泌尿器科情報局 N

前立腺肥大症手術の選択肢

前立腺肥大症の手術方法についての解説です。一般的には尿道を通して内視鏡、つまりカメラを使って手術を行います。お腹を切って手術をする必要はほとんどありません。麻酔は半身麻酔で行うことが普通です。一昔前までは前立腺肥大症の内視鏡手術は名人の手術であり、術者の腕によってずいぶんと安全性や成績が違いました。現在ではずいぶん機器が発達し、名人で無くてもある程度は安全に手術ができる時代になってきています。とはいえ、差は減っているとはいっても、やっぱり術者の腕がよい方がいいのは当たり前です。

手術の合併症として、痛み、出血、細菌感染症、手術効果不十分、尿失禁、射精障害、尿道狭窄などがあります。合併症がおこらなければ、多くの病院で1~2週間前後の入院です。ごく一部の病院に限られますが、日帰り手術を行っている病院もあります。

TURP(モノポーラーTURP)

一番古くからある前立腺肥大症の内視鏡手術です。電気メスを用いて前立腺を少しずつ削り取ってゆく手術方法です。術者の腕さえよければ今でも最もバランスのよい手術方式です。永らく前立腺肥大症手術のGold standardと言われてきました。しかし、相当に腕を必要としますので、あまり得意でない術者が行うと、合併症が多かったり、思ったような手術効果が得られなかったりすることが良くありました。スタンダードとは言いつつも、新しい手術方法が常に求められていました。

前立腺を切れば出血があるのですが、それを洗い流さないとカメラはすぐに見えなくなってしまいますので、手術中は洗浄液を大量に使います。この手術中に使う洗浄液の流し方によって、持続灌流式と間欠式の2通りの方法があります。

 1. 洗浄液を流すのを一方通行式として、膀胱内に洗浄液がいっぱいになったらカメラを抜いて洗浄液を流しだす、入れたり出したりを交互に繰り返す方法が間欠式です。前立腺肥大症の内視鏡手術で最初に考えられた方法です。
 2. カメラに洗浄液を入れるための通り道と、洗浄液を吸い出すための通り道の二つの通り道を備え、ずっと洗浄液を流し続ける方法が持続潅流式です。

日本に初めに導入されたのは間欠式で、東日本の病院では間欠式を採用している病院が多くあります。一方、西日本には少し遅れて導入が始まったため、西日本には持続潅流式で手術を行う病院が多くあります。

一概にどちらの方法が良いと決めきれず、手術をする先生が慣れた方法で行うのが一番よいのですが、全国平均値と比べて平均でどちらが安全かというと、持続灌流式の方が手術中の合併症がやや少なく安全です。しかし、持続潅流式にも弱点があり、2方向の洗浄液の通り道を備える関係上、少しカメラが太く手術後の尿道が狭くなってしまう合併症が少し多めになります。また手術中はずっと洗浄液が膀胱にたまっているため、手術後数日間は膀胱の力が低下するために、手術後にうまく尿が出せない合併症が少し増加します。手術中の合併症がおこらないように上手に手術ができれば間欠式の方が合併症は少なくなり、名人が行えば他のどの手術方法よりも安全に手術が行えます。両方の手術方法をできる術者は少なく、どちらかの方法しかできないことが多いと思います。繰り返しますが、手術をする先生が慣れた方法で手術をすることが一番安全です。ちなみに管理人は間欠式しか使うことができません。

TURisP(バイポーラーTURP)

モノポーラーTURPからの変更点は、電気メスの電極を両極式にすることで、手術中に使用する膀胱内の洗浄液に生理食塩水を使うことができるようにした点です。モノポーラーTURPでは電気メスの電流がほかの方向に流れて行ってしまわないように、洗浄液の中には電解質(イオン)を入れられません。手術中にこの洗浄液は出血している血管の穴から血液の中に入っていきます。洗浄液がたくさん血液の中に入るとイオン濃度のバランスが崩れてしまいTUR症候群という異常をおこすことがあります。バイポーラーTURPでは洗浄液に生理食塩水というイオンバランスの崩れの心配がない成分を使います。

発売当初はモノポーラーTURPでTUR症候群が多い、つまり成績が悪い施設が率先して購入したため、TURisPの治療成績はモノポーラーTURPよりも悪いという報告がされてしまいました。実際には同じ病院の導入前後で比べればTURisPの成績はモノポーラーTURPよりも良好でした。成績の悪い施設の成績が多少良くなったとしても、まだまだ成績のよい施設には及ばなかったということです。道具も大事ですが、結局は術者の腕が一番大事ということです。TURisPでTUR反応は減るのですが、電気メスで血を止める能力が少し弱いため手術後の再出血が多いかもしれません。もともとTUR反応を起こさずに上手に手術を行っていた病院では切り替えるメリットは少ないといえます。