前立腺がんで死んでしまう可能性を少し減らすことが可能になります。
2. PSA経過観察
もしがんとわかっても手術や放射線治療をうける気持ちを持っていないのであれば、がんを早く見つけるメリットはそれほど高くありません。3~12か月後にPSA検査をもう一回うけて、数値が増えるかどうかを調べます。もしがんがあれば数値は増えるでしょうし、がんが無ければ数値の増え方は少ないはずです。数値が増えたら前立腺生検を受けるという方針であれば、多少がんと診断される時期は遅くなりますが、がんではない患者さんがむだな検査を受けることが少なくなります。
3. MRI検査
そんなに長生きをしたいわけではないけど、がんかもしれないといわれたままにしておくのは不安だ、というのが普通の人の感覚でしょう。MRI検査では弱いがんは映らないかもしれませんが、強いがんは映ることが多いようです。そのためMRIで異常がなければ、がんが無いとは言えませんが今後数年はがんが命に関わる可能性は低いと言えます。ただし、数年後にがんが見つかる可能性や、その際に根治できる可能性が下がってしまっている可能性は否定できません。