泌尿器科情報局 N

前立腺肥大症の薬物治療2

抗コリン剤

ソリフェナシン(ベシケア)、フェソテロジン(トビエース)、イミダフェナシン(ウリトス、ステーブラ)、トルテロジン(デトルシトール)、プロピベリン(バップフォー)など

もともとは排尿の我慢が弱くなった患者さんに使用する薬剤です。前立腺肥大症でも排尿の我慢が弱くなることがありますが、膀胱にある神経伝達をブロックすることで、軽く膀胱を麻痺させ、それによって我慢をそれほどしなくてもよいようにすることができます。

抗コリン剤によって膀胱の力が弱くなるため、尿の出方が悪くなることがあります。もともと前立腺肥大症によって尿の出方が悪くなるため、抗コリン剤でさらに尿の出方が悪くなり、ひどいと尿が出ない状態になってしまう場合があります。そのため抗コリン剤を前立腺肥大症の患者さんが使用する場合には、泌尿器科専門医で定期的にチェックをしてもらう必要があります。

β3受容体刺激剤

ミラベグロン(ベタニス)

抗コリン剤と同様に、排尿の我慢が弱くなった患者さんに使用する薬剤です。抗コリン剤よりは膀胱の力を弱くする副作用がすくないため、比較的使用しやすい薬剤ですが、まったく危険性が無いというわけではありませんので、前立腺肥大症の患者さんが使用する場合には、泌尿器科専門医で定期的にチェックをしてもらった方が良いと思います。

その他

植物製剤(エビプロスタット、セルニルトン、ノコギリヤシ)、クロルマジノン(プロスタール)、アリルエストレノール(パーセリン)など

植物製剤は古くから使用されているものですが、これまで大規模な調査が行われていませんので、実際どの程度の効果があるのかは定かではありません。ほかに効果が確認された薬剤が多数ある現在では、あまり使用する機会はなくなってきています。副作用がほとんどなく、安全に使用できるという点で有用です。

クロルマジノン、アリルエストレノールは、以前までは前立腺を小さくする薬剤として重宝されてきましたが、デュタステリドが発売されてからはほとんど使用することはなくなっています。

薬物治療の選択

前立腺が小さい場合

αブロッカーもしくはPDE5還元酵素阻害剤を使用します。

前立腺が大きい場合

5α還元酵素阻害剤を使用します。ただし効果が表れるまでに時間がかかるため早く症状をよくしたい場合には、αブロッカーを合わせて使用します。

排尿の我慢が弱い場合

まずはαブロッカーを使用します。効果が不十分な場合には、尿の出方が悪くなる副作用に十分注意しながら抗コリン剤もしくはβ3受容体刺激剤のどちらかを併用します。

薬物治療で効果が不十分な場合

効果が得られない症状によって優先順位は変わりますが、以下のような選択肢があります。

我慢する、またはあきらめる

尿が出なくなってしまわなければ、前立腺肥大症で死ぬことはほとんどありません。我慢できるのであれば、必ずしも症状をなくす必要はありません。

手術

ちゃんとした手術ができれば前立腺肥大症はほぼ治癒します。困っている症状が前立腺肥大症のために起こっているのであれば、手術は非常に有効な治療法です。もっと言えば、薬物治療で満足できる効果があったとしても、薬はずっと続ける必要がありますから、早めに手術で治してしまうのも悪くない選択肢だと思います。

生活改善

前立腺が大きくなり尿の通り道が狭くなり、尿が出にくいという、前立腺肥大症の本来の症状については、生活の工夫などではあまり改善することはありません。しかし、前立腺肥大症のためと思っている症状の一部は必ずしも前立腺肥大症のために起こっているとは限りません。とくに、尿の回数などは、前立腺肥大症の影響で増えている場合よりも、ほかの要因で増えている場合の方が多くあります。そのような場合、水分を制限したり、減塩に気を付けたり、むくみ対策や、不眠症治療を行った方が症状が改善することが良くあります。

薬物治療の変更

違う種類の薬剤に変更したり、追加したりすることで症状が改善することがあります。もしくは同じ種類の薬剤であっても成分が違う薬剤に変更することでも、多少症状が改善することがあります。

いずれにしても、前立腺や膀胱の状態をしっかり判断できる、泌尿器科専門医で相談し、自分にあった治療を選ぶ必要があります。